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新装版|クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
【第2章】記憶という過去の骸
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2―1・監視人と教育係




__あれから数日。



 北條家本家からの依頼を受け、クライシスホームは成り立っている。

その北條家当主の孫娘・その司令塔がまだ若き17歳の少女だ。




 彼女は小型無線機器で適切な指示を出しながら

場所や日程のチェックの内容が保存されたタブレット端末を凝視している。



 本当に給与を貰う立場に居て良いのだろうかと思いながら

長野圭介は北條風花の常に隣にいる。




 なんせ初めての事だらけだからこそ、

まだ慣れていない面も沢山ある。



 圭介に与えられた役割は、北條風花の監視人兼教育係。




 ただ風花の世話人としても多忙だが、

一人、立ち竦む事に後ろ髪を引かれれてしまい

重い物を運ぶ等は男手が必要なので思わず、足が運んでしまうも


「ご心配なく、長野さんはお嬢様に付いていて下さい」



 そうあしらわれる。



 表向きは

彼女専任のの護衛のボディーガードマンと

フィーアが片付けたらしい。そつなく交わされる会話により

風花の見張り役という使命をひしひしと感じた。




 幼い頃から癖で、圭介自身、人間観察をついついしてしまう。



 現場を見るに風花は責任者であり司令塔。

そして話術に長けたフィーアが物事の交渉して、

隣で風花はひたすらタブレット端末にメモを取っている。



 一段落して関係者の事務所に戻る。

糸が切れた人形の様に張り詰めていた緊張の荷を下ろした。




 勤務して数日。やっと気付いた事がある。



 このクライシスホームのの責任者。

トップの北條風花は、現場では司令官として威厳を成り立たせてはいるが

 事務所に戻ると180℃変わり、居たと思っても、

鳥が羽ばたくようにすぐに居なくなる。


 

 居場所を知る事、捕まえるので、必死だ。




「フィーアさん」

「どうかしましたか?」

「北條さん、どこに行きましたか………?」



花屋さんとの交渉を終えて一段落がついて

式で飾る花のイメージ画を描いていたフィーアに圭介は尋ねた。


「…………それは、貴方の仕事でしょう」

「申し訳御座いません………」


 フィーアは圭介の言葉を留め

一旦、その手を止めてから不思議そうな眼差しを

そして冷静沈着な面持ちで辺りを見てから告げる。




「……まあ、ものは例えようで

最初はエベレスト登山の経験をしていると

思い込んでしまえば楽ですよ。


後は常に目を光らせる事です」

「いつも、居なくなるんですか?」




 不思議そうに圭介は尋ねる。

対してフィーアは平然としたままだ。

心の何処かで監視人役を命じられ、目を離した事を窘められながらも




「ええ。まあ。もう慣れっこですけれど。

仕事の関係で何処かに行ったのか。それとも

気紛れでふらりと受付等の位置確認をしているか。それとも町に行ったのか。


でも…………今日はなるべくこの場所には居たくないんじゃないでしょうか」






 何時しか、手先の作業を再開しながら言うフィーア。




「それは」

「……そうですね。

今日は“あの人”が出勤して居座ってますからね」






 フィーアはイメージ画を描きながら、平然と言い向こうに視線を向ける。

釣られる様に圭介も視線を向けた。






_________事務所のデスクワーク。



 パソコン画面と向き合いながら黙々と作業している女性だ。



 艶のある綺麗な金髪。

日本人離れした容貌に加えて、モデルの様なスタイル。

その美貌は、思わず視線を奪われ見惚れてしまう程だ。






 ジェシカ・小川。




イタリア系のハーフだと言っていた事を思い出す。




 (フィーアさんが言っているのは、彼女の事か?)




