由美乃の意思
またしても1ヶ月ぶりの更新となりました。申し訳ありません。
「扉の・・・」の投稿時にも書きましたが、右手を負傷したため、今後も更新が遅れるかもしれません・・・って、さすがに1ヶ月もあれば治るでしょうから、こちらに関しては状況はあまり変わらないかもしれませんが。
結局、夏休み中に雪姉の家に行く時には、由美乃が必ずついてくるようになった。雪姉にとっては負担が増えるだけだし、2回目で的場さんから聞いた雪姉の俺への気持ちを考えると、あからさまに俺にベッタリな由美乃を見て、いい気分にはならないだろうと思っていたが、案外好印象だった。
「あれから、由美ちゃんにかなり懐かれちゃったみたいね? ねえ、まーくん、由美ちゃん可愛いでしょ?」
雪姉はもともと、もっと小さい頃から由美乃の面倒を見てきたから、由美乃の今の状況が素直に喜ばしいだけなのかもしれない。
「英治君もいつもありがとね。お手伝いしてくれて、かなり助かってる。でも、英治君、お姉さん達にいつもこき使われてるって言ってたでしょ? アタシのお手伝いばかりしてて怒られたりしてない?」
「姉貴どもが何を言ってても関係ねーよ! あいつらは雪姉に比べたらお気楽なもんだからよ!」
英治は照れ隠しのつもりなんだろうが、それじゃ雪姉の印象が悪くなってしまうんじゃ・・・?
「ふふっ・・・ 英治君らしいね。」
あれ? 俺の思っている以上に好印象? まあ、それなら俺が何かを言う必要もないか・・・
「えーじ、明日からまー兄は私の家に来るから、後は1人で頑張れ。」
「・・・・・ あのなぁ、由美ちゃん、最近俺になんかきつくないか? だいたい雅哉をまー兄なんて呼んでるのに、なんで俺は呼び捨てなんだよ?」
「なに? えー兄とか呼んで欲しいの? でも、別にえーじとは兄妹でもなんでもないし・・・」
「それ言ったら雅哉だって兄妹じゃないだろ?」
「まー兄は私のコンヤクシャだからいいの。」
「・・・・・ なんか、由美ちゃん、京子みたくなってないか?」
雪姉が苦笑いしている。普段は女子ともあまり話さない由美乃が、男子、しかも昔から悪ガキという印象の強い英治とこれだけ話すとは思ってもみなかったんだろうな。だけど俺は、これまでの周回で、由美乃が実はこういう性格だということはよく分かっている。確かに第一印象は、人見知りの引っ込み思案という感じではあったが、実は無口なだけで自己主張が強いタイプだ。今日、由美乃が雪姉の家に来たのは、明日から俺を来させないという意思表示のためだしね。
「まあ、そういうことだから、由美ちゃんじゃないけど、英治、明日から1人で頑張れよな。」
「京子がコンヤクだとか言ってた時は、すかさず否定してたのに、由美ちゃんだとそうじゃないのな? 雅哉、お前って・・・」
「ああ、そういうことだよ。」
「やっぱりロリコンだったのかよっ!」
はぁ・・・ それ、2回目の時も言われてたと思うけど、じゃ、京子ならロリコンじゃないのかよ? だいたい由美乃って京子と一つしか違わないし、将来的なことも含め、体型だって大して変わらない・・・
「まー兄、なんかいやらしいこと考えてない?」
「えっ!? いや、別に、ソンナコトナイヨ?」
確かに1回目で60才に戻された時に経験したことを思い出したりもしたけど、そんなことまでわかるものなの? 由美乃さん、なんか怖いよ?
* *
「まー兄、今日は学校に行こうよ。」
俺が戻されたのが昭和43年だということは、例のダービーの件からも明らかなのだが、その当時の小学校では夏休み中に校庭開放、つまり、校庭で好きに遊んでいいことになっていた。もちろん、校舎内は立入禁止ということになってはいたが、先生や用務員さん達が普段の半数もいない状況では、立ち入ったとしても咎められる人が誰もいなかったのだ。
ちなみに、校庭開放は子ども達への遊び場の提供というのが主旨だったらしいが、俺が戻されてから2年後の昭和45年に光化学スモッグ問題が発生したため、その時点で取り止めになってしまっていたので、俺はすっかり忘れていた。
「行き先が学校だし、念のため女の子の友達と会うことにしておいたから、一緒に行かなければおとうさんはごまかせるよ。」
今回は父親から、由美乃と2人だけで会うな、とは言われていないが、由美乃の方にはそういう話があったみたいだ。今回も母親の方は好意的に見てくれている様だが。
「でも、クーラーもないし、暑くない?」
「暑いからプールに入るんでしょ?」
「ああ、それが目的だったか・・・」
日時は限られてはいたが、夏休み中は小学校でもプールを開放していた。学年別・クラス別の他、学区内の町内会単位で管理する時間もあり、町内会単位の時間なら由美乃と一緒に入ることができるわけだが、ちょうど明日がその日に当たっていたのだ。
由美乃と2人で誰もいない学校の校舎内で・・・なんてことを考えていたが、まだ小2の由美乃がそんなことを考えるはずもない。これだから中身が60才のおっさんは・・・
「うん? まー兄が私と2人だけになりたいなら、それでもいいけど・・・」
由美乃にはお見通しみたいだ。それにしても、今回の由美乃には何でも見透かされているようだけど・・・ 考え過ぎだろうか?
