思いがけぬ出逢い
___列車が去ったあと。
警報の後で、遮断機は上がって真っ直ぐに立つ。
____列車、通り過ぎてしまった。どうしてくれるんだよ。
半分、自暴自棄的になり、俺は今も尚、居る少女に言った。
「止めに来たのか」
「____いいえ?」
透明感のある、冷めた氷の様な声。
少女はあっさり冷たく返して、あっさりとこう言ったのだ。
「人は毎日、誰かが生まれて、誰かが死ぬわ。
命は尊いものだけれど、
貴方一人が、
今、命を絶って死んだ処で世界は何も変わらない。
私はただ、誰かが死ぬんだって見ていただけ。それ以外は何もない」
少女は、
機械の様に淡々とそう言って居るが、言っている事自体は正論だ。
人は少なからずに日々、生まれて死す。今の自分は死す方だろう。
そう思っていると、首を傾けている少女は口を開いた。
「邪魔してごめんなさい。
次の列車ならまた来るでしょう。邪魔はもうしないから
さあ、お好きにどうぞ。
"生"を断ち切りたければ、
自分自身でやればいい。自由は約束される。
それを選ぶのは個々の自由でありその人の感情。
……私には興味ないの。好きにすれば良い」
自殺を止めるシーンは見た事あるけれど、
自殺を勧めるシーンは見た事ない。言葉自体も初耳だ。
さらさらな髪が、優雅に風に揺られている。
凛とした端正な顔立ちながらもその顔に浮かんだのは無の表情。
この少女が分からない。全く真意が読めやしない。
人に声をかけた割りには、止めはしない。寧ろ止める事なく勧める。
人は意外なものに出逢うと呆気に取られる様に
俺は思わず、呆然とした。……拍子向けしてしまったらしい。
____この少女は一体、何者なんだろう。
飄々として、なんの空気も纏わない。
その場の空気や雰囲気に合わせて、それに溶け込み染まり込んでいく。
存在感そのものが、無情な少女だ。けれど。
鳩が豆鉄砲を食らった様な顔は、なんとも間抜けだろう。
ぼんやりしている俺に彼女は呟く。
「……でも、線路内に飛び込んでいくのも良いけれど。
本来、此処は死ぬ為の場所じゃないの」
まあ、彼女の言葉は、大体合ってる。
遮断機も注意を払うものであり、線路も飛び込む為にあるんじゃない。
けれど。
なんで彼女は俺に構うのだろう?
そろそろ解放してくれないか。
俺は、俺を終わりにしたいんだ。
だから、こんな無駄話なんか、どうでもいい。
「俺に構ってどうする? もう良いんだよ。
此処が俺の死に場所になるのは最初から分かってる。
君は逃げて。
元から関係ない子なんだから関わることなんてないよ」
俺の言葉に、少女の表情も行動も微動打ひとつしない。
時折にふわりと淡い風に揺られて、長い髪が涼しげ揺れるだけ。
黄昏の他愛のない、最期のやり取り。
基本はただ俺を見据えては言葉を吸い込む様に聞いていて。
そして。
「……そう。貴方の決意は分かった。
『でも私。誰も知らない此処よりも
"最期の場所"を知ってる。とても良いところ。
いなくなっても、誰にも見つからない。
良かったら、其処に案内しましょうか____?』
無情な声音。
その形の良い綺麗な指先と手を、此方に伸ばして手招きする。
その瞬間、錯覚か。無表情な少女の口元が緩んでいる気がした。