 決まった曜日に出勤する非常勤職員で

経理係の責任者で、クライシスホームの金銭事情を握っている人物。

初めて面識した際に紹介された記憶が今日の朝礼であった気がする。


 気さくな女性、と言った感じだった。



 彼女が何か関係して居るのだろうか。




そう薄々感じ始めた圭介に

その表情を察したフィーアは『後々に分かる事ですから』と言った。








「…………………」






 こつこつと慣れた靴音が聞こえて、視線を向ける。

其処には何時も通り制服を着た、風花が帰ってきた。




……………その瞬間だった。




 まるで狙った獲物に飛び付くジェシカが、風花に抱き着いた。



 まるで時が止まった様な刹那の瞬間。

一瞬の事に思わず目が点になり、唖然とした圭介。

それに対して、慣れて少し引いた眼差しでいるフィーア。






「風花。 おかえり、もう何処に行っていたのよ」




 満面の笑みを浮かべながら、愛しそうに頬擦りした後に

項垂れる様にしなだれかかっている。

これは、母親が愛娘を溺愛するように思える。


 しかし

それとは反対に、滅多に表情を変えない風花が

鬱陶しそうな、面倒臭そうな表情を浮かべていている事に気付いた。


纏わり付くジェシカを問答無用で、突き放す。




「離れて」

「もう、久しぶりだっていうのに素っ気ないんだから。

冷たいわね。風邪を引いてない? 貴女は体が弱いんだから


ふらふらするよりここに居ればいいのに」

「それは昔の話でしょう。今は違うの」




 疎ましい声音を発し、面持ちを見せる少女に

ジェシカは傷付くどころか引き下がる気配を全くない。

手首の赤い一線___傷を見ると、ジェシカは驚いた表情を見せ




「あら大変、傷が出来ているじゃないの」

「軽いかすり傷よ。大事にしないで」




 女の手に触れて驚くものの、本人は無愛想。

あまり距離を取りたがる少女にお構いなしで近付ける人物がいる事を。





(___なんだ、あの人_……)




 仕事のスタイルは

クールなキャリアウーマンの様に

真剣な眼差しと、凛とした姿でデスクワークをしている姿しか見ていない圭介は驚愕して、開いた口が塞がらない。



 あまりにも、ギャップが酷い。




 媚びる様な声音で、

それでもジェシカは風花の側から離れようとしない。

唖然として見ていた圭介は思わず、隣に居るフィーアに尋ねた。




「なんですか、あの光景は……」

「……圭介さん。分かりました?あの人なんです。

風花の元・監視人及び教育係」

「…………え?」



 フィーアの冷静な突然のカミングアウトに、驚く圭介。








「あ、“元”は言い過ぎですね。

現在進行形で、貴方と同じように“現教育係”です」




 彼女は、私達だけの話ですよ。と軽くあしらう。

フィーアの中ではもう『元』と化しているらしいが

彼女も自分と同じ様に、少女の監視人兼教育係なのだとか。




「風花はあの通り、クールで群れを好まない性格です。

過干渉してくる人間が苦手で、深く近付けば近付く程に

離れて行くんです。けれどジェシカさんは構わずに追い掛け回して…………。





風花も大変そうで滅入っていたので



一旦。冷却期間を置きました」




 冷静沈着に淡々と、物事を解析する様に言うフィーア。

その瞬間、圭介は自分が置かれた職務の意味を(ようや)く飲み込めた。



(こういう事か)



 冷却期間というのは、自身の事だ。



「そういう事だったんですね」

「ちょうど良い機会だったんです。圭介さんが来た事は………」

「気のせいですかね。楽しそうに見えるのは」

「ジェシカは嬉しいのでしょうが、風花は迷惑メールだと思っているかと」




 通りで

責任者の少女は此処から出て時間を潰しているのだ。

その理由が(ようや)く解り、風花の気持ちが分かった気がする。


 反対に圭介の言葉に、フィーアは頷いた。




(___フィーアさんみたいに

付かず離れずの距離なのが理想なのかも知れないな)




 あまり深入りはせず、

付かず離れずの距離を保った方が良いか。

そんなやり方で、彼女を見張れば良いのかも知れない。
















北條家・本家。








 北條家の現当主である、北條厳造(ほうじょうげんぞう)



彼は今に座り込み溜め息を吐きつつも、

広い庭から見える景色を見詰めた。


早朝故、小鳥の(さえず)りが聞こえ、

塀には小鳥が止まり、(やがて)て羽ばたいて行く。




(まるで、あやつみたいだ)




 彼の脳裏に浮かぶのは、孫娘。

暫く帰って来ていない。三年前のあの日に出て行ったきりだ。

お茶を運んできた家政婦が、煎れた緑茶を飲みながら、呟く。






「風花は、いつ帰ってくるのであろうな」




 自然とそう呟いた。



 跡継ぎとしては、まだ未熟で修行の身。

だからこそ本家から閉じ込めて、外へは一切出さないつもりだったのに。

外の世界という喧騒等知らずに、北條家の世界だけを覚えていればよい。



 けれど彼は_____孫娘を孫娘とは思って居ない。

所詮は北條家の道具だ。


 小娘の気紛れですぐに帰ってくると思ったのだが、

その帰ってくる気配すらない。




 お茶を持って来た家政婦に、厳造はふと声をかける。




「そうだ。済まないが、風花に連絡してくれ」

「はい。分かりました。なんと仰れば宜しいですか」



 後妻である、世話人の夫人にそう声をかけた。




「____実家に帰ってくるように、とな」



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