45年間の軌跡
次回が最終回と言って前話をUPしてからだいぶ間が空いてしまいました。申し訳ありません。
「扉・・・」の方にも本業が忙しいと書いていた通り、時間が取れなかったこともありますが、最終話をUPしたものと思い込んでいました。
これまでよりも少し長いですが、ご容赦ください。
今回は戻される心配はないのだが、これまでの周回では60歳に戻された後で振り返ってみると、レスになっていたとか、実の娘に「結婚なんかしたくない」と言わせるほど夫婦仲が冷え込んでいたりしていたことなどがあったので、俺は戻された直後の気持ちを絶対に忘れることがないよう肝に銘じた。これはあくまで俺の推測だが、俺をタイムリープさせた例の声の主は、俺と由美乃を結び付けるだけでなく、俺に初心を思い出させるためにいきなり60歳に戻したのだと思う。なら、俺が初心を忘れ、1回目の時のようにレスになったりしたら元の木阿弥だ。力を失った例の声の主のやったことが、悪戯に過去を改変しただけの悪行になってしまう。そうなると、何らかのペナルティーが科せられたりするのかもしれない。まあ、もともとの世界では誰とも結婚できなかった俺と、3回も離婚を繰り返してきた由美乃の組み合わせなら、歴史が大きく変わることなどないのかもしれないが。
「でも、まー兄がもともといた世界での私の娘って、まー兄との子供じゃないってことだよね?」
「由美ちゃんが誰の子供を産んだのかは、俺も知らないんだけどね。」
「嫌っ! そんなこと考えたくもないっ!」
「それはもう今の俺達には関係のないことだよ。例の声の主が、俺達の何代後の子孫なのかはわからなくても、確実に由美ちゃんと俺の子供や孫、曾孫、玄孫・・・まあ、そんな風に続いていくってことは確かなんだから。」
俺の言葉に由美乃が顔を赤くして頷いていた。
* *
国立大付属高校入学後も、俺は由美乃の家庭教師を続けつつ、学年でベスト5をキープしていた。当の由美乃も俺が家庭教師をしたことで、中学の最初から学年10位前後の好成績を収めていたので、結果として、お互いが受験生になってもその関係を続けることができた。
一方、文也は野球教室での活躍が認められて、都内の強豪校に特待生として進学した。そのおかげで、これまで月1回だった合宿の頻度が増え、夏休みなどは家にいることがほとんどなくなった。高校でも1年からレギュラーとなり、甲子園出場まであと一歩のところまで進んだりもしたようだ。
「甲子園に行ったりしたら、家族ぐるみで応援に行ったりしなきゃいけないから、面倒だなぁ・・・」
まあ、妹が応援に行かなかったぐらいで問題になるとも思えなかったが、惜しくも届かなかったので逆に運が良かったと言えるかもしれない。
由美乃の高校受験先は、地元の公立高校の中で一番レベルの高い高校を選択したが、もともとの俺の母校であり、年代が違うとはいえ受験経験のある俺の指導により、なんなく合格させることができた。俺自身はもちろんT大に現役合格を果たし、記憶がなかった1回目の周回と同じ結果を得ていた。
「本当は、まー兄と同じ国立大付属を受けたかったんだけどな・・・」
「それなら俺もOBとして会いに行くことができたんだけど・・・ こればっかりはね・・・」
由美乃の成績は決して悪くはなかったのだが、国立大付属は学年で3位以内でもなかなか合格できないほどの難関だっただけに、それは実現できなかった。だが、地元の公立高校なら通学は楽だし、大学生になった俺とは普段から時間が共有できるので、却ってその方がよかったのかもしれない。当然、由美乃が高校生になってからも家庭教師は続け、大学への進学を目指すことになった。由美乃は教師になりたいようだ。
俺は教職課程は取らず、国家公務員試験を受け合格し、卒業後は大蔵省(後の財務省)に務めることになった。だが、こう言ってしまうと公務員を真剣に目指していた人からは恨まれてしまうかもしれないが、この肩書は、由美乃と結婚するため、誰からも反対されないようにするために欲しかっただけなのだ。もちろん肩書だけでなく、仕事はちゃんとこなすつもりだが、俺にはもう一つ、別の考えがあった。
