朝起きたら男子高校生!?
「先生。やっぱり、無理でしょうか?」
若い医者は眼鏡をくいっと上げた。
「残念ながら。医療にも限界がありましてね。誠に申し上げにくいのですが、お二人がもう少し若ければ…」
「そんな……」
私の名前は、新子早苗、40代。2歳年下のようくんと結婚したばかり。
ささやかながらも幸せな新婚生活を送っていた。
だけど、お互い子どもを作るには年を取りすぎていた。
私の人生が思い通りに行かなかったのは、学校卒業時の不況だけが原因ではない。
子どもが欲しいと心のどこかで思いながらも、仕事に追われる日々を甘んじて受け入れていた。
お局様だとあだ名されながらも、それが生きがいだと自分に言い聞かせながら。
ようくんと出会ったのは、婚活パーティー。
偶然同じ高校だったことから、意気投合して、勢いのまま結婚した。
いい年して、少年のように好奇心が強くてかわいい。
そんなようくんのことが私は大好き。
ようくんは子どもが欲しいとは言わなかったけど、欲しがっていたのはなんとなくわかっていた。
私もほしかった。
でも、応えることのできない自分を恨んだ。
もっと早く私たちが出会っていたら…。
そんなことを願いながら、私は、ようくんとツインベッドで眠りに落ちた。
「そなたたちの願い、一つずつかなえてやろう」
そんな声が聞こえた気がするが、私は深く眠りに落ちた。
翌朝、目が覚めると違和感があった。
起き上がるとなんだか体が軽い気がする。
エネルギーに満ち溢れているっていうか。
肌をさわるとすべすべ。
でもあごのあたりをさわるとちょっとじょりじょり。
なにこれ。
「ハヤト!学校遅れるわよ!」
下から懐かしいある声がする。
まだ、生きていたころのお母さんの声だ。
なぜかうっすらと涙がこぼれた。
胸に手を当てるとあるはずのものがない。
そして、股間に激しく強く血が巡っているような感触が。
それは、ついていた。
部屋をぐるりと見まわすと、出身高校のものとわかる男子のブレザーが吊ってあった。
胸のポケットから、生徒手帳を首尾よく取り出す。
最初のページを開くと若い頃のお父さんとよく似た顔の写真がまず目に入った。
次のページには3年2組「八幡早人」という名前が書いてあった。
八幡は私の旧姓だ。
早苗だから早人か。
なぜだかわからないが、私は、20年以上前の時代にさかのぼり、男子高校生になっているようだった。
何が起きているのかさっぱりわからないが、言えることは一つ。
今、自分が置かれている状況をいち早く把握し、適応しなければならないことだ。
ざっと鞄などの中身を調べたら、携帯電話は…ないか。
記憶をたどると高校時代は持たせてもらえてなかったし、そのあたりは女子だった頃と変化はないのかな。
ふと、時計を見ると、遅刻ギリギリの時間だった。
在りし日の家族を懐かしむ暇もなく、当たり前のように着替えて、当たり前のように朝ご飯を食べ、当たり前のように歯を磨き、当たり前のように家を出た。