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第四章 「デウスの思い」

 第四章 「デウスの思い」


 アンスールにとって、自分がデウスであることは苦痛でしかなかった。

 両親のいない孤児だったから、という理由でギヴァダ帝国に拾われ、研究所に送られてデウス処置を施された。始めは、デウスになることで生きて行くことができるなら、と思っていた。デウスの適正があったから拾われたのだと気付いたのは随分後になってからだ。

 アンスールはギヴァダ帝国側の国境を見張るための小屋の隅で小さくなって座っていた。

 オメガというマキナは、怖い。

 戦う前に、オメガは必ずと言っていい程アンスールを傷付ける。

 血液は、アンスールのエクスだ。オメガはアンスールの血がなければ戦えない。

 だが、自分のエクスが血であるからという理由だけで傷付けられているとは思えなかった。

 一番感情がこもるのが出血だとは、自分でも思わなかった。

 もし、アンスールがただのデウスだったなら、オメガと組まされることは無かったかもしれない。オメガも、今ほど凶暴ではなかったかもしれない。

 オメガは、人間を憎んでいる。

 マキナという存在を、ただの兵器としてしか見ない人間を、見下している。

 マキナこそが、人間以上の存在だと思っている。

 オメガの攻撃能力は、マキナの中で最も高いと言っても過言ではない。

 物質と反物質が触れた時に起こる対消滅のエネルギーを、オメガは操れる。オメガが放つ攻撃は、すべて対消滅のエネルギーだ。莫大なエネルギーは、カイやゼータが攻撃に用いるエネルギーを凌駕している。あの二人のマキナも、かなりの戦闘能力を持っているが、単純な破壊力ではオメガに勝る者はいない。

 一戦で街を一つ吹き飛ばしたのはオメガの力だ。

 第一形態のグレイヴ・アクセントでもなく、第二形態のアキュート・アクセントをも超える、第三形態サーカム・フレックス状態のオメガの攻撃の結果が、あれだ。

 オメガは第一形態でも十分マキナと戦えるだけの力がある。第二形態ならほとんど敵無しだ。

 それでも、一戦でオメガは追い詰められた。カイとゼータの二人が、オメガを追い詰めた。もちろん、他のマキナも戦場にいて、オメガにも攻撃していた。だが、実際にオメガと戦っていたのはあの二人だろう。

 追い詰められたオメガは、システムを一度シャットダウンし、アンスールにエクスを求めた。そのオメガの表情、感情に気圧されて、アンスールのエクスは極限まで高まった恐怖が込められた。

 その結果、オメガは第三形態を発動し、街を吹き飛ばしたのだ。

 アンスールには、サーカム・フレックスを発動することのできる唯一のデウスだ。それが発覚したことで、最も戦闘能力が高いとされるオメガと組まされたのだ。

「アンスール……」

 オメガの声に、アンスールは顔を上げる。

 オメガにとって、アンスールは全力を発揮するために必要な駒でしかない。もしかしたら、足枷と捉えているかもしれない。

 マキナはデウスがいなければ力を発揮できない。マキナの戦闘中にデウスが死亡した場合、その戦闘中は問題なく戦えるが、次に戦う時に力を発揮できなくなってしまう。

 同時に、マキナは今組んでいるデウスが死なない限り、他のデウスからのエクスを受け付けない。デウスの側も同じだ。気に食わないからと、マキナもデウスも変更することはできない。

 できるとしたら、マキナやデウスの技術に関わったリギシア・テランだけだろう。その博士がいない今、新たなマキナやデウスの存在は望めない。現状、今いるマキナとデウスで戦うしか道はなかった。

 だから、アンスールが生かされているのは、オメガと一度組んだデウスであるからに過ぎない。もし、マキナを倒してデウスだけが残ったら、そしてそのデウスがオメガの気に入る人物だったなら、アンスールは用済みとして殺されるかもしれない。そうすることで、デウスを交換できるのだから。

