【小話・1】波動拳と昇竜拳
─またヴィリーの家に魔王が遊びに来た。
ミケは箪笥の上から、テレビに釘付けになっているヴィリーと魔王の様子を警戒しながらみている。
テレビからは
「昇竜拳!」どどーん!
「昇竜拳!」どどーん!
「波動拳!」ぴよぴよ…
と言う声と効果音がなりつづいていた。
そして、次の瞬間。
「K.O.!」
と、テレビから流れる。
ヴィリーが魔王の方を向いて
「おいてめぇ、昇竜拳と波動拳しか使ってねぇじゃねぇか!」
と、言うと、魔王はニヤニヤしながら
「波動拳打つとお前すぐにジャンプで飛び込んで来るから、昇竜拳の格好の餌食なんだよ。」
勝った魔王は得意げに言う。
ミケは「くわぁぁ」とあくびしながら
(…あー、こりゃあまた始まりそうでありんすね。昼寝はできそうにないでありんす。)
と思いながら背伸びをして座る。
ミケは半分目を閉じながら
(全く…いつも喧嘩になるんだから、ゲーム、と言うか格闘ゲームなんてやめりゃいいものを…。)
と、思いつつも眠気と格闘している。
「ずりぃんだよ!もっと別のことしろよ!おんなじ事しかしねぇでよ!」
ヴィリーが持っていたコントローラーを座布団(笑)に投げつけながら魔王の胸ぐらを掴む。
魔王はその手を振り払う事も無く
「いつも考え無しに飛び込んで来るお前が悪いんだよ。」
と、まだケラケラと笑っている。
寝ぼけ眼のミケは
(…まぁ、ヴィリーは格闘ゲーム下手でありんすからねぇ…わっちとやっても連敗かまして、ヴィリーがキレて終わるのが通常運行でありんすからね。昨夜だってわっちも胸ぐら掴まれたでありんす…)
ミケは「はぁ…」とため息をつく。
「何だと?もう一回だ!!」
ヴィリーがコントローラーを握ると魔王は
「そんなに波動拳と昇竜拳がイヤなら、お前も春麗じゃなくてリュウかケン使えばいいじゃん。」
と、言うとヴィリーは
「は?何が楽しくて野郎の行動を凝視しなきゃなんねぇんだよ。」
と、言いながらまた春麗を選ぶ。
「…そーかよ。(だったら文句言うな)」
魔王は呆れているが接待格ゲーする気は毛頭ない。
「れでぃ…ふぁぃっ!」
そうテレビが叫ぶと二人はまたガチャガチャやり始める。
「波動拳!」
「昇竜拳!」
「昇竜拳!」
さっきと同じ声ばかりが流れる。
そしてヴィリーがだんだんと不機嫌になる。
「…(怒)」
淡々と波動拳と昇竜拳を繰り返す魔王に、ついにヴィリーがまたキレる。
「だぁぁぁ!!波動拳うぜぇぇぇ!!!」
その声にミケが反応。
─ウルサイ。ガマン モウ ゲンカイ
ミケは簞笥から降りわざとテレビの前に座り顔を洗う。
「ミケ!邪魔!!」(ヴィリー)
「ネコ!邪魔!!」(魔王)
と、二人の叫び声がハモる。
…プチッ(何かが切れる音)
ミケは「わざと」コードに足を引っ掛けて、ゲーム機からコードを引っこ抜く。
─プツっ
テレビが真っ暗になる。
「ミケ、ナーーーイス!!」(負けそうだったヤツ)
「アッーーーーーーー!!」(勝ちそうだったヤツ)
「おい、ミケ、何すんだ!もうちょっとで勝てたのに!!」
魔王がミケに文句を言うがミケは知らん顔して顔を洗っている。
「あはは、ネコのした事だ、心を広く持てよ。」
ヴィリーがニヤニヤしながら言う。
「あぁ、そうだな。ネコに罪はねぇ。てめぇの躾方が悪い!」
と、魔王がヴィリーの胸ぐらをつかむ。
「はぁ?俺が何で悪くなるんだよ!」
と、ヴィリーも胸ぐらを掴み返す。
それを見たミケは
(…しまった…火に油だった…!?)
と、思ったが時すでに遅し。
ギャアギャアとリアルファイトが始まった。
ミケはそれを見て
(…えっと…あー、なんでありんしょう…。わっちのせいではないでありんす…!間違いなく!)
と、無駄にグルーミングを始める。
「…何?この状況…?」←魔王を迎えに来た吸血鬼
リアルファイトなので家具がボロボロ、猫は毛がベチョベチョになる程グルーミングで、吸血鬼は浦島太郎。