由美乃が大学に入学した直後、俺はまだ大学4年生で学生の身分ではあったが、21才にしては落ち着いているといわれていたこともあって、競馬の場外発売所(現在のWINZ)に行っても学生だからと馬券の購入や当たり馬券の換金を止められることはなかった。また、大学生ともなれば、さすがに由美乃の両親もタダで家庭教師を続けさせるわけにはいかないとバイト代をくれるようになっていたので、軍資金は十分ある。ここからは知識チートで由美乃との結婚資金を捻出しようと考えたのだ。
だが、俺が場外発売所にいるのを目ざとく発見した人がいた。誰あろう、的場さんだ。
「雅哉く~ん、ここに来たってことは、明日の皐月賞、もしかして結果知ってるよね・・・?」
うーん、やっぱり錦糸町に来たのが間違いだったか・・・
「面白くないから、当り目を教えてくれとは言わないよ。リキアイオーが来るかどうかだけ教えてくれないかい?」
「まあ、その程度なら・・・ 消しでいいですよ。」
「じゃ、もう一つ、ハイセイコーの子供はどうよ? 工場長はこれを狙うって言ってたんだけど?」
「いいと思いますよ。ダービーでも狙えるでしょうし。」
的場さんが何を買ったのかは聞かなかったが、後日、工場長と一緒に祝杯を挙げていたと由美乃から聞いたので、多分、正解にたどり着いたんだろうな。
ちなみに俺は、枠連2-3という結果を知っていたので、バイト代を貯めてタンス預金していた10万円を1点で突っ込んだ。だが、当時の発券機では1000円券を100枚買うしかなかったことと、さすがに配当金249万円を一括で払い戻しては目立ちすぎるのと、身バレしたら学生であることがわかってしまうのでマズいと考え、当たり馬券の払い戻しは1000円券1枚ずつを、日も変えつつ小分けにしておこなった。100万円以上の払い戻しは、帯封がついた札束を貰えるらしいから、ひそかにあこがれてはいたのだが、それはまたの機会の楽しみとしよう。
そんなことを繰り返して俺のタンス預金は、大学4年の1年だけでとんでもない額に膨れ上がっていたが、俺はこれをすべて由美乃のため以外に使うことはしないと誓った。確定申告? 大蔵省に勤めている人間が脱税するわけにもいかないから、就職後はちゃんと申告したので、ご安心を。
* *
由美乃が20才の誕生日を迎えたその日、俺は由美乃に招かれる形で誕生会に参加した。
「うーん、これは身内だけの集まりなんで、雅哉君は呼ばなくても・・・」
由美乃の父は相変わらず俺を煙たがっていた。
「馬鹿言ってんじゃないわよ。文也よりもまーくんの方がこの家にいる時間が長いのよ? それに、由美ちゃんが大学生になれたのは、間違いなくまーくんのお陰じゃない?」
「工場長だって、甘い汁を吸わせてもらってるじゃないか? たまに外れはするけど、儲かってる方が多いんでしょ?」
身内だけと言いつつ何故か的場さんがいたし、由美乃の母が言うまでもなく、タイムリープして以降、俺が由美乃の家に顔を出さない日は1日としてなかったので、由美乃が自身の誕生日に俺を呼ばないわけがないのだ。ちなみに、競馬については、たまに間違った情報を伝えておいた。的場さんにはバレてはいたが、俺が未来から来ていることを知られるのはマズいから、100%正しい情報を伝えるわけにはいかなかったしな。
「お父さん、私、20才になったから、もういいよね?」
由美乃が誕生会の場で、この時を待っていたとばかりに切り出した。
「まー兄はもう、いつでも準備ができているって言ってる。私、明日から、まー兄と一緒に住むね。」
「あ、明日からっ!? い、いくらなんでも、唐突過ぎるだろっ!!」
父親の反応は当然として、母親や的場さんは驚きもせず、むしろ頷いていた。
「ま、まーくん、いったいいつから準備していたんだ!?」
「僕が大蔵省に入ったのはご存じですよね? 就職と同時にマンションを購入してますし、当然、必要な家具類も手配済みですよ。」