 第三形態を発動できる唯一のデウスとは言え、オメガはいつもアンスールの性格や態度に苛立ちを覚えている。相性が良いとは、お世辞にも言い難い。

「ディガンマ・センティリオンとは何者だ?」

「ロストナンバー、だと思う……。ディガンマなんて名前は聞いたことないよ……」

 アンスールはオメガから視線を外して、首を横に振った。

 オメガは無言でアンスールを見下ろしている。何かを考えているようでもあり、アンスールに対して怒りを向けているようでもあった。

 ただ、アンスールもオメガの考えていることは予想ができた。

 ディガンマ・センティリオンというマキナのことだ。

 ロストナンバーと言われるマキナは正確な数は判らないものの、確かに存在する。

 だが、ロストナンバーとはえてして失敗作だ。突出した能力を持っていたとしても、力のバランスはどこか欠けていて、不安定な存在だ。

 オメガが気にかけているのは、そこだ。ディガンマ・センティリオンはただのロストナンバーとは違う。

 彼は、他のマキナが持つ能力を自分のものとして扱うことができる。既に死亡しているマキナの力を得られるだけではない。戦闘中に、同じ戦場にいるマキナのデータを解析しているのか、倒さずとも能力を手に入れていた。

 先の戦いを見た限りでは、右腕だけしか変化させられないようだったが、ロストナンバーとは思えない安定感で戦っていた。

 そして、最も気になるのは、彼が生み出された目的だ。戦った様子から想像する限り、ディガンマというマキナには恐らく、現存するすべてのマキナの情報が入力されている。

「まるで、マキナを殺すためのマキナだ……」

 オメガが呟いた。

 他のマキナの力を扱えることと言い、安定感と言い、それらはつまるところ、対マキナ戦闘を想定されているとしか思えない。

「あれがロストナンバーだと言うのなら……」

 オメガの口調に笑みが含まれる。

「リギシアめ、とんだ食わせ者じゃないか」

 アンスールはオメガの言葉と凄惨な笑みに身震いしていた。

 恐らく、ディガンマたちは次にオメガと出会った時に殺される。

 いくらディガンマが他のマキナの力をコピーできても、第三形態のオメガを押さえることはできない。ディガンマのデウス、ウィルドの感情が欠落しているのは、アンスールにも見て取れた。恐らく、彼女は第一形態のエクスを出すのがやっとだ。

 無表情な少女の面影に、アンスールは唇を引き結んだ。

「……お前は、そのままでいいのか?」

 ディガンマの言葉が、脳裏を過ぎった。

「……僕には、無理だよ」

 アンスールは目を閉じて、心の中でディガンマに謝罪の言葉を述べた。


 自分たちの存在は、考えれば考えるほど疑問しか浮かんでこない。

 リオンは、目覚めてからの三年間でそれを思い知った。

 リオンは自分がマキナとして生み出された理由を知らない。兵器であるが故に、マキナは出生に意図がある。例えば、カイなら射撃戦闘や援護能力に長けたマキナを、ゼラなら近接戦闘に秀でたマキナを、というものだ。だが、リオンの力はどこかそういった意図とは外れている。

 すべてのマキナの力を扱えることに意図があるとしたら、マキナという兵器の集大成と言っても過言ではない。だが、だとしたら破棄されてロストナンバーとなった経緯が解らない。実験段階でリオンの有用性が揺らいだのかもしれない。もしかしたら劣化コピーしかできないことが判明したのかもしれない。

 ウィルドも同じだ。エクスが涙で、感情が欠落してしまった彼女が、どうして廃棄されなければならなかったのか。元々ただの人間であったはずのウィルドが、何故リオンと同じように捨てられていたのか。

 感情が失われて、デウスとして有用性が見い出せなかったなら、元の生活に戻してやれば良かったはずだ。処置によって記憶が失われていたとしても、元の生活に戻っていれば思い出せていたかもしれない。

 ただ、リオンには理由を推察することしかできない。答えを知る者は、恐らくリギシア博士だけだ。

 リオンとウィルドを拾った、博士の知人も詳しいことは何一つ知らなかった。この世界で生きていくための知識と、デウスとマキナの存在に関する説明だけしか与えてくれなかった。

