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5ー6・少女達、終わりなき想い

最後、少し過激な台詞がありますので

ご注意下さいませ。




 直哉のこと

自分が生き続ける限り、忘れない。


 否、直哉が生きていたという事実を、

直哉を殺めたあの男に知らしめる為に、自分自身も北條家

に居座り、表向きの孫娘としての立場に執着しているのかも知れない。



(…………)



許さない。



自分自身も、あの当主も。











地下室の廊下。






「………あ、ごめんなさい」

「良いけれど……それより顔色、悪いわよ? また貧血?」




 フィーアは風花の顔を包んで、心配そうに凝視する。

その刹那。赤と黒の瞳が、視線が交わった。



 陶器の硝子細工の顔立ちに宿った薄幸感。

彼女の表情は変わらない。

いつも通りに何処かぼんやりと読めない顔色をしている。




(………大丈夫かしら)




 “あのショック”から立ち直ったみたいだが、

気は抜けない。凛とし冷静沈着な姿勢を見せていても、

元は名の如く花の様に繊細な少女なのだ。





 あの本当のお嬢様は、自分自身が脅しておいた。


強気でしたたかと思っていたイメージだったのに、意外にも脆い。

効果があった事を願って、華鈴は暫く風花に近寄らないだろう。


……それも、ただの短い時間薬だが。



(………なるべく長目に、聞いてくれれば良いのだけど)




 直哉の代わりは出来なくとも

風花の姉代わりになれるのなら、良いと思ってきた。

この少女に出会わなければ、絶望仕切っていた自分は再び歩き出す事も、こう穏やかな気持ちで過ごせる事もなかっただろう。







 珈琲の、苦い味が口に広がる。

飲み干した後で壁に背を預け、圭介は華鈴の事を思い出す。


「………」


 風花が現れた途端に、華鈴は仏頂面のまま逃げた。

まるで見付かったら不味いと言わんばかりに。




 ただ。




「何か用があるのかな」

「ええ、勿論」



 なるべく避ける様に圭介は呟く。

しかし華鈴は上目遣いに見詰めて、意味有りげに微笑んだのだ。 

 けれども圭介は華鈴を見ない。


 誰かを貶め、蹴落とそうとする人間性は呆れ果てた。

誰かに責任転嫁する性格も、現に略奪癖だって。





「ねえ、風花に近寄らない方が良いわよ」

「どうして?」


 媚びた声音が、悪い印象を与えている。

風花と関わる人物である限り、少女をはね除ける事は出来なさそうだ。


 圭介は諦めて華鈴に視線を向け、問う。




 圭介の問いに、華鈴はくすっと笑う。

あの少女の立場も評価も落とせるのなら、手段なんて選ばない。

 風花のものはなんでも欲しがる、とジェシカに言われたが

本来は自分自身に与えられるはずだったもの。

それらを取り戻しでいるだけだ。


自身の事を棚に上げて華鈴は風花の事をずっと恨み、嫉妬してきた。


だから、風花の周りに人がいる姿なんて見たくない。




「あの子に近付くと危ない目にも遭うし、不幸を連れてくる。

知らないかしら。ジェシカは風花を連れてきてから

『孤児みなしごを連れてきた女』って陰口を言われて来たし」




 華鈴が言っている事は、大方は虚言で嘘。

『聞く耳を持つな』とフィーアから重々、言われている。


 だから少女の妬みと戯言だと思い、聞き流していた。



「もう知ってるよ。北條の事情は全部な。

じゃあ、こないだのあれはなに?


風花ではなく、君が蒔いた種じゃないか」

「…………っ」



 華鈴は、むくれた。

青年は卑怯だ。よりにもよって何故、居心地悪い案件を出してくる。



「ふん。あれだってね。

風花が自分で蒔いた種なの。あたしは犠牲者よ?

あの子にあたしは、北條家の立場を奪われたんだから。


寧ろ、同情してくれない?」


「同情は、強要されてするものじゃないよ」



 軽く耳を傾ける程度に聞いていなかった。

華鈴は、自身の祖父が風花の双子の兄を殺めた事は知らない。

全ては自身から立場を奪った嫉妬心から、風花を許せないらしい。



 自分勝手な思惑。




(身の程知らずの、被害妄想だな)




 だが。


一つ、気になる事を言われた事、以外は。



「もうあんたも風花の犬ね。

でもあの子を信じたら裏切られたも同然よ?」

「なんとでも言えばいい。僕はもう既に裏切られた人間だから。



それに___人を陥れる人間は好きじゃないんだ」





 酷いだろう。醜いだろう。

圭介は既に自身を産んだ後に姿を消した母親に、裏切られている。


 けれど彼女とは付き合いたくはない。

だから、敢えて素っ気なく冷たい言葉で返した。



(この人も、フィーアと同じなのね)




 華鈴は怒りを感じた。

フィーアを思い出す。今の圭介の態度はフィーアと一緒だ。

即ち、風花側の味方になるという事を証明しているのだから。


どうして、誰も自分自身を選んでくれないのだろう。



 衝動が走る。

華鈴は、ある事を口にした。





「いい事を教えてあげる。フィーアがいるでしょ?」

「ああ」




「あの子ね、実は北條家に来てから___」




 強姦されたのよ。



 その瞬間。

そう聞いて、ぞっとした。





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