「確かに国家公務員なら信用はあるだろうからローンを組むのは不可能じゃないだろうけど、まだ大学を卒業してから1年もたっていないのに、頭金はどこから・・・ はっ? ま、まさか・・・」
マンションの購入資金全額を競馬で稼いだ・・・と言いたいが、さすがにそれでは目立ち過ぎるし、大蔵省職員としても問題になりそうなのて、普通に住宅ローンを組んだ。もちろん頭金は競馬の儲けだが、それくらいなら問題にもならない。ローンはそれこそ国家公務員の肩書により、審査は楽勝だった。
普通に勤めていても住宅ローンの返済などどうにでもなるが、2000年の10月になればロト6が発売になる。過去の(節目の)当選番号を覚えている俺からしたら、そこで一気にローン返済ができるはずなので、たとえ大蔵省をクビになっても問題はないのだ。
「由美ちゃんのためなら、たとえ一生を住宅ローン返済に追われても問題ありませんし。」
甲斐性がないみたいなセリフだが、これが由美乃の母親には刺さったようだ。まだ、学生の身分だし、一緒に暮らすのは卒業してからでもいいんじゃないかと言う父親を無視して、母親との話だけで由美乃の宣言通り同棲することが決まった。
「ただし、由美ちゃんが先生になって、3年・・・いや、2年間は、まだ子供を作っちゃダメよ。」
「僕としても、由美ちゃんのもう一つの夢を妨げたいとは思いませんから、それは了解しました。でも、それって、できない様にすればいいってことで、そのこと自体を待て、とは言わないですよね?」
「やめろ~!! 僕の前でそんな生々しい話はするな~!!」
結婚は由美乃が25才になってから、ということにした。由美乃との初体験は、表向きにはまだ、と言っているが、文也の合宿の際に的塲さんと一緒に泊り込むようになって何回目かの時に、俺達は一線を越えていた。その翌朝の由美乃の様子から、的場さんには気づかれていたようだが、特に何も言われなかった。・・・いや、何回目かは忘れたが、「ちゃんと避妊しているみたいだね、さすがだな。」と言われて赤面させられたことを覚えている。
* *
「もう30年以上も連れ添っているのに、あいかわらず新婚夫婦みたいに仲がいいのね?」
あきれた感じでそう話すのは、俺達の娘、雅だ。
「みゃーちゃんところもそうだけど、うちの親も大概だぜ?」
雅の隣にいるのは、俺達に婚約のあいさつに来た、健太達の息子、健司だ。3回目に60才に戻された時に知ったのだが、健太はさつきと結婚していて2人の息子を授かっていた。長男が雅と同い年で、俺達と同じように幼馴染の関係になっていた。
「感謝なさいな。貴方達が結婚できるのは私達のおかげなんですからね。」
由美乃が俺の方を見ながらそう言うと、昔の様に悪戯っぽく笑った。確かに、これまでのループでは、雅が誰かと結婚するという話はなかったし、1回目の時なんか俺達が不仲過ぎて結婚する気が起きないとまで言われたくらいだ。30年間、俺達が初心を忘れずに、2人の関係を大事にしてきたからこそ、今の雅があると言えるのだ。
「任せてください。俺達、お義父さん達みたいな夫婦になります!」
「誰がお義父さんだって?」
まあ、大事な娘を嫁がせるのだから、これくらいの嫌味は言わせてもらうが、俺としては当然、やぶさかではない。
「でもあの人・・・ みゃーちゃんの子供なのか、もっと後なのか・・・」
「たぶん、もっと後なんだと思うよ。俺達が直接会うことは、おそらくないんじゃないかな?」
「・・・・・」
俺達の現在があるのは、間違いなくあの声の主のおかげだ。もう叶わないとは思うが、できればもう一度、声を聞きたいし、会えるものなら会って話したい。
「お父さん、お父さんが私のお父さんで良かった。これからもお母さんをよろしくね。」
雅が俺に耳打ちしてきたが、その声があの声に聞こえたのは気のせいなんだろうか・・・
未完のままにしておくのもアリかなとも思いましたし、何よりも終わらせ方をどうするかでかなり悩みました。それで最終話のUPが遅れたわけではないのですが・・・
何はともあれ、これで本当に終了です。
これまでお付き合い戴き、ありがとうございました。




