俺の人生、サイコロで決まるとは聞いてない。
俺は今、人生最大の危機に直面している。周りのいかつい男たちに囲まれた状況でこれからサイコロを振ることになっている。出た目の数で俺の命は決まる。何も聞いていないが、六が最高な出数のはずだ。
時を遡ること一時間前。俺は人通りの少ない路地裏を歩いていた。理由は単に大通りには人が沢山居て苦手だからだ。
歩いた先に男が一人不気味に笑って立っていた。来た道を引き返そうかと思った。けど、そうもいかないみたいだ。
「おい、俺と来い。お前の命を懸けて一勝負しようじゃねえか。逃げられないぜ」
いつの間にか、他の男たちに囲まれていた。つくづく運が悪い。今日に限っては。
というわけで、サイコロを振らなきゃいけないことになった。
「早くしろ!」
急に怒鳴られ、俺はサイコロを手にした。男たちはヘラヘラと笑ってやがる。仕方ない。振るしか……。
サイコロを握りしめ、振った。当たってくれ。どうか、頼む。サイコロが転がっている時、俺は願った。それしか出来ない。
「これは……」
「なんだよ!」
男たちの声が聞こえた。閉じていた目を開けて、確かめる。肩を落とした。サイコロが出た目の数は一だったからだ。最悪だ。そう思った瞬間だった。
「お前ら行くぞ」
『おう』
男たちは俺を残して去っていった。どういうことだ? 負けたんじゃないのか? けど、助かった。いや、出た目が一っていいのか。良くねえよ!
「やっぱり、ここにいたのね。早くここを出ましょう。警察がくるわ」
聞き覚えのある声とともに一人の女が入ってきた。さっきまでいた男たちとすれ違ったはずだ。なら、なぜ今ここに……。
「ほら、早く!」
急かされ、俺は外へ駆け出した。さっきの出来事は今までで一番不思議な出来事として記憶の中にいつまでも残った。何年経っても。
-終-