5―10 ・砂時計が横たわる時
誠に申し訳御座いません。
1話、抜けておりましたストーリーを更新致します。
この事は、言葉を謹んで、口にしないで下さいね。
そう穏やかな表情を浮かべた少女は、念を押す。
けれども、それは何処か狂気を逸した様な頬笑みで
何故かそれに危機感を感じたのは気のせいではないだろう。
時々にして、語られる
風花の過去話は壮絶を絶するもので、言葉を喪ってしまう。
一体、生ける限りにして、どれほどの苦行を少女に与えられるのだろうか。
ふと、携帯端末が震えた事に気が付いた。
滅多に入らない連絡。画面が表示する相手に
圭介は眉を潜める。………相手は、育ての親___祖母からだった。
「………え」
メールの文章に呆気に取られた。
___クライシスホーム・事務所。
照明の明かりはひとつ付けられていない。
ただ暗い部屋には、パソコンの明かりだけが煌々(こうこう)と、その前にいて、神妙な面持ちを浮かべているのは
漆黒の少女。
夜番と称して、風花は事務所に引き籠る。
否。今、それは当てはまらない。スケジュールは把握していて
今は私用で此方に引き籠もっている。
(嗚呼、世の中とはなんと、機微で狭いものか)
誰にも知られたくない情報を静かに探っていた。
パソコンのメールフォルダには、新着メールがひとつ。
“北條 風花様
依頼されていた情報を、送ります”
相手は、警察。警部補。
北條家は身元不明者、無縁仏の埋葬も委託されている、
全て信頼を寄せる北條家に一任される___
そんなコネクションを逆手に取る形となった。
表情をひとつ変えないまま、
風花は送られてきたメール内容に吟味する様に目を通す。
カチカチ、とキーボードを操る音だけが静寂な空間に響いた。
開かれた機密の情報開示。
(…………)
画面を見詰めながら、風花は怪訝な顔をした。
“例の物”は、中々見つからない。
___アルビノ監禁暴行事件。
フィーアが長年、拘束されていた事件だ。
地下ではアルビノの子供達“だけ”が集められ、監禁されていた。
表向きは、死者13名。
アルビノの子供達は皆、命を落とした。
生き残ったのはフィーアだが、世間には絶対に知られていない。
そして、知られたくもない。
(心の傷を抉られる程に、残酷なものはないのだから)
けれど
この事件の経緯も、そのものも謎が多い。
そもそも逮捕された者がアルビノの子ども達に関与したか
アルビノの子供達の素性、個人情報は探っても何もなかった。
フィーアと出会った時だってそうだ。
フィーアは何一つ、自分自身の個人情報を知らなかった。
記憶喪失でもないらしい。
アルビノの子供達は、どういう経緯で集められたのか。
警察も事細かに調べたらしいが、裏は出てこなかった。
実質的な
警察の右腕的な存在である、北條家の頼みを警察は断らない。
それに「北條家の跡継ぎで当主の孫娘」という立場を利用すれば尚更。
機密情報も頼めば閲覧可能で、
誰にも内緒のうちに、フィーアと関わりのあるこの事件を風花は内密に調べていた。
送られて来たのは、
アルビノ事件で関わり、命を落とした子供の名簿。
しかし名前がない為、推定年齢と性別しか解らない。
幼児3名、10代が6名、20歳前後が3名。
解剖医が下した決断は、そうだ。
医師によれば、引き取った頃は衰弱が激しく
自身と同じ年頃だと言われていたが、今の回復したフィーアは
20くらいに見えると言われた。
風花はパソコンの前で頭を机に持たせ、
物憂げな面持ち共にその眸を閉じた。
『皆の中では、私は年上だったから』
本人がそう言っていた。フィーアは
アルビノの子供達の中でも一番の年長者だったらしい。
現にそうだろう。他は皆、10代か、それ未満の子供ばかりだ。
(___詮索はしない主義だったのに)
風花は、自身で自身を不思議に思う。
普段なら、こんな事はない。
だが。
フィーアがいつか言っていた。
いつか、自身の素性が知りたいと。
他人に興味がない風花だが
フィーアには沢山の借りがあって、頭が上がらない。
気遣い屋で、いつも傍に居てくれる彼女には感謝だって覚えている。
だが。
(私は恩返し一つ出来ていない)
貸したままの借りは嫌だ。
何かにつけて返さないと、何処かでそう思っていた。
しかし、これだけでは解らない。
犯人は今年、無期懲役の判決が下されたが
逮捕されて以降、一貫して黙秘を貫き何一つ語らないのだ。
探れる何かは無いだろうか。
時計に視線を移す。
一瞬だけ、躊躇ったが、まだ時間はありそうだ。
善は急げ。
携帯端末を取り出すと、メールを送ってきた責任者に、電話をかける。
「……北條です。情報提供、有難う御座いました」
『いいえ。何かお役に立てましたかな』
「……はい。申し訳御座いません。
………あの、お尋ねしますが名簿の他にアルビノの子供達の、ご出身とか把握していますか?」
『それは……………』
途端に口籠る相手に、風花は諦観を抱く。
無いか。無いだろう。警察でも探れなかった情報なのだから。
だが。
『あ、そうそう。
………これは確定ではないですが、
恐らく、アルビノの子供達は全員 日本国内で拉致・誘拐されたそうです』
「____国内で?」
『はい。
ですので、幼少期に行方不明になりましたお子様の情報と
この事件に関連がないか、現在照らし合わせている所です』
風花は、驚いたまま、動けなかった。
【お詫び】
重ねてお詫び申し上げます。
この度は、読み手様を混乱させる形となり
大変申し訳御座いません。
ストックとして、いくつかストーリーを書いており
日付が変わり、連続投稿、更新する過程で、
あろうことか順番を間違えてしまいました。
そして5章の数話ミスも今更、気付く形となりました。
不備、お詫びだけは済まされない話となりますが
重ねて、この度は誠に申し訳御座いませんでした。
猛省と共に、精進致します。




