印象操作
またまた4週間ぶりになってしまいました。間隔をもっと詰めたいとは思っているのですが・・・すみません。
とりあえず栄治の説得は成功したが、雪姉に栄治を認めさせるのは二学期以降になるから、俺はまず、周りの栄治に対する印象を変えようと考えた。3回目の時の由美乃の母親と話した時の様に振る舞えれば御の字だ。あの時はおそらく初美の仕込みだと思うが、それなら俺にも出来ないことはないと思う。
「栄治は夏休み中も雪姉のところに行くつもりなんんだろう?」
「お、おう。」
「なら、栄治の方も雪姉のために何かしてあげないと、フェアじゃないよな?」
「フェア? ああ、借りっぱなしで返せてないってことか・・・」
「成績のことは二学期にならないと結果は出ないから、とりあえず1日1回、雪姉の手伝いをしてみたらどうかな?」
「手伝いって、俺、何すりゃいいんだよ?」
「そんなこと、自分で考えないと意味ない・・・いや、今の雪姉って、お母さんが入院してて、家事一切をやってるから、普段栄治の家でもやってるようなことを手伝えばいいんじゃないか?」
「姉貴達にこき使われているみたいなことを、雪姉のところでもやれってか?」
栄治には2人の姉がいて、普段から良いように使われているらしい。雪姉の家に行くようになったのも、最初は姉達から逃げるのが目的だったみたいだ。なら、今の状況は雪姉にとっては迷惑以外の何物でもないだろう。
「栄治、これから1ヶ月、いや、2週間でもいいから、雪姉の前では俺の言うとおりにしてくれないか? 嫌なら断ってくれていいけど、ちゃんとやってくれれば、雪姉の印象が変わるはずだよ?」
「雅哉がそこまで言うならそうなんだろうな。わかった、がんばってみるよ。」
だが、こうなると、これまでの様に由美乃達と一緒に勉強会ができなくなりそうだな・・・
* *
仮病で早退したことはどうやら両親にはバレていなかった様だ。匿ってくれた雪姉や、早退の原因になった由美乃の母親はもちろん、説得が功を奏したのか栄治も真相を口にしなかったからだ。
一方で、由美乃の両親は、これまでの周回と同じ対応をしてくれたようで、次の日から待ち合わせ場所に文也の姿はなかった。
「なあ雅哉、文也が来なかったのは、やっぱりお前のせいなのか?」
「そうかもしれないけど、俺は一緒に登校したくないなんて一言も言ってないぞ?」
そう答えた俺の左手を、由美乃が両手でしっかりと抱え込んできた。
「えーと、由美ちゃん? どうしたの?」
由美乃は俺の左手を抱え込んだまま、上目づかいで俺を見上げてくる。ヤバい、これって由美乃の必殺技だ。
「由美ちゃん、まーくんに何してるのよ! そんなにくっついてないで離れなさいよ!」
京子が来たと思ったら、いきなり由美乃とのバトルが勃発した。
「京ちゃん、気にしないで。まー兄は私を助けてくれた。だから今日から私はまー兄と一緒にいる。」
「はぁ? 何言ってるかわかんないわよ!? だいたい、まーくんは私のコンヤクシャなんだからね!」
「それって、京ちゃんが言ってるだけで、まー兄はそんなこと一言も言ってないよ?」
「まーくん、そうなの?」
京子が泣きそうな顔をしている。以前の周回でも同じようなことがあったが、京子を最初から選ばない限り、これは必ず発生するイベントなんだろうな。
「もう、由美ちゃんなんか知らないからっ! まーくんの裏切り者、浮気者、アンタなんか豆腐の角に頭ぶつけてパーになっちゃえばいいのよ!」
これ、2回目の時に、栄治に言われたセリフじゃないか? いや、その時とは微妙に違うのは、男女の差なのかなと、どうでもいいことを考えていたら、やはり同じように京子は初美を連れて先に行ってしまった。
「何よ、まーくんのシュラバのせいで、はっちゃん連れてかれちゃったじゃない? どーしてくれんのよ!」
さつきが不満タラタラだが、このパターンは健太兄妹と一緒に登校するようになる流れだ。どのみち、京子とは水と油の栄治がいる以上、由美乃と一緒に登校するには、どちらかに外れてもらうしかないのだが。
「さっちゃん、うちの母ちゃんに言って、明日から弥生ちゃん達と一緒に行ってもらうようにするからさ。」
「えっ!? じゃ、健太君も来るの?」
「まあ、そうなるよな。」
先ほどまでの膨れっ面があっという間に満面の笑みに変わる。さつきはいつもブレないよな・・・
* *
その後、健太達と合流することになり、2回目の時と同様に夏休み中に勉強会を開くことも決まった。もちろん、その前に由美乃に家庭教師をすることになったのも同じだが、今回は由美乃の母親に話をしたせいか、家庭教師の件を母親の方から打診されたのだ。どうやら由美乃自身が両親に頼み込んだらしい。由美乃は京子とのバトルがあったあの日以来、俺にベッタリなのだが、何故か2回目の時よりも積極的になっている。さすがに二人きりになるチャンスはないのだが、もしそうなったら俺の方が押し倒されそうなほどにグイグイ来られてる気がする。二学期が始まったらすぐに、例の体育館の舞台袖の部屋に連れて行きたい気分だ。
「まー兄、明日からは朝から来てよ?」
「あの~・・・ 午前中はちょっと用事が・・・」
「まー兄は私と一緒じゃ嫌なの?」
由美乃が上目づかいで俺を見上げてくる。うーん、由美乃さん、これ絶対わかっててやってますよね?
