オオカミさんとウサギさん
私は高3、ようくんこと洋子ちゃんは高1と年齢差は、維持されているようだ。
私は女の子のときと同じバスケ部に入っていた。
背が高くなった上に軽快に動けるので、すいすい活躍できて気持ちが良い。
「うちの部に新しい部員が入った。マネージャーの新子洋子くんだ」
ええーっ。
最初はびっくりしたけど、私の活躍を近くで見たくて転部したらしい。
「今度の試合、頑張ってね。あの、私、早人くんのお弁当作ってきていいかな……」
「すっかり女子になりきってるじゃん」
「それ、あまり言わないでください……。我に返って消えたくなります」
おじさんであることをいじると反応がかわいい。
だけど、あまりいじめすぎたら嫌われちゃうからほどほどに。
「けなげでかわいい彼女が居て俺は幸せだわ」
「そんなこと……」
ふとももをもじもじさせている。
ちょろかわいい。
ちう。
「きゃあ!」
ほっぺにキスをしてあげると、うさぎさんみたいにぴょんぴょん跳ねて逃げて行った。
高校時代というのは勉強に部活に学園祭に時間泥棒のイベントだらけで、思ったようには自分の時間も取れず、引いてはふたりの時間も取ることもできず、先輩と後輩ではクラスもすれ違い、いちゃいちゃする時間はお昼休みか登下校などの時間に限られてしまう。
そんなわけで、私たちが付き合っているのは、クラスメイトにはバレバレでからかわれ、親の耳にも入ることとなるのだった。
「高校生らしい健全な交際をするんだぞ」
お父さんから条件付きでデートをする許可をもらい、月に1度は公園や河川敷でお金のないカップルなりに青春をした。
キスをしたり手を握ったりすると恥ずかしがるのが面白くて大胆になってしまう。
そして、ある日、両親が家に不在の日に、親の言いつけを破り、洋子ちゃんをおいしくいただかせてもらいました。
「大人になってからにしようって言ったのに……しくしく」
そんなことを言いながらも、時々、私の方を見ては、何かを思い出し、にやにやするなど、まんざらでもない様子。
愛しの彼が、花のように恥じらう姿は、その辺に転がっている乙女より尊かったです。
ごちそうさまでした。
私は、いや、俺は失われた青春を取り返している気分だった。
まるでヨーロッパの戯曲、ファウスト伝説の主人公になったかのようだ。
記憶が確かならば、ファウスト博士は悪魔に魂を売り、智謀はそのままに若さを取り戻した。
そして、少女グレートヒェンと許されぬ恋に落ちて、彼女を死なせてしまう。
その後も自由に生きるが、死の間際、悪魔の手によってに永遠の虚無の世界に連れていかれそうになったところを、グレートヒェンの愛の力により救済されるのだ。
若返りと性転換をもたらしたのは今まで神様のような力だと信じていた。
だけど、それが悪魔の仕業だとするとどうだ?
いたいけなグレートヒェンを生贄にして自分だけが幸せになり、彼女によって救われるようなことが、今後待ち構えているのだろうか。
はは。まさかね。
だいたい、ファウスト伝説は、自由な恋愛が許されてなかった時代の話である。
現代の価値観に持ってくるのがバカげている。
俺は高校を一足卒業し、大学は情報学部に進むことにした。未来のテクノロジーの進化の方向性を一度目の人生で知っている身としては、何の起業をすれば、成功者になれるか努力の道筋が見えていたからだ。
あわよくば、競馬の馬券を買えば簡単にお金持ちになれたに違いなかったが、興味を持っていなかったのが悔やまれる。
そして、学内ベンチャーを立ち上げ、マスメディアから取材されることになる。
未来ではありがちなWebサービスを立ち上げただったが、その時代にしては、先進的なもコンセプトのように見えたようだった。
仕事の成功も将来が約束され、可愛い彼女もいる。
俺の人生はすこぶる順調に進んでいた。
そんなある日だった、洋子につわりが来たのは。
だいぶ、オオカミさんごっこしたからなあ。
洋子は大学を中退し、俺は、卒業して、ベンチャー企業を順調に育てていった。