 三年間、世界を旅してきて判ったことと言えば、リオンの力がマキナとの戦いにおいても通用するということだけだ。

 ウィルドを肉体的に傷付けて、無理矢理にでも涙を受け取らなければならない。それでも、戦うことを彼女が望む時は、リオンはマキナとして力を振るい、その場を切り抜けてきた。

 マキナと一対一で戦って、勝てないまでも逃げ切ることぐらいならリオンにもできた。

「オメガ、か……」

 リオンは窓から外を見つめ、呟いた。

 窓から見えるのは、巨大なクレーターだ。地面が抉れ、削り取られ、何も残っていない。草が生える気配すら見られない。荒野のがまだマシだと思える光景だった。

 中心から何もかもが吹き飛ばされ、消し去られた痕が残っている。地面の削れ方、刻まれた波紋のような痕がそれを物語っている。

 クレーターの向こう側は、薄っすらと見える程度だ。

 国境付近、クレーターとなった街の跡を監視するように建てられた建物に、リオンたちは辿り着いていた。ベルファート皇国の警備兵もいるが、リオンたちがいるのは三階にある客室のような場所だ。

 旅人や、本国からの視察などのために用意された場所だろう。

「実際に見てみると怖ろしいものだな……」

 リオンは小さく溜め息をついた。

 恐らく、オメガの狙いもカイやラーグたちと同じ、リギシア博士だろう。イオタがラーグとカイを襲撃したことや、オメガが待ち受けていたことを考えれば、相手もリギシア博士の捜索に関してラーグたちと同程度の情報は持っていると見てまず間違いない。

 襲撃や待ち伏せしてきたことを考えれば、もしかしたらラーグたちよりも情報は少ないかもしれない。

「……何もない」

 リオンの隣で、ウィルドが呟いた。

 窓の桟に片手を乗せて、無表情な目でクレーターを見つめている。風に揺れた翡翠の髪が光を反射して輝き、微かに細められた金色の瞳が街の跡を映す。

 ウィルドの横顔を、リオンは見つめていた。

 きっと、今彼女の中には何らかの感情が渦巻いている。それがどんな感情なのかは読み取れないが、何か思うことがあることだけは、リオンには伝わっている。

「……動くのは明日にしましょう」

 部屋のドアが開き、エオローが入ってくる。

 ラーグ、カイ、エオロー、ゼラの四人はベルファート皇国に所属するマキナだ。この客室を利用するに当たっての説明や手続き、確認を下の階で行っていた。ベルファート皇国と直接関係のないリオンとウィルドは先に部屋に通されていた。

「そうか、今日中に動くのは危険か」

 エオローを見て、リオンは言った。

 オメガが自分たちの他に兵士を連れて来ていたのは明らかだ。彼自身そう口にしていた。

 ある程度索敵を行った結果、周囲に敵影は見受けられなかった。この施設の付近に敵が潜んでいる気配もない。だが、相手がこちらの様子を窺って待ち伏せをしている可能性もある。

「体勢を整えられやしないか?」

 ラーグも最初はそんな疑問を投げていた。

 時間を開けてしまえば、こちらを攻撃する準備を整えられてしまうのではないか。ならば早くリギシア博士を見つけ出すために動いた方が安全ではないのか。

 リオンも抱いた疑問だったが、エオローは首を縦には振らなかった。

「今動いてしまえば、それこそオメガが連れてきた兵士が動くはずよ」

 エオローの返事は、この場に一時留まることで時間が稼げる、というものだった。

 オメガは自分が戦うために兵士を退がらせたと言っていた。つまり、その部隊がまだ近くにいるかもしれないのだ。戦うだけならまだしも、リギシア博士の捜索時に襲われたら捜索に集中はできない。

 兵士が動けばオメガも現れる可能性が高い。もし、オメガとまともにぶつかることになれば、全滅の危険性もある。どうにか無事だったとしても、リギシア博士がオメガの攻撃で死亡してしまう可能性だって考えられる。近くにリギシア博士がいるかもしれない時に、オメガのような広範囲に破壊力を振り撒ける存在と戦うのは危険だ。

