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2.

 



「……グノー?」


 起きる間際、声が聞こえた気がして目を覚ませばレシフォーヌは自室のベッドで寝ていた。

 どうやらわたしは工房で気絶したらしく、たまたま通りかかった材料を仕入れてくれる業者の人に運良く見つかり邸と医者に連絡してくれたのだそうだ。


 てっきり運んでくれたのはグノーだと思っていたレシフォーヌは驚き、とんでもなく萎縮した。


 健康が取り柄だったのに倒れてしまうなんて。

 いやいやでも工房に来てくれる人はグノーと仕入れの業者さんしかいないからどちらかが通らなければもしかしたらわたしは明日までずっとそのままだったかもしれない。


 後でお礼を言わなくては、とあたふたしていると、ノックと共にスカラファ様とレシフォーヌの婚約者で公爵令息のジョケルド様が部屋に入ってきた。



「スカラファ様!ジョケルド様!こ、この度はご迷惑をおかけしまして……」

「気にしなくていい。そんなことよりもひとつ頼まれてほしいのだが」


 スカラファ様が椅子に座り、彼女の肩に手を置きながら斜め後ろに立ったジョケルド様はいきなり話を切り出した。


 倒れたのがショックでまだ体が重く、話を聞くには万全な体調ではなかったレシフォーヌは戸惑った。


 ジョケルド様はわたしに話しかける時は政治や経済、領地運営などの高度なお話をしてその意見を求めてくることが多い。

 わたしは半分も理解できず頭がパンクしていると、そこへすかさずスカラファ様が助け船を出してくださり、なんとか返してる程度だ。


 公爵令息の彼は王太子の側近だと言っていたから常に勉強なさっているのだろう。それについていけるスカラファ様も凄いといつも感服していた。



 けれど今日はスカラファ様に助けてもらうことはできそうになく、聞きなさい、と目で訴えてきたのでぼんやりする頭のまま彼を見た。


「実はきみが作った皿が割れたそうだ」

「えっ!」


 最終的に国王に献上されたあの皿はグノーが『落としたくらいじゃ割れないから!』と太鼓判を貰ったものだ。さすがに試さなかったが付与魔法がかかってるのは見えた。


 だからそう簡単に割れるはずがないと思っていたのに一体どういうことだろう。もしかして、グノーに何かあったのだろうか。



「……い、おい。聞いているのか?」

「えっあ、はい!すみません!!」


 不機嫌なジョケルド様に睨まれ身を縮ませるとスカラファ様が「ジル、お義姉様が怯えているわ」と彼の手をそっと握り見上げて諌めてくださった。

 顔の作りがよろしいからかジョケルド様に睨まれるだけで冷や汗がびっしょりになる。


 いつまでも慣れなくてすみませんとしょんぼりすれば、ジョケルド様は嘆息を吐かれてからレシフォーヌを見た。今度は睨まれていない。


「急遽食事会が行われることになったので一週間後までに同じものを作ってほしい。これは内々の話だ。誰かに告げることは許さん。人に話せば重い罰があると思えよ」


「え、一週間後?!」



 日数はそこまで短くはないが窯の具合にもよるし何より同じものというのが難しい。

 グノーに認めてもらえるちゃんとしたものができるまで儀式はしなくていいよ、と啖呵を切ってしまったくらいまだ納得するものが出来ていないのだ。

 そう思って同じものは無理ですと正直に答えるとジョケルド様は淡々と答えた。


「似てさえいればいい。そもそもきみになんの期待もしていないからな。だが私の婚約者だと名乗りたいならその程度のことは出来て当然だと思って取り掛かってくれ」


 期日になったら取りに来る。言うだけ言ったジョケルド様はスカラファ様を連れてそのまま出て行ってしまった。


 えぇ~…。お見舞いに来てくれたんじゃなかったんだ。なんとなくショックを受けてしまい、少し悲しくなった。

