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王女の薔薇と夜の女王

私は人が嫌いだった。

人は損得勘定ですぐに人を裏切る。もちろん善良な人がいることは知っていたけれど、生憎私の周りにはそんな人は居なかった。


両親に売り飛ばされて、国の魔術師の管理部で育てられた私はその才能を買われて情報部に配属された。

私の才能と、配属先の相性は確かに良かった。


けれど。


度重なる犯罪の裏付けを調べる潜入捜査で私の人嫌いは悪化の一途を辿った。


善良の顔の裏で、平民を虐げるもの

騎士然とした顔の裏で賄賂を受け取り犯罪者を逃がすもの

虫も殺せぬ顔で、格下の女性を破滅に追いやるもの

無害そうな町民に見えて、違法薬物を売りさばくもの


それらと関わり、ますます人が嫌いになったけれど



「仕事中ですので」


「少しくらい良いではないですか。私、金薔薇の貴公子様に会ってみたかったんですの」


本気で困ってる人を見過ごすほど、人と関わりたくない訳では無い。


「…私の二つ名はソーン()です。妙な名をつけないでいただきたい」


「あら、社交界では有名でしてよ?麗しく光り輝く金の髪に、深紅より深い赤薔薇色の瞳。その容姿の前では美しい薔薇も霞むほど……本当に美しいですわ…」


私が所属する情報管理課の窓の向こうは、植物開発課の庭園が拡がっている。

色々な品種改良がされている花や植物が溢れる庭園は貴族の散歩コースとしても有名だが……妙齢のレディの狙いは美しい庭園では無い。


植物開発課に所属しているソーン()という名の魔術師だ。


有名な彼のことはよく知っている。

伯爵家の次男坊にして、薔薇と相性の良い彼は茨を操って攻防をしつつ植物の品種改良を担当している。

……そして王家に匹敵するほどの美貌と、少年然とした若さが話しかけやすく、彼の将来性も加味した上での彼目当ての未婚のご令嬢が庭園に頻繁に訪れているのだ。


ここまでが情報管理課ならば誰でも知っている情報。

そしてここからは私と上司のみが知る情報。


確か彼の品種改良はこの四ヶ月なんの成果も出ていない。植物の生育スピードを加速できる植物系の魔術師として致命的で、あと数ヶ月の間に結果を出せなければ……王女直属の魔術部へと配置換えが検討されている。


それも、癇癪の強い王女たっての希望で。


あの王女に望まれて、王女の元へと配属されれば彼が酷い目に会うのは分かりきっている。


ここ数日焦った様子で庭園で魔法を繰り返し使っていることからおそらく配置換え予定の情報は彼にも通達されているのだろう。


だが、結果を出そうにも毎日顔を出すことで喜んだご令嬢の数がさらに増えまともに仕事が出来ていないようだ。


……なんとも哀れな話だ。

ゆっくりと立ち上がり庭園へと出ていく。だけど、同僚の誰もが私を気にした様子は無い。


当然だ、彼等には私が見えていないのだから。


そして嫌がるソーン()と身分を盾に関わりを要求するご令嬢の前まで行き……


「とりあえずお茶でもご一緒しましょう?ちょっと、お茶の支度をしてちょうだい」


ご令嬢が後ろに控える侍女の方を見た瞬間ーーーーソーン()の軍服の袖に触れた。


「効果は二時間です」


「……誰だ!?」


私の才能……上級の認識阻害をかけると、もう用はないので情報管理課へと戻る。


「え、金薔薇の貴公子様!?どこに行ってしまわれたの!?」


背後ではご令嬢の慌てる声が聞こえるが……どう聞いても彼が見つけられない声だ。

仕事頑張ってくださいね。


そう思いつつ、私は植物開発課から上がってくる情報の精査の仕事に戻った。




彼を隠匿すること、五日。

ソーン()に関する情報はすぐ出回るので、初日から私が庇ったことを上司は知っていたが……五日目にして上司から質問を投げかけられた。


「あちこちからニュクス(夜の女王)の情報開示を受けているが、どうするつもりだ?」



ニュクス(わたし)の情報開示。

ソーン()と関わったことで認識阻害能力が有名な私の名が売れ始めたのだろう。

上司は責めるような素振りではなく、純粋にどう対応をして欲しいのか尋ねてきたのだろう。


出世をしたければ名を売ればいい。だが名が売れればそれだけ厄介な相手と関わる機会が増える。

……多くの貴族の罪を暴いて、恨みを買っている私にそれは諸刃の剣だ。


だが、私には出世欲は無い。

つまり、名を売る必要は皆無だ。


「…今まで通り公表している情報だけでお願いします」


「そうか。植物開発課にもその対応で良いのか?」


「ええ、構いません」


所詮私がしていることはその場しのぎで、同情だ。

彼と深く関わる気は無いので、彼に情報を与える必要も無い。


「わかった。だがとりあえずこれだけは渡しておくな」


そう言って上司が渡してきたのは一通の感謝の手紙だった。

私のおかげで仕事が問題なく出来て助かっている。このまま行けばいい結果を残せそうだ、感謝すると言った内容だった。


そうか、もう少し付き合えば彼は王女の魔の手から逃れられるんだな。


「次の出張はいつ頃になりますか」


「…そうだな、来週くらいだな」


「かしこまりました」


願わくば彼の研究が出張の前までに終わればいいな。そんなことを考えつつ、私は自分の机に戻った。



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