説得
7月中にもう一話投稿しようと思ったのですが、結局8月になっちゃいました。更新頻度を短縮したいとは常々思っていますが・・・m(_ _)m
サブタイトルの相手は栄治のことです。
由美乃の母親に事情を説明し、由美乃と文也を離すことを確約してもらったところで、俺はひとまず帰宅することにした。・・・と言うか、事が片付くまで文也の家にいるわけにもいかないからだ。しかし、帰宅するのはいいが、仮病を使って早退した俺からしたら、そのまま普通に帰ってしまうと両親にどう説明してもロクなことにはならない気がする。親父に殴られるのは覚悟の上で行動したのは確かだが、そうとわかってはいても気が進むはずはない。
「まーくん、お腹が痛いって早退したなら、帰ってもお昼食べられないでしょ? アタシんち来る?」
雪姉から思わぬ申し出があったが、今回はあまり雪姉に深入りしないと決めたばかりだ。うーん、どうするべきだろうか?
「アタシがたまたま早退してきたまーくんを見つけて、介抱するためにアタシんちに連れてきたことにすればいいのよ。まーくんのご両親、家で仕事してるんでしょ? その方が仕事の邪魔にならないし、何よりアタシがまーくんと一緒にお昼が食べられるんだから、気にすることないわよ?」
「おじいさんは?」
「今日は出かけてるのよ。だからまーくんが来ないとアタシ、1人で寂しく食事することになるのよ? まさかまーくん、アタシを見捨てたりしないよね?」
雪姉と2人きりだって? それって俺の体感的には2回目のあの日以来のことになる。俺は股間が熱くなるのを感じた。
「あ、あの、それってなんかマズくない?」
「何が? 普通は、女の子1人で留守番する方が危ないって言われるわよ?」
雪姉はこの時点では中1のはずだから、そういうことを考えるはずはないとは思うのだが、意識するなと言う方が無理だ。だが、俺は今回は何があろうと由美乃のためだけに行動すると誓った。ここで雪姉の申し出を受けたとしても、俺自身が自制すればいいだけのことだし、雪姉の提案自体は俺自身にとっては渡りに船だ。
「わかったよ。でも、栄治には言わないでくれよな?」
「なんで、ここで栄治君が出てくるのよ?」
雪姉は一度俺の家に、夕方まで俺を預かると言いに行った。その上で、学校にも連絡を入れてくれた。生徒が病気で早退したとあっては当然だが、学校から俺の家にも連絡が入ったからだ。ちなみに、この連絡は京子の家に入っている。現代では考えられないが、昭和40年代では一般家庭に電話がない家も珍しくなく、そういう場合は近所の家の電話を借りていたのだ。当時の小学校の連絡先一覧には、電話番号の後ろに(呼)と書かれていたりする。これは、電話番号が自宅ではなく、近所の家から呼び出してもらう必要があることを意味していた。俺と栄治の家がそれぞれ電話がなく京子の家の電話を使わせてもらっていた。
雪姉の家にも電話はあったが、普段留守にすることが多かったため、いつも祖母がいる京子の家が適任だったということだ。
* *
2回目の時に的場さんから、雪姉がひそかに俺のことを想っていてくれたことを聞かされていたが、今の雪姉もそうなのかと思うと、俺としては複雑な心境だ。この人とならもう一度・・・なんて気が頭を擡げてくるが、俺は由美乃の笑顔を思い浮かべてそんな気持ちを押さえつけていた。
当の雪姉は、俺と一緒に昼食を取った後、俺の目の前で試験勉強を始めていた。
「雪姉、俺、帰った方がいいよな?」
「まーくんは具合が悪くて寝ちゃったことにしてあるから、今すぐ帰っちゃマズくないかしら?」
「休ませてもらったら回復した、ということにしておけばよくない? むしろ、そうしないと、俺、夕飯をまともに食べさせてもらえないかも・・・」
「なら、ウチで食べちゃえば?」
実は、2回目の時に初めて知ったのだが、的場さんが親父の親友で、その姪っ子ということでお袋が雪姉の世話を焼いていたことからすると、俺が雪姉の世話になったとしても、それこそお互い様ということで、何の問題もないらしい。だが、そうは言っても、このまま雪姉の家にいたのでは、おかしな展開にならないとも限らない・・・と逡巡している中、いきなり栄治がやって来た。
「雪姉、また勉強を教えて・・・って、雅哉、なんでお前がここにいるんだよっ!!」
「まーくんは具合が悪くて早退したのよ。アタシが試験で早く帰ってきてたまたま鉢合わせしたから、ウチに連れてきたのよ。」