 そこでまたグノーの声が聞こえた気がして周りを見たが誰もいなくて溜め息を吐いた。



「グノーに会いたいなぁ」



 恐らく今はクロリーク家の使用人だと思うんだけど、グノーとは工房でしか会ったことがない。

 でもそれを不思議に思ったことはなく、いつも身近に感じていたから気にしなかったんだろうなと今わかった。


 だけど今はグノーが近くにいる感じがしない。やはり何かあったのだろうか。怪我でもしたのだろうか。

 いつもお祈りする時は何も考えていないけど今日はグノーが無事で早く顔を見せてくれますようにと願った。




 ベッドから出れるようになったレシフォーヌは頼まれた皿を作るべく工房にこもるようになった。食事は抜いたり無理をお願いして軽食を作ってもらったりした。


 本当は自分で作ればいいのだけどその時間が惜しい。工房が延焼対策で邸から遠いのも手間だと思った。

 仕方ないので工房の横にある小屋に布団を持ち込んでそこで寝起きするようにした。


 何度かは試し焼きをしたけどちゃんとはまだやってなかったのでその火加減を確認しなくてはならない。オレッキアがちゃんと焦げずに焼き付くかも試さなくてはならない。


 土は生き物だ。そして同じものを作ろうとどんなに努力しても作れはしない。

 献上したお皿は外側から中に描かれている波紋とその焼き具合、そして土の光沢が絶妙に美しく完璧だった。


 どんな料理を乗せても美味しく見えるお皿の内側のバランスと料理を引き立たせる外側のオレッキアが見えた時思わず歓声をあげたくらいだ。

 グノーに見せれば表、裏、横、斜めと丹念に見つめ一言、


『土が喜んでいる』


 と出会ってから一番の笑顔で微笑んでくれたのを覚えている。

 その笑顔が嬉しくて、ドキドキして、わたしは耳まで赤くなってうまく返せなかったけど、あの時の感動は国王陛下からお褒めの言葉をいただいた時よりもずっとずっと大切な思い出になっていた。


 窯をじっと眺めながら、その事を思い出し鼻がつんと痛くなった。これで大丈夫だろうか。ちゃんと同じものができるだろうか。グノーはいないのに。



「グノー……何処に行ったの?」


 いつも一緒のような気はしてたけどでもそうではない。工房に毎日行っているだけでそれ以外では一度もグノーと会えていないのだ。

 邸の人にそれとなく聞いてみたけど誰もグノーを知らなかった。


 それに工房にずっといるのにこもってからはグノーに会えていない。ひとりぼっちの工房がとても広くて寂しく感じた。

 まるで大切なものを失ったみたいな喪失感に涙が零れた。



 ◇◇◇



 長期休暇とはいえ工房とお祈り周りで忙しくしていたら定例のお茶会を失念していた。それにここ数日で一気に体力がなくなった気がする。


 不規則な生活をしているから仕方ないと言えば仕方ないのだけど、領地でこもっていた時よりも疲労感が強く出ているのは何でだろう?



「食事……いや睡眠かなぁ」


 腕を組み歩いているが空はもう茜色を通り越して暗い。しかし田舎道をよく一人で歩いていたレシフォーヌは手持ちの明かりだけでも十分だった。


 お茶会は昼間なのでもう終わっているだろう。

 なんてお詫びしたら良いものか…と溜め息混じりに歩いていけばクロリーク辺境伯のタウンハウスに着いた。


 丁度月明かりもよく見えたので手持ちの明かりを消して裏門から邸に入ると近くで人の気配を感じた。

 こんな時間に庭師がうろうろすることはない。スカラファ様や使用人達も邸の中でゆっくりしている頃だろう。


 もしかしてグノーだろうかとこっそり近づけば人影がふたつ見えた。



「…え、」


 月明かりに照らされ見えたのはスカラファ様とジョケルド様だった。

 もしかして心配して待っててくださってたとか?!わたしはただ疲れて眠りこけていただけなのに!ああでもあとは窯の中の皿を冷やすだけだから少しは喜んでくれるかも!


