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(青年)




 そもそも、この人生を終わらせようと、

自分自身は、どうして此処に居るのだろう。




 出来る限りの、自分の過去の記憶を辿って見る。






俺は、長野圭介(ながのけいすけ)という。


年は、今年で成人を迎えた20歳。

文学部に在籍している大学2回生。


 何処にでもいる普通の平凡な人間。

けれど、俺は幼い頃からずっとこの世界に居るのが、


_____"苦痛"以外の何モノでしかなかった。




 思えば、俺の"孤立"は、

生まれた時から始まっていたのだと思う。



 怨念の様に聞かされた話によれば、

俺は、母親が16歳の時に生まれたらしい子供だという。

 父親は知らない。語られる事はなく

会った事も無ければ、その存在すら知らされていない。




___けれど、母親を俺に興味は無かったみたいだ。



俺を産んですぐに

彼女は"自由になりたい"と言い残したまま

突然、家を出て行ってしまったらしい。


 それ以降、帰って一度も来る事は無かった。



母親から育児放棄された俺は、

母方の祖父母に預けられ、育てられることになったのだ。




 でも、この二人は酷く世間体を気にする人達で

世間に顔向け出来ないと"娘は事情で長期留学した"と言い張り、

俺自身は"親戚の子を止む終えず、引き取り育てる事になった"という事にし

自身達を慈悲的な人物と豪語していたのを覚えている。




 そして俺は、

"実孫"ではなく"赤の他人"として威圧的に育てられた。




何よりも世間体の為と、

それを重んじる二人からは酷く厳しく育てられ

何もしていないのに自分達の気分次第、そして機嫌が悪いと、俺を長らく外へ放り出す。



 真夏は猛暑で熱中症、

真冬は凍える寒さに凍ってしまうのでは、と死を感じた程だ。



_____そして祖父からは、何時も口癖の様にいつもこう言われていた。




『本当は無意味で、要らないお前を育ててやっている。


わしらの老後の生活を潰した穀潰しめ。

これはお前が受ける当然の報いなんだ』




般若の面持ちをしながら、高圧的で威圧的な、

発せられる言葉にはひとつひとつ何時も恩着せがましさが滲む。



祖父母にとって俺は邪魔者以外の何者でも無かったのだろう。




 そんな言葉を言い続けられながら

自身を“いらない子”と思い込む様になり、

生きていても何も見い出せない、何時しか感受性は消えた。




 地を這いつくばる様に茫洋と呼吸をし

今まで生きてきた。精神的にも辛かったが、


まだ自立出来ない子供のうちは、

いつだって大人にいいなり、身も心も操られ

ただ操られて言いなりに従っていないと行けないのだ。




そんな中で、

祖父母も高齢になり孫の面倒を見る事を、疲れた。

俺を早く追い出したかったのだろう。中学を卒業した後、


 生活の金銭面だけの面倒は見るからと、

全てが整った上で一人暮らしする様に宣告された。

一応、親元から離れて生活したものの、二人から決められた人生のレール。





 祖父母が願う高校、大学に入学する事、

二人が想う理想の青年像になるように、と告げられ

そう見繕って、自分自身を押し殺した。




 望む、大学に合格し大学生になった。

けれど、もう大学の話が終わった後に音信不通になったのだ。



でもそれで分かった。




 きっと、

要らない孫が居なくなって清々しているんだろう。




 



 元は要らなかった子供。

それを嫌々面倒を見ていたのは態度で分かっていた。

そんな邪魔者を家から追い出した今では清々して、嫌々、生活資金を送るだけで終わりしたい。きっとそうだ。


 俺自身も大学受験を終えた後、

レールの行き止まりに立ち尽くしたまま、過去の傷を引きずりながら、

何もかもがどうでもよくなってしまったのだ。


…………燃え尽き症候群にでも、なってしまったのか。




 今は離れた生活をして、

威圧的と顔色を伺う事も無くなったが

一人になり、俺はもう、ボロボロだと気付いた。

現在(いま)は、後に引き返せない程の絶望感が心に横たわるだけ。




 親元を離れたは良いが、一度負った心の傷は癒えない。




 もう疲れた。こんな世に居るのも、もう嫌だ________。




そう思って、辿り着いたのが、現在(いま)だ。



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