「そのまま自分ちに帰れば良かったんじゃ?」
「栄治君も知ってるでしょうけど、まーくんのご両親は2階で仕事中だし、お兄さんは大学受験を控えているから、一人で放っておかれるわよ? アタシだって、一人でお昼食べるの嫌だったから、ちょうど良かったのよ。」
「それなら、明日は俺が早退するよ。」
「馬鹿ね? 栄治君が具合が悪い、なんて言っても誰も信じないわよ?」
「なんでだよ? 雅哉は仮病でも帰れてるじゃねーか!?」
俺は一応、借りた布団で寝てはいたが、そもそも仮病なので昼間から寝ていられるはずもなく、栄治でなくても具合が悪いようには見えなかっただろう。由美乃のことを今の栄治にはまだ話すわけにはいかないが、早退した理由をある程度説明して協力してもらわないと、仮病を使って雪姉の家に上がり込んだ、ということだけが広まってしまうかもしれない。それは、後々マズいことになりかねない。
「栄治、ちょっと話があるんだが・・・ ああ、雪姉、外してもらってもいいかな?」
「ここ、アタシんちなんだけどなぁ・・・」
渋々ながら雪姉が席を外してくれたので、俺は栄治に由美乃のことを話した。もちろん、文也が由美乃にしていることは伏せた。雪姉に外れてもらったのは、そのことが本来の目的ではないからだ。
「それじゃ、朝、あいつらの様子がおかしかったから、心配して早退したと・・・ でも、雅哉がそんなことまですることはなかったんじゃないのか?」
「栄治には話してなかったんだけど、文也のことより、由美ちゃんが心配だったんだよ。」
「由美ちゃん? お前、まさか・・・」
「そういうことだよ。」
「へぇ・・・ お前って、京子とコンヤクしてるんじゃなかったのかよ?」
「あれは京ちゃんが言ってるだけだよ。由美ちゃんのことは京ちゃんには言うなよ。絶対、とばっちりを受けるぞ?」
栄治は京子のことを苦手としているから、わざわざ京子に俺のことを話すことはないだろう。
「それより、栄治、お前、雪姉に勉強を教わりに来ている割には、成績が全然変わらないって、雪姉がぼやいていたぞ?」
「なんで雅哉がそんなこと知ってんだよ!?」
確かにこの話は、これまで3回のタイムリープで知った話で、4回目ではまだ聞いてはいない話だった。だが、そんなことは関係ない。
「栄治は雪姉のことが好きなんだろ?」
「・・・そ、そりゃ、嫌いじゃないけど・・・」
「なら、いいとこ見せないとな。自分が勉強を教えて成績が上がったなら、雪姉、喜ぶんじゃないの?」
栄治は根が単純だから、俺が雪姉ではなく由美乃が好きだと知らせた上で、雪姉の栄治への好感度を上げるためのヒントを与えれば、2回目の時のように俺にちょっかいを出すことはなくなるだろう。
「栄治が京ちゃんと仲悪いのはどうしてかわかるか?」
「いきなり話が変わるな? このさい、京子のことはどうでもいいだろ?」
「京ちゃんだけの話じゃないんだよ。普段から栄治は俺の頭をよく叩いてくるだろ? あれって、女子にはあまりあまり良く思われてないらしいぞ。」
幼稚園時代は、栄治と掴み合いの喧嘩をしたこともあったが、結局、腕力では栄治に勝てず、小学生になったあたりからは、反撃するのをやめたのだ。それが傍から見たら栄治が一方的に俺をいじめているようにしか見えないから、京子は栄治に突っかかって来るようになったのだ。だが、栄治はその理由が自分にあることに気づいていない。
「別に、あんな女どものことなんかどうでもいいじゃんよっ!」
「雪姉だって女じゃん?」
「・・・・・」
「栄治はまず、成績を上げないとダメだよな。もう一学期は無理だけど、二学期で成績を上げて、雪姉にいい報告をしないといけないよな。」
栄治は、一瞬、拳を振り上げようとしたが、唇をかみしめてそれを堪えたようだ。
「わかった・・・ 雅哉に言われてムカついたけど、それで雅哉を殴っても、俺の印象が悪くなるだけってことだよな?」
「栄治は雪姉に認めてもらいたいんだろ? 勉強なら俺も手伝えるから、二学期は頑張って成績上げようよ。」
「うん・・・」
一応、わかってもらえたみたいだけど、夏休み中はフォローが必要かもな。
結局は雪姉に助けられた形になり、あのまま二人だけでいたら何か変な雰囲気になりそうなところで栄治登場・・・ これでなんとか、三回目の時と同じように、雪姉の意識が栄治に向かってほしいと思う雅哉ですが・・・




