戻される心配がないなら
申し訳ありません。2月中の更新ができず、3月も半ば(15日)になってようやくの更新となってしまいました。仕事もさることながら、健康上の問題もあり、1ヶ月半のご無沙汰となりました。m(_ _)m
初めて由美乃と同衾することになりますが・・・ そっち方面はあまり期待しないでください。(笑)
目が覚めるとそこには由美乃の寝顔があった。由美乃の頭の下に俺の右手があり腕枕にされていた。そのせいか右手の感覚がない。左手は由美乃の背中に回っていたので、俺は一晩中由美乃を抱きしめていたようだ。俺はその態勢のまま由美乃の寝顔をずっと見ていた。寝顔にキスしようかとも思ったが、下で寝ているはずの的場さんの気配が気になって自制した。まあ、これまで寝顔なんて見る機会などなかったから、こういうのも悪くない。
これまでの周回では、俺自身の進路が周囲の人達に認知された上で、他の女の子達に俺の気持ちをはっきり伝えるか、それと同様の既成事実を作るかすれば未来が確定したとみなされ60才に戻されたが、今回は例の声の主が力を失ったとかで、戻されることはないらしい。今の俺はまだ進路をどうするかは公言していなかったが、他の女の子達に対しては、今回由美乃と一緒に一晩過ごしたことは「既成事実」に近いインパクトを与えるだろうから、俺が将来のビジョンを明確にすれば「戻される」条件は満たすことになる。だが、今回は「戻される」心配がないなら、そこまでする必要はないかもしれない。
「それにしても、寝顔も可愛いよな・・・」
無意識にそう呟いてしまったが、その言葉に由美乃が反応し、一瞬で顔が赤くなったのがわかった。目を開いて俺を見るが、口が半開きのまま声が出てこない。顔を背けようとしたらしいが、俺の左手が背中に回っているので、それは果たせない。仕方なくなのか、俺の胸元に顔を埋めてきた。
「ま、まー兄・・・」
「由美ちゃん、おはよう。」
「お、は・・・」
俺は何回も由美乃が好きだと伝えているし、由美乃もそれに応えてくれたこともある。何より、例の体育館の舞台袖でかなりきわどいことをしているくらいだから、今さらだとは思うのだが、やはり寝顔を見られることは特別なことなんだろうか?
「もしかして、一晩中そうしてたのかい?」
後ろから的場さんの声がしたので、左手を由美乃の背中から離し、俺はゆっくりと的塲さんの方に顔を向けた。的場さんはニコニコしながら俺たちを見ていた。
「的場さん、おはようございます。」
「どうやら本当に何もしなかったみたいだね。」
「一晩中抱きしめて寝ていたのはOKなんですかね?」
「その程度、何かしたうちには入らないでしょ? それとも、雅也君は何かしたことにしてほしいのかな?」
確かに、由美乃の父親に一晩中抱きしめていたなんて報告でもされたら、間違いなく出禁になるだろうな。
「いや、僕は別に何もやましいことはしていませんよ?」
その言葉を聞いて由美乃がくすくす笑い出した。
「あれぇ? 由美ちゃん、もしかして何かされたのかい?」
「・・・そんなことない。まー兄って意外と根性なし。」
「由美ちゃん、そりゃないよ・・・」
「まあ、そういうことなら合格だよ。僕はてっきりいたずらの一つや二つはするだろうと思っていたけど、自制してくれたみたいだしね。」
どうやら、的場さんに試されていたけど、なんとか無事に切り抜けられたってところだろうか。しかし、いたずらの一つや二つって言っていたあたり、もう少しきわどいことをしても見逃してくれてたってことなんだろうか? そう考えるとちょっと残念な気もしたが。
* *
その日の午前中は、そのまま的場さんを含めた三人で過ごし、昼過ぎに由美乃の母親が帰宅すると、俺は的場さんに連れられる形で一旦自宅に帰った。的場さんから俺の両親に特段何もなかったと報告してもらったので、俺には何のお咎めもなかった。まあ、実際、何もしてないわけだから、後ろめたい気持ちなどこれっぼっちもあるわけないのだ。
