任務完了! しかし……
王都に着いた私は、すぐに町の広場に設けられた治療院へ向かった。
ケガ人は魔物と戦っている騎士だけでなく王都の民も大勢おり、仮設テント内には入りきらずベッドもない場所に野ざらしで寝かされている人が多数いるようだ。
治療を担当している治癒士たちも皆一様に疲れ切った表情で、いつ誰が倒れてもおかしくはない。
「…………」
予想以上の惨状に、言葉を失う。
女神Aさまは、人々を救う手段については私に一任すると仰っていた。
状況からみて早急に解決しなければ被害が拡大すると判断した私は早期決着を目指し、まずはケガ人の治療と治癒士たちの士気向上を図ることにした。
(この一帯をすべて覆って、回復魔法を掛けるのが一番手っ取り早いんだけどな……)
女神の力を発揮すれば、一瞬で治療は終わるだろう。しかし、実行すれば悪目立ちするのは目に見えている。
逸る気持ちを抑え、地道に、しかし手早く回復魔法を掛けてまわることにした。
一人一人では非常に効率が悪いので広域魔法を展開させ、それを数度繰り返し、ここでの治療は完了だ。
急にケガが治ったことに驚き呆然と立ちつくす人たちを広場に残し、私はついに元凶と対峙する。
穴の周囲には濃い瘴気が立ち込め、何人たりとも近づくことはできない。
少し離れた場所から浄化魔法で瘴気を薄めようとしているが、量が多すぎて対処しきれていないようだ。
その間にも、魔物は続々と湧いている。
まずは瘴気の穴を塞ごうと近くにいた魔導師と騎士たちに声をかけ、協力を仰ぐ。
彼らの手助けがなければ、厄災は収束しないのだ。
「私が瘴気の穴を塞ぎますので、皆さんは残った魔物の討伐と瘴気の浄化作業をお願いします」
「ハハハ、あなたがどこのどなかは存じませんが、お一人であの穴を塞ぐことは不可能かと……」
「穴を塞ぐって……あんた一人でか?」
「そんなの、どう考えても無理だろう……」
悲壮感を漂わせた人々が口々に意見を述べているが、精神を集中させている私の耳には届いていない。
両手に魔力を集めると、左右の手のひらの上に光の塊ができた。
それを少しずつ大きくしながら、穴の状態を観察し機会を窺う。
じっと観察を続けていると瘴気の噴出が一瞬だけ弱まり、その隙を逃さず私はすぐさま右手の光の塊を穴の奥へと押し込むように投げる。
塊が穴に入った瞬間 目も暗むような閃光がはしり、光の柱が立つと同時に瘴気の流出が止まった。
上手く入り口付近の魔物と瘴気を、今だけ殲滅させることができたようだ。
成功に喜ぶ暇もなく、続いて間髪入れず二発目を投げる。
これは蓋の役割をさせるために、穴へ覆いかぶさるよう調整した。
穴を塞いだあとは幾重にも結界魔法を重ね掛けし、決して破られないように封印をして終了。
こうして厄災の脅威は去り、私は無事に任務を終えたのだった。
◇
あれから一か月が経過していたが、私はまだ王都にいた。
「はあ……早く帰りたい」
代り映えしない窓からの景色を眺めながら、思わずため息が出る。
私は、王城内の一室に軟禁されていた。