「嫌じゃないけど、前から午前中は栄治と一緒に雪姉の手伝いをすることになってるから・・・」
「むー・・・」
由美乃がちょっと拗ねた感じで俺を見てくる。この表情が見たくて、わざと意地悪したこともあったけど、今はそんなことを考えている場合じゃないよな?
「由美ちゃん、無理言わないの! 雪ちゃんには普段からお世話になってるわけだし、今、お母さんが入院中でいろいろ大変なのよ。まーくん達にお手伝いしてもらえれば、かなり助かるんじゃない?」
「ええ。実はこの話って、栄治が言い出したんですよ。」
「栄治君が? へぇ-・・・ 彼っていつも雪ちゃんに勉強を教わりに来るけど、真面目にやらないからいくら教えても成績が上がらないって、雪ちゃん、ぼやいてたのにね・・・?」
「それ、栄治も言ってましたよ。でも、このままじゃダメだって自分でも思ったらしくて、ちゃんと心を入れ替えるって・・・」
「じゃ、別にまー兄がつき合う必要ないじゃん?」
「慣れるまで一緒にやってくれって話だよ。だから、午後からは一人でやるってさ。」
この話は実は俺の仕込みなのだが、栄治が自分で考えたことにすれば、周りの印象が変わると思ったのだ。もちろん、昼からの手伝いや、雪姉に勉強を教わるところは、栄治自身で努力しろと言ってある。あとは栄治次第だ。
もっとも、俺自身が昼からは由美乃と一緒にいたいから、「お前次第だから」と強引に押しつけたのも事実だが。
「じゃ、午前中、私も雪ちゃんのところに一緒に行く。まー兄と一緒だから、お母さん、いいよね?」
「あらあら、由美ちゃん、あなた、本当に可愛いわね! お母さん、由美ちゃんをまーくんなんかに渡したくないわっ!」
「ええっ!? そんなこと言われても・・・」
母親に抱きつかれて由美乃が困惑している、その表情はこれまでの周回でも見たことがなかったから、俺は思わず吹き出した。
「おばさん、気が早いですよ。そりゃ、ゆくゆくはお嫁さんに欲しいとは思ってますけどね。」
「あら、ドサクサに紛れて何を言ってるのかしら? それこそ10年早いわよ?」
「ほら、言ったとおりでしょ? まー兄とコンヤクしているのは京ちゃんじゃなくって、私なの!」
「誰が婚約してるって?」
そんなところに父親がやってきたので、ますますややこしいことになってしまった。
「雅哉君、君が娘を助けてくれたことには感謝しているが、それはそれとして、娘との結婚なんて絶対に認めないからな!」
「そんなこと言われても、僕達、まだ小学生なんですけど・・・」
「別にお父さんに認めてもらわなくたって関係ない。20才になったら私の意志だけで結婚できるんだよ? 知らなかった?」
「・・・・・」
なんか、今回の由美乃さん、これまでとは違って鬼気迫るものを感じるんですが・・・
由美乃を早々に助け出した後、雪姉の栄治に対する印象を変えるべく、いろいろ画策している雅哉ですが、その甲斐あってか、由美乃がこれまでの周回以上に積極的になっています。このままだと未来が確定されたと判断されるのが早まり、また記憶が欠落してしまうかもしれませんので、痛し痒しなんですが・・・