だが、俺の想定通り、他の女の子達には「既成事実」として受け止められたようだ。
京子「私だってまーくんと一緒に寝たことなんてないのに・・・」
雪子「やっぱりまーくん、由美ちゃんのこと・・・」
初美「あらあら、これはまた修羅場の予感がするわね?」
さつき「シュラバってなーに?」
栄治「俺だって、雪姉と・・・」
健太「よかったな、雅也。」
一人わかってないのがいるのはご愛敬だが、いくら的場さんが一緒だったと言っても、彼女らはそんなこと信じちゃいないのだ。特に京子にはかなり突っ込んだことを聞かれ、泣かれたりもして辟易したが、これも通過儀礼だと割り切って淡々と対応した。
「京ちゃんにはなんか悪いことをしたような気にさせられたよ・・・」
「気にすることない。まー兄は私のだから、どっちみち京ちゃんにはあげないし。」
由美乃の口から「私の」と言われたのは今回が初めてというわけではないが、そう言われてニンマリする俺がいた。
文也の合宿はその後も月1回ペースであり、そのたびに俺と的場さんが呼ばれるようになったが、2回目以降は夜は的場さんとは別に寝ていた。もちろん、二人きりになれたからと言って、いつ的場さんが入ってくるかわからないので引き続き自制はしていたが、月1回とは言え、由美乃と二人だけの時間を作ってくれた的場さんには感謝しかない。
そうこうしているうちに、俺は自分自身の高校受験を迎えたが、親父との約束通り、1年1学期の中間試験から3年2学期の期末試験まで、俺は学年3位以内を守り切った。まあ、さすがに4回目ともなれば間違えようはないのだから、造作もないことだ。これまで同様、国立大付属に無事合格し、本来ならここで60才に戻される状況にはなったが、以前言われていたようにそんなことにはならなかった。
「そう言えば、あれ以来、話しかけてくることもなくなったな・・・」
「あの人、いや、人かどうかもわからないけど、話しかけることもできないほど力が弱まったってことなのかな?」
俺が国立大付属に進学したのと同時に、由美乃も中学生になったわけだが、これまでは戻されるタイミング的にセーラー服姿の由美乃を見られずにいたので、俺は猛烈に感動していた。そんなことを由美乃に話していたら、例の声の主の話になったのだ。
「もう話はできないのかな?」
「まー兄が小学生の時以来でしょ? もしかして消えちゃったんじゃ・・・?」
「声の主が誰で、何の目的で俺を過去に戻したのか、説明して欲しかったよな?」
その時、突然頭の中で例の声が響いた。
「本当ならこれで戻さなきゃいけないんだけど、それはもう無理だから、最後にあなたの質問に一つだけ応えるわね。」
「君は・・・? 質問に応えてくれるって?」
「まー兄、私にも聞こえた・・・」
「一つだけ?」
「そう、一つだけ。だから慎重に質問を選んでね。」
聞きたいことはいろいろあるが、やはり、声の主が誰なのか、か、何の目的で、のどちらかということになるのかな?
「まー兄、私から質問させてもらってもいいかな?」
最終的には由美乃もタイムリープに巻き込まれていたとは言え、もともとは俺の身に降りかかったことだ。だから由美乃に質問させるのは筋が違うのだろうが、何を聞こうか迷っていた俺にとって由美乃の申し出は渡りに船のように感じた。
「任せるよ。」
「はい、か、いいえ、で応えて。あなたは私の・・・私達の子孫なの?」
「はい」
それっきり、声の主が現れることはなかった。
本当なら戻されるタイミングで、あらためてそれができないことを伝えてきた声の主でしたが、ここにきて正体を明らかにしました。当初は、正体については触れずに完結させるつもりでしたが、いろいろ考えた結果、こういう形にしました。まあ、過去に干渉できるのは未来人でなければできないでしょうし、赤の他人の人生に干渉はできないでしょうから、言わぬが仏だったかもしれませんが。
次回は最終話となります。戻される心配がないなら、ようやく実体験ができることになるでしょうね。