 全力で謝ればきっと大丈夫!多分!と自分を叱咤して足を踏み出そうとした時声が聞こえてきた。



「しかしなんなんだあの女の姿は。我が愛しのスカラに似ても似つかないくせに傲慢にも真似をして私に媚びてくるなんて……思い出すだけで吐き気がする。

 スカラ、あの愚かな女を叱ったりしないのか?あれではお前にもクロリーク家の名にも傷が付くぞ」


 怒りを含んだ声色とスカラファ様の金の髪を優しく撫でる手にちぐはぐだと思いながら金縛りにでもあったかのように体が固まってしまった。

 それわたし?え?媚びてました??


「仕方ありませんわ。お義姉様はわたくしのような淑女になりたいそうですから。中身よりもまずは見た目から、と始めたのでしょう」


 え?髪色を変えましょう、と薦めたのはスカラファ様では?


「嘆かわしいことだな。土まみれの汚ならしい田舎者が、貴族令息の誰もが振り返りダンスの誘いも引く手数多の美しいスカラに並ぼうなどとは。無謀という言葉を知らないのか?」


 あんな気味の悪い女に好かれて可哀想に、と柔らかな髪を一房救ってキスを落とし、手を取って指先にもキスをし、こめかみにも慰めるようにキスをしていた。


 え、あれ本当にジョケルド様?と二度見したのはいうまでもない。此方が本性なのだろうか。


 よく見ればジョケルド様はベンチに座っていて、彼の膝の上にスカラファ様が座っているようだ。

 前々からお二人はお似合いだと思っていたけどこれはどういう状況だろうか。


 わたしを待っていたのではなく二人は逢瀬をしていた?もしや今までスカラファ様がお茶会に同席していたのはわたしを慮ってではなく牽制?


 お二人はやはり想い合っていたと。

 答えは導き出されたけれど、ならなぜわたしなんかと婚約を?


「それに……スカラには何度も零してしまうが、陛下もお人が悪い。

 あんな汚ならしい芋女を娶れと言われた時はあまりの腹立たしさに邸を魔法で半壊させたくらいだ!その間にスカラが誰かに盗られたらどうするんだ!!」


「ジル、声を抑えて。誰かが見に来てしまうわ。あなたが嫌でもあなたはお義姉様の婚約者。わたくしとこんなことをしていたら勘違いされてしまうわ」


「いいさ勘違いされても!スカラがいれば私はそれでいい!」


「ああダメよ、ジル。いけないわ」


 膝の上にいるのもあって抱きしめられたスカラファ様は振りほどくこともできず、むしろ縋るようにジョケルド様を抱きしめ返した。

 その光景を呆然と眺めながら、そういえば二人はずっと愛称で呼びあっていたなとやっと気づいた。


「スカラ、愛しいスカラ」

「ああ、いけないわこんなこと。お義姉様に見つかったら」

「見せつけてやればいいさ。私達がこういう仲だと知れば、鈍感な田舎者もさすがに自分立場を思い出して婚約を破棄できるようなバカなことをしでかしてくれるかもしれない」


「お義姉様は自由奔放な方よ。こんなところを見たらきっと怒り狂ってしまうわ。それでジルに何かあったら……」


「……ああ。私にか。確かにスカラに対してあの女の執着は異常だな。義妹のきみのものをすべて奪おうとしている」


「お義姉様はジルのこともわたくしから奪うつもりよ。わたくしの気持ちを知っているはずなのに……うぅ、」


 ん?ジョケルド様がお好きという話かな?見てればわかるけどスカラファ様からそんな話聞いたかな?