次の日、俺達は由美乃の父親の目を誤魔化すため、学校の正門前で待ち合わせた。
「なんでお前らが一緒にいるんだよ?」
待ち合わせ場所には30分ほど早く来てみた。暑い中、由美乃を待たせるわけにはいかないと思ったからだが、そこには健太と妹の弥生ちゃんがいた。
「なんでって、由美ちゃんに呼ばれたんだよ。」
そう言えば、友達と会うことにしていたと言ってたな。それなら、弥生ちゃんはともかく、どうして健太が?
「可愛い妹を1人で行かせるわけにはいかないからな。」
「お前って、そんなキャラだったっけ? なんか、らしくなくって笑える!」
「そりゃそうよ。お兄ちゃんのお目当ては別の子だもん。」
別の子って、誰・・・って、さすがに4回目なら俺にだってわかる。
「健太君、お待たせ~!!」
「待ち合わせ時間には早いって言ったのに、さっちゃんに急かされて早く来ちゃった・・・」
父親の目を誤魔化すためには、わかりやすい状況設定が必要だったんだろうが、それには健太兄妹を誘うのが一番簡単だ。健太がいるとわかれば、さつきが乗ってこないはずもないしな。
さつきに話しかけられていた健太も満更でもない感じだ。だけど、やけに展開が早い気もするが・・・
「ふふっ・・・」
由美乃が俺の右手を抱え、上目遣いで俺を微笑みながら見てくる。この表情を見て俺は違和感を覚えた。
「由美ちゃん、後で2人だけで話がしたいんだけど、いいかな?」
町内会単位でのプール開放の場合、学校側は場所を提供するだけなので、校舎内からのプールへの出入りは行わず、併設された児童公園側の入口から出入りすることになる。本来、待ち合わせは児童公園の方になるのだが、どうやら健太達には由美乃の思惑が伝わっていたようだ。
「それじゃ俺達はプールに行くけど、雅哉達は別行動だろ? 大丈夫だ、由美ちゃんのお父さんに何か聞かれたら、ちゃんと俺達と一緒だったって言っておくからな。」
「あ、ああ、悪いな、サンキュー、健太!」
「この貸しは後でちゃんと返してもらうからな!」
由美乃と俺は正門から校庭に向かう振りをし、誰も見ていないことを確認した上で、校舎裏に出て、そのまま体育館の裏手に向かった。体育館への入口は、校庭側には複数あるが、それ以外には、校舎裏へ出る非常口しかない。ここは普段は使用しないので、体育館側から鍵がかかっていたはずだが、その日は校舎裏の方から開くことができた。
「ここって、普段は鍵がかかっていたんじゃ・・・」
「まー兄、知らなかった? 町内会のプール解放の時って、プール側からここを通って校庭に出られるんだよ?」
普段のプールの授業では、例の体育館袖に入る扉のほぼ正面にあるプールへの出入口を使うが、校舎側とプール側にそれぞれ扉があり、両方とも開いた状態にしている。だが、町内会のプール解放時には校舎に入れないよう校舎側の扉を閉じているため、何かあった時に備え、プール側の扉の横から校舎裏に出て、体育館側の非常口から校庭に抜けられるようにしていたらしい。だが、4回繰り返している俺が知らなかったことを、どうして由美乃が知っていたんだ?
「体育館の舞台は普段は鍵がかかっていないけど、中から鍵をかけられるよ。」
それは2回目の時に由美乃を連れ込んだ俺自身が知っていたことだ。由美乃は臆することなく体育館の舞台袖の例の部屋に俺を連れ込んだ。
「校舎側の鍵を外して誰かが入ってくるかもしれないけど、今の時期、その可能性はほぼないって、まー兄ならわかるでしょ?」
なんだ、この展開・・・ いや、もう明らかだろう。
「由美ちゃんも戻ってきていたのか?」
由美乃が悪戯っぽく笑う。
「もしかして、気づいてなかった?」
初美が戻っていたのだから、由美乃が戻っていたとしても不思議ではないのですが、ようやく雅哉がそれに気づきました。遅いわ。(笑)
これも、例の声の主が仕組んだものなのか、あるいは・・・