 リギシア博士が死んでしまっては元も子もない。

「あくまでも、私たちが優先するべきは博士との接触よ」

 エオローの言葉に、リオンも納得した。

 ラーグやエオローたち、ベルファート皇国の人間からしてみればリギシア博士の捜索に博士自身の生死はあまり関係がない。生きている博士を見つけ出すことは確かに重要だが、結果的に博士が死んでしまっていても問題はない。

 結局のところ、ベルファート皇国やギヴァダ帝国が知りたいのは、これ以上マキナを増やせるかどうか、だ。博士が生きていればマキナを生み出すことはできる。マキナを増やすことができれば、休戦状態の情勢を大きく変えることができる。もし博士が既に死んでいたとしても、マキナを増やせないことが判ればこれからの戦略の中で不確定な要素の一つが消えることになる。

 だが、リオンとウィルドは違う。

 リオンとウィルドは、博士に生きていてもらわなければならない。博士が死んでしまっていたら、リオンたちの旅の目的が失われてしまう。同時に、博士を探していた三年間がほぼすべて無駄になってしまうのだ。

 リオンとウィルドにとっては、博士の存命は第一と言ってもいい。

 マキナという強大な力を従えているのだから、先に邪魔な敵を排除するという考え方も解る。だが、エオローはマキナが戦うことをあまり快く思ってはいないようだった。

 戦いを避けているようにも見える。彼女が戦いたくないというよりは、ゼラを戦わせたくないのだろう。

 ゼラはただ、無言でエオローに従っていた。彼女を否定せず、ただ行動だけで肯定している。

 今も、ゼラは目を閉じたまま腕を組んでドア近くの壁に背中を預けている。

「ま、お前らに敵対されるのも厄介だしな」

 そう言って、ラーグは茶化してみせた。

 もし、リギシア博士が死ぬかもしれないとなれば、博士との会話を望んでいるリオンたちとの協力関係は崩れる。現状で敵対すればリオンが不利なのは一目瞭然だが、ラーグたちとしてもリオンの力は味方にしておきたいのも事実だ。

「俺も、あいつと一人で遣り合うのはきついからな……」

 オメガと戦わなければならないのなら、リオンもカイやゼラが味方である方が心強い。

 逃げるだけならできるかもしれない。だが、リギシア博士の安否を考えると逃げられない可能性もある。

「また、オメガと戦わなければならないのね……」

 カイは苦い表情で呟いた。

「……いずれは決着をつけなければならない相手だ」

 ゼラが小さく呟いた。目を閉じたまま、姿勢を変えることもせずに。

 カイやゼラがベルファート皇国のマキナである以上、ギヴァダ帝国に属するマキナはすべて排除しなければならない対象だ。その中でオメガは最も危険な存在かもしれない。

「……あいつは、人間を憎悪しているな」

 ぽつりと、リオンが呟いた言葉にウィルドを除く全員が反応した。

 ゼラは閉じていた目を開け、ラーグとカイは驚いたように、エオローはどこか寂しげに、それぞれリオンに視線を向ける。

「……解るか?」

 口を開いたのはラーグだった。

「あぁ、なんとなくな」

 リオンは静かに頷いた。

 オメガは、ラーグのエクスを見て、苛立っていた。そして、リオンがウィルドを傷付けるところを見て、面白いと言っていた。マキナがデウスと口付けする行為がエクスを得るためだとしても、オメガにとってはマキナが人間と対等に扱われているように思えて腹が立つのだろう。

 人間を憎み、見下しているのだとしたら、リオンがウィルドからエクスを得るために彼女を傷付ける行為が、自分と同じ思いを抱いていると思ってもおかしくはない。

「あいつは、下手をすれば今直ぐにでもこの世界を破壊し尽くしてしまうかもしれない」

 カイは視線を床に落として呟いた。

 オメガの力は破壊力があり過ぎた。だから、マキは人間を超えた存在だと思ったのかもしれない。

 いや、オメガの認識はある意味正しい。マキナは戦争のための兵器として生み出されて行ったのだ。人間が持てるすべての力を超えた、生ける武器として。

 あらゆる面で人間を凌駕しているのは当然なのだ。そうでなければ、マキナという兵器は武器としての存在価値が無かったから。

 だが、マキナに与えられたのは命令をただ実行するだけの引き金やシステムではなかった。人間と同じ心が与えられた。そして、人がマキナを抑えられるようにデウスが生み出された。