「ああ!私達はなんて不幸なんだ!!こんなにも想い合っているのに!」


 そう言って二人は隙間なく抱き締め合った。



「愛してるよスカラ。他の誰でもないあなたが好きだ」

「わたくしもよジル。でもあなたは……」

「言うな!言わないでくれ!いくらきみでもそんな残酷な言葉は聞きたくない!」


「ごめんなさいジル……でもわたくしも切ないの。胸がシクシク痛むの。ほら、ここが痛いの。この痛みはあなたを想っているからなのよ」


 スカラファ様がジョケルド様の手を取ったかと思いきや躊躇なく大きく柔らかな胸に押しつけてきたので思わず手で顔を覆ってしまった。

 スカラファ様、それはいけないことです。未婚の女性がしていいことではありません!


 ハラハラとしていたら切羽詰まった声をあげたジョケルド様がスカラファ様を再びきつく抱きしめる。

 そしてお互い熱を帯びた目で見つめ合いそのまま顔を近づけ、二人は想いを確か合うようにキスをした。


 あまりの熱烈な光景に驚き腰を抜かしたレシフォーヌは見つからないように物陰へと身を隠した。


 しばらくするとまた静かになり、またボソボソと声が聞こえてきた。



「王命に逆らえない私を許してほしい。私に力さえあればあんな忌々しいスカラの物真似をしたハリボテなど王都(ここ)から追い出してやるのに。

 くだらん功績を上げ陛下から腕輪を下賜されなければこんなことにはならなかったんだ」


「ダメよ。そんなことをここで言ってはいけないわ。確かにお義姉様はわたくしからジルを奪うつもりだけれど、あの腕輪は自分には不相応だと恐縮していたのよ」


「……そんな繊細な心があの田舎者にあったのか?」


 そんな、心の底から驚かなくても。


「ええ。けれど陛下から〝外すことは一切ならぬ〟と厳命されていて……その時わたくし気づいてしまったの。

 陛下はあの腕輪を使ってお義姉様に何かさせようとしてるのだと」


「何か?」


 それはレシフォーヌも気になっていた。けれどスカラファ様も何かの答えは知らないようだった。


「けれどいい話ではないと思うわ。だってあの腕輪、古代遺物ですもの」

「ああ、だから豪勢なだけで品のない拙い作りだったのか」


「古代遺物はいわく付きのものが多いと聞くわ。だからお父様にお願いして邸にいる時間をできる限り減らしてもらったの。工房を作らせたのもそうよ」


 確かに火事があっても何もできない遠さにありますね。そういえば出来上がった物は見てくれるけど誘っても工房に来てくれたことはなかったなスカラファ様。


「だってわたくしの邸で何かあったら嫌でしょう?出来の悪い子爵の血(義姉)をクロリーク家に入れるだけでも醜聞だったのに……これ以上はごめんだわ」


「だからあの皿を壊したなんて嘘をついたのか」



 え、それも?


「普通考えたらこの話をジルが持ってくるわけないのにね。大慌てで工房に走って行ったわ。そんなに栄光に縋りたいのかしら?」


「他に何もないから仕方ないんじゃないか?…だが皿を作りあげた後はどうする?」


「また割ったと言って作らせるわ。そうすればお義姉様は邸にも帰らずあの薄汚いところにこもりっきりになるもの」


 クスクス嗤う声が聞こえる。夜に聞こえる声は魔性か人を誑かす妖精のようだ。



「そうだな。〝約束を忘れてやって来ないあの女をスカラと待っていたらいつの間にか夜になっていた。〟と言えば使用人達は簡単に信じるだろうし、スカラと長く二人きりで過ごせるしな」


「家の者は皆お義姉様よりわたくしの言葉を信用しますもの。はぁ……お義姉様なんか帰ってこなければいいのに…」


「いじらしく可愛い私のスカラ。私達は真実の愛で結ばれている。あんな女のことなど忘れて私を見てくれ」


「ジル……」



 また愛を確かめ合い出したので復活したレシフォーヌは急いで自室に戻った。


 えらいものを見てしまった。

 お似合いだと思ったのはずっと前から恋仲だったからなのだろう。そんな二人の間に王命とはいえお邪魔をしてしまって申し訳ない気持ちになる。


 ジョケルド様に関しては最初から気後れして未だに慣れないから破棄でも白い結婚でもまったく構わないのだけど、彼が言うようにスカラファ様は完璧だからいつ誰と結婚してもおかしくない。



