さっそくプロポーズ
不思議なことに私のことを周囲の人間たちは、家族もクラスメイトも生まれた頃から男子のハヤトであったと認識しているようだった。
懐かしの同級生たちが若いままの姿でいるのを見て涙が出そうになる。
駅前のコンビニも潰れていない。
あの頃の街並みとあの頃の人間関係が再現されていた。
どうやら私は神様に人生をやり直すチャンスをもらったらしい。
しかも女子としてではなく男子として。
仕事人間として半生を過ごしてきた私にとって女であることは枷だった。
男として生きていけばもっと稼げたかもしれないし、出産によってキャリアが絶たれる心配をしなくてすむ。
そんなことを何度か考えたことがある。
それが今こうして……。
どうやら、世の中は思っていたほど捨てたものではないらしい。
しかし、困ったのは男子高校生というのは、私が思っていたよりもスケベな生き物だということだ。
街を行きかうかわいい女子を見るたびに、パンツが見たくなる願望にかられるのだ。
それこそ、愛する特定の誰かだけじゃなくて、可愛ければ誰でも。
オスの本能といえばそれまでだが、元女からして見れば、罪な生態である。
ほら、例えば、今、私のそばを横切ろうとしているかわいい子猫ちゃん。
ん?どこかで見たことのあるような顔。
誰かに似ているけど思い出せない。
「あの。もし?そこのお嬢さん?」
私が肩をそっと叩くとその女子はビクッと跳ねて固まった。
ああ、そうか。
今の私は男子だった。
見知らぬ男子が女子に気軽に触れたら、そりゃあ、ビクつくよね。
「もしかして、早苗さん?」
彼女は私のことをハヤトではなくサナエという名前で呼んだ。
「ようくん?」
「えっと、その、今の僕は洋介ではなく、洋子みたいです」
もじもじしながら目の前の女子は言った。
「か、かわいい」
ただでさえ、美少女なのに、正体がようくんだと思うと、いろいろとたまらなくなった。
「かわいいって……ごめんなさい!」
なぜかあやまられてしまった。
(僕の正体がおじさんだってこと、誰にも言わないで。ばれたら恥ずかしくて外を歩けないです……)
必死でばたばた背伸びしながら耳打ちしているのが、小動物みたいで実にかわいい。
変身する前はお互い身長が165cmくらい同じ身長夫婦だったのが、性別逆転することで、私はより高身長に、ようくんは低身長になってしまったようだった。
この子のパンツも見てみたいな。
「最後の願い、叶えてしんぜよう」
どこからか声が聞こえてきたかと思うと、風がふわっと舞い上がる。
「へ?」
ようくんのスカートが舞い上がり、パンツが丸見えになる。
「わわわっ!」
ようくんは、必死でスカートを抑え込んで女の子座りでへたりこむ。
「すべての願いをかなえた。さらばだ」
もし、これが、神様的なものの仕業としたら、なんだか、すごくしょうもないことに、大事な願い事を使ってしまった気がする……。
「み、見た?」
「うさぎ」
「ごめんなさい!家にこれしかなくて、あ、いや、他にもあったんだけど、ちょっとかわいいかなと思って…うわああ。違うんです。誤解です」
真っ赤な顔をしてまくしたてる。
悪いことをしたのはむしろ私の方なのになあとか思いつつ。
「ふふ」
周囲に誰もいないことを確認すると、低音イケボを作り、耳打ちすることにした。
(うさぎさんパンツ履いてること、黙っててほしいですか?)
「~~!」
(黙っててほしかったら、高校を卒業したら、私のお嫁さんになってもらえますか?)
ようくんはうつむいたと思うと恥ずかしそうにうなづいた。
やばいほど興奮するんだけど。
(男性だった頃と変わらずドエムですね。たっぷりとかわいがってあげるよ)
美少女はおびえた上目遣いでこちらを見つめていた。
世界一痛いバカップルがここに誕生した。