 オメガにとっては、兵器としての存在価値でしかマキナを見ていない世界そのものが腹立だしいに違いない。マキナを怖れ、兵器としてしか見ない人間が憎いのだろう。

「あいつは、危険だ」

 リオンは正直な思いを、一言だけで述べた。

 オメガというマキナの存在は、危険だ。いずれ、ギヴァダ帝国からも離れて世界そのものを敵と見做すかもしれない。そんな確信がリオンにはあった。

「そうね……」

 エオローの表情は沈んでいた。

「……まだあのことを気にしてるの?」

 カイが心配そうにエオローを見つめる。

 何か過去にあったのだろうか。

 聞くべきかどうか、リオンは迷った。話したくないことを詮索されるのはあまり良い気分ではない。エオローやゼラとはまだ打ち解けたとは言えない状況でもある。それを聞くだけの親密さはリオンにはない。

「私ね、リギシア博士の研究所で働いていた時期があったの」

 リオンの考えを見抜いたのか、エオローはどこか寂しげな笑みを浮かべて呟いた。

「え……?」

 その言葉に、リオンは驚かずにはいられなかった。

 今まで旅してきた中で、リオンたちはリギシア博士の足取りだけでなく、博士と共に研究をしていた科学者たちも探していた。だが、リギシア博士と同じく手掛かりは全くと言っていいほど無かった。

 あったとしても、既に死んでいるなど、リオンたちが話を聞ける人物は一人もいなかった。

 エオローがリギシア博士と研究を行っていたというのなら、リオンは話を聞きたい。

「私は、マキナの研究を博士と一緒にしていたけど、博士に近かったわけじゃないの」

 望む情報は持っていない、エオローはそう言った。

「そうか……」

「ごめんなさい、私はあなたたちのいた部署とは違ったんでしょうね……」

 申し訳無さそうに、エオローは視線を落とした。

「いや、謝ることじゃない」

 リオンは首を横に振った。

 自分たちの存在が特別であることは自覚しているつもりだ。リオンもウィルドも、その存在は不自然だった。何かあるとしか思えないほどに。

「けれど、私はオメガの存在に携わっていたの……」

 エオローはかつて、リギシア博士の研究施設で働く科学者だったらしい。

 恐らく、彼女の頭脳は飛び抜けて優秀だったのだろう。見た目から考えれば、彼女は十八歳にも満たないかもしれない。実年齢よりも幼く見えるとしても、どう見積もっても十八歳程度にしか見えなかった。

 ただ、オメガというマキナの製造に、彼女は関わっていたらしい。

「マキナは、本当は戦うためのものではないのに……」

 エオローは辛さを噛み殺しているようだった。

 戦うためではなく、人の役に立てる存在としてマキナ技術を研究していたのだろう。

「オメガも、そうなるはずだったのに……」

 恐らく、オメガは莫大なエネルギーを生み出す存在として、生活に役立つ予定だったに違いない。街を一つ消し去ってしまうほどのエネルギーが利用できれば、確かに色々な面で有用だったかもしれない。

 だが、戦争中の二つの国にとっては強大な兵器としての価値しか必要なかったのだ。

「オメガが奪われる前に、私が処理していれば……!」

 ギヴァダ帝国が研究所からオメガを奪う前に、生まれる前に処分されていたなら、街は消えなかったかもしれない。もしかしたら今頃戦争も終わっていたかもしれない。

「……お前のせいじゃない」

 ゼラが静かに呟いた。

 研究所にいたエオローにとって、マキナとは人々の役に立つ力を持った人間でしかなかったのかもしれない。

 エオローに責任が全く無いとは言えないが、仕方のない部分もある。

 ゼラはそれを解っている。エオローは何もできなかった自分と、何もしなければそのまま生きられてしまう自分が嫌だったのかもしれない。無力な自分を責めている、と言うべきか。