 レシフォーヌは思った。何で田舎娘のわたしに公爵令息の婚約者ができてスカラファ様にはいないのだろうかと。

 一応功績をあげてはいるがスカラファ様はそんなことをしなくても婚約者がいたはずだ。もしかしてジョケルド様との婚約を知らずにわたしが引き裂いてしまったのだろうか。


 それとなく邸の使用人に聞いてみたら理由はすぐわかった。

 スカラファ様は元々は王太子の婚約者候補の一人だったそうだ。けれど別の侯爵令嬢が勝ち取ってしまい今は傷を癒されているのだとか。


 それはお辛いでしょうねと心を痛めれば、なぜか『間違っても自分の方が王子様にお似合いだとか騒いでお嬢様に迷惑をかけないでよ!』と叱られた。


 ジョケルド様ですら怖くて仕方ないのに王太子様に自分を売り込むなんて世界がひっくり返ってもできないですよ。何でそんなことを言うのだろう?


 不思議に思ったがそれだけ繊細な話だからくれぐれもスカラファ様に話さないようにということだろうと思ってその日は部屋に帰った。



 明日は窯から皿を出して確認する日だったのだけど、寝て起きたら目は覚めたものの体が重くて動くことができなかった。こんなにダルいのは初めてで酷く狼狽した。


 お医者様には『まあ、寝てればそのうち治るでしょう』と言われたけど体の中をどんどん吸われ抜かれていくような感覚に恐怖を覚えた。

 布団の中にいるのに体は冷たく震えが止まらない。寝ていれば本当に治るのだろうか?



「…ス…スカラファ様……」


 ノックと共に入ってきたのはスカラファ様だった。良かった。申し訳ないけどもう一度お医者様を呼んでもらえないか聞こうと思った。

 この感覚は普通と違う気がする。話せばきっとスカラファ様もお医者様を呼んでくれるはずだ。


 いつも柔らかい日差しのような笑みを浮かべていたスカラファ様だったが今は真剣な表情で起き上がることもできないレシフォーヌをただ見下ろしている。

 その空気に呑まれ、レシフォーヌは言おうとしたことが言えず口をつぐんだ。


「皿はできたか?とジルが聞いているのだけどどうかしら」

「お、お皿ですか?」


 いつもなら体調を気遣ってくれるのに今日はどうしたのだろう。

 お二人の仲を邪魔するつもりはないしお皿も本当は必要ないとわかっているけどそれを言えそうな雰囲気も隙もなかった。


 不思議に思いながらも窯の中も冷めただろうから蓋を開けて確認するつもりだったと答えると「まだそんな汚いところにあるのね」と嫌そうに嘆息を吐いた。


「わかったわ。あなたの代わりにわたくしがジルに皿を渡してあげるわ」

「え、で、でも出来上がりの確認を」


「見なくていいわ。皿の周りにあるオレッキアがあれば問題ないもの。それさえあれば誰も気づかないわ」

「……え、」


 何を言っているのだろう。見る場所はオレッキアだけじゃないのに。


「ドレスやティーセットならわかるのだけどあの皿の良さがさっぱりわからないのよね。

 皿の周りをギラギラさせて下品にしか見えないのにあれが良いだなんて。殿方の趣味はわからないわ」


 もう一度悩ましげに溜め息を吐くスカラファ様にレシフォーヌは驚き固まった。

 どういうこと??と混乱しているとスカラファ様がさっさと出ていこうとするので慌てて引き留めた。



「ま、待ってください!その皿は毒を検知できないんです!」


 多分だけどあれはグノーが儀式で与えてくれたものだ。ただ焼いただけではそんな効果は得られないだろう。

 動かない体をなんとか駆使してスカラファ様に訴えると振り返った彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。



「それでいいのよ」



 その笑みは今まで見た中で一番妖艶で、恐ろしく見えた。




 ◇◇◇



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