プロローグ
人生は、残酷で滑稽だ。
昨日は振り返れるのに、明日は見れない。
『昨日』は覚えているから脳裏に浮かぶのだろうけれど、
『明日』はまだ見ていないからだ。
それも酷な様に見える。
まるでこの人生を挑ませ、己は生ききれるのかと
試されているかの様に。
生きる見えない先すら、何が見えて待っているのか。
“__人の生の意味とは”?
そんな疑問を誰にも教えられる事もないまま、
自己の答えが見えぬ、
自問自答をただ繰り返してはただ毎日は終わっていた。
そんな毎日は、
変化も進展もないまま俺を
希望から孤立して、絶望と崩壊へ追い込んで行った。
カンカンカン、と鉄のリズムが鼓膜に木霊する。
目の前には、シマシマ模様の黒黄の横断の様に置かれた先に見えたのは、
長い時間と歴史を刻み、古びた鉄錆の線路が間近に見る事が出来た。
向こう側に見える琥珀色の夕焼けが眩しい。
この鉄の音が響き、
鼓膜に木霊しているという意味は分かっている。
それは____もうすぐ列車が来るという合図と、入るなという警告だ。
現に鉄の音が聞こえた時に、
当然ながら、遮断機は下りてしまっていた。
安全の為に入ってはならない、入ってはしまったら、己の命はない。
けれど。
俺は、その棒を飛び越えて線路内に入ろうとした。覚悟は据えて出来ている。
……………それにもう、
俺にはこの世で生きていく望みも、既に1滴もないから。
そう思いながら息を吸って、いよいよ踏み出した瞬間だった。
________“その声”が聞こえたのは。
「________“いなくなって、しまうのね”」
誰かの、声。
澄み切った湖の筈なのに
氷の様に酷く冷たく、冷め切った声音だった。
無意識的に振り返ってみれば、其処には__________
真っ直ぐに此方を見て、視線を送っている少女が居た。
色白の肌に人形の様に整った顔立ち。
透明感に誘われて何処か、非現実的な儚さを与えてくる。
きっと背中まであろうか、という
片耳にかけられた、ストレートの長い黒髪。
絵本から現れた、描かれた様な少女。
そんな漆黒の双眸が、ただ真っ直ぐに俺を見ている。
その瞬間。
けたたましいサイレン共に、
背中には疾風がと轟音と共に列車は過ぎて行く。
線路内で人生を終える事をする筈だった俺は、
ただ____やらず仕舞いに終わってしまった目的が
終わってしまった事に、ただ茫然自失としていた。
"今"思えば、
この出会いが、全ての始まりだったのだと思う。
随分と年月が経過してしまいましたが、
あの頃と新たな新装版、間違い探しをする様な
気分で読んで下さると幸いです。