「だからって、無視なんて私にはできない……」

 責任感が強いのだと思った。

 自分が関わったオメガの存在によって、街が消え、多くの命が失われた。意図していなかったこととは言え、責任は自分にもあると思っているに違いない。

 だから、エオローもデウスとして戦う道を選んだのだろうか。人はマキナにはなれない。だから、せめてデウスとして戦いに関わることで戦争を終わらせることを望んだのかもしれない。

「全く、あいつが出てくるといつもこれなんだから」

 ラーグは大きく溜め息をついて椅子から立ち上がった。

 ベッドに腰を下ろして俯いていたエオローの前まで行って、ラーグは突然しゃがみこんだ。エオローを間近で見上げてから、突然のことに目を丸くする少女の頬を両手で掴んで横に引っ張る。

「ひょっほ、何するのー……!」

 エオローが思わず声を上げて仰け反るように逃れる。

「お前は可愛いんだから、そんな顔するより笑ってた方がいいんだよ」

 今度はエオローを見下ろすようにして、ラーグは言い放った。

 カイは苦笑を浮かべて肩を竦め、ゼラは小さく息を吐いている。

 リオンとウィルドは顔を見合わせていた。

「毎回言ってるけどな、気にするなとは言わない。けどそういうのはやめようぜ?」

 なぁ、とラーグはリオンに同意を求めた。

「俺苦手なんだよこういう重い雰囲気」

 人差し指で頬を掻くラーグを見て、リオンは苦笑いを返した。

「……でも」

 エオローが、ぽつりと呟いた。

「私は、あなたの存在も、怖い……」

 どこか不安げな表情で、エオローはリオンを見つめていた。

 まるで、敵にならないでくれと懇願するかのように。

「あなたの力は、まるで……」

 視線をリオンから逸らし、エオローは言葉を詰まらせた。

 言い難そうに口をつぐみ、暫く迷いながらもリオンを見上げる。

「マキナを殺すためのものみたいで……」

 エオローの言葉に、カイとラーグは目を見開いていた。

 ゼラはただ目を閉じたまま、エオローの言葉を聞いている。

「すべてのマキナの力を超えるように創られているみたいで……」

 エオローの言葉に、リオンは目を細めた。

 リオンの力の解釈には、その推察もある。マキナという存在の集大成ということは、他のすべてのマキナを超える存在でもある。それを目指していた可能性は、確かにあった。

 ただ、右腕だけを一つのモデルにしか改変できないという欠点が、その考えを遠ざける一因だったに過ぎない。右腕だけしか構造を変えられず、モデルは一つしか選べない。それではすべてのマキナを超えているとは言えない。

「……そうなのかもしれないな」

 リオンは自分の右手を見つめて呟いた。

 最強のマキナとして生み出されるはずだったのかもしれない。ただ、その過程で欠点が発覚し、廃棄が決定されたのかもしれない。

「会えば、判る……」

 ウィルドが、振り返った。

 リオンを見上げる金色の瞳は、否定しているようにも、肯定しているようにも見える。

 ただ、リオンにはどちらでも良かった。彼女が、心配するなと言っているように思えたから。

「ああ、そうだな」

 だから、リオンは微笑んでウィルドの頭を右手で撫でた。

 さらさらの絹糸のような、心地良い髪の感触がリオンの右手に返ってくる。

 不安なのはウィルドも同じだ。ウィルドの存在の方が、マキナであるリオンよりもイレギュラーなのだ。デウスでありながら廃棄され、感情だけでなく記憶も失っている。元の生活はどうだったのか、何故廃棄されたのか。

 マキナであるリオンと違い、ウィルドのことを考察するための情報は少な過ぎる。推察である程度納得できるリオンと違って、ウィルドは何一つ判らないままと言っても過言ではない。

「まずは、博士に会わないとな」

 リオンはあえて、ラーグたちを牽制するような言葉を口にした。

 接触する前に博士に危害が及ぶようなことをしないように。

 ラーグもエオローも、マキナのことを大切に思っているのは判別できる。人間と対等に、人と同じ心あるパートナーとして接しているのが判る。

 それでも、リオンたちは博士との接触を第一に考えることを伝えておきたかった。

 リオン自身もそれを望んでいるが、何よりもウィルドのために。

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