4回目
こちらは1ヶ月ぶりになってしまいました。せめて隔週で、と思っていたのに、隔週どころか隔月になりかねない状況で・・・
4回目が始まりますが、本来の目的を確認するところからスタートです。
あらためて、自分の目的と、そのためにやるべきことを確認しようと思う。
「まず、目的は由美乃を救うこと。もちろん、それだけじゃない。由美乃と俺が結ばれて、かつ、未来の確定をできるだけ先送りにすることだ。」
これまでのタイムリープは3回とも俺が強制的に元の時代に戻され、その間の記憶が一切失われてしまっていた。とは言え、記憶が残っていればいいという問題ではない。俺自身の経験でありながら実感が全くないのが残念過ぎるのだ。そういう意味では、2回目の雪姉との初体験はあまりにも強烈だった。戻された後で60歳前後の彼女達を抱いてはいたが、初体験を実際に体験したのは雪姉とだけだ。あの時は抗えなかったが、今は由美乃に対する罪悪感が遥かに勝っている。いかに強烈な記憶だろうが、そんなものに引き摺られるわけにはいかないのだ。
目的ははっきりしている。では、そのために俺が取るべき行動は・・・
「3回目の時と同じように、雪姉のことを英治に任せられないだろうか?」
3回目の英治はそれまでの行動パターンとは明らかに違っていて、雪姉に対してはもちろん、俺達に対しても、できるだけ自分の感情を抑えつつ、最善の行動をしようという意思を感じた。あれはおそらく、俺を追ってタイムリープしてきた初美の入れ知恵だと思う。それにより英治は雪姉の信頼を得た。戻された後の初美からは特に聞いてはいなかったが、英治が雪姉の支えになったであろうことは容易に想像がつく。
なら、今回は俺が英治を導いてやる。あれ程女子を嫌っていた英治が初美の言うことに耳を貸したのなら、俺でも同じことができるはずだ。
「とりあえず、今日は何日だろうか?」
これまでは、俺が戻された時点では、既に由美乃は文也の餌食になっていた。俺の目の前でそういうことをしたかしないかの違いはあったが、俺がそのことを知った上で由美乃を救おうとして、由美乃がそんな俺の気持ちに応えてくれたのは同じだ。なら、俺があの雨の日を待たずに動いたとしても問題はないはずだ。
「1回目と同じ行動をすれば間違いないけど、わかっていながら由美乃に嫌な思いをさせたくはないな。」
もしかしたら、早めに行動することで、また何かが変わってしまうかもしれない。でも今回は、俺自身のためではなく、由美乃のために動きたい。
* *
あの雨の日がダービーの前日、7月6日で、俺の目の前で文也が由美乃を触るのが、その2日前だから7月4日だ。1回目では日付を意識していなかったが、2回目で的場さんと関わったことで、具体的な日付がわかった。3回目では、初美の入れ知恵で俺が英治に引っ張り回されたことでパターンが変わってしまったが、今回の英治は2回目までと同じだ。もちろん、後で変えてやろうとは思っているが、まずは由美乃を助けることが先決だ。
これまでもそうだったのかもしれないが、どうやら俺が戻されたのは、1968年7月1日だったらしい。その日はこれまで3回のタイムリープの時と同じ行動を心がけつつ、由美乃の行動を注視していたが、登校前の由美乃は別に待ち合わせに遅れて出てきたわけでもないのに、やたら急いだ風だったし、文也も由美乃を追いかけるように出てきていた。どうやら、登校前に何かがあったらしい。
「文也、そんなに急いでどうした? まだ全然間に合う時間だぞ?」
俺が由美乃と文也の間に割り込むように移動し、文也に声をかけると、文也が敵意を剥き出しにしたような表情で俺を睨みつけてきた。その表情を見て俺は確信した。
「女となんか一緒に行けるかっての!」
結局、いつもの英治の捨てゼリフを合図に、男子3人が先に出ることになったが、文也と俺は一言も交わさないままだった。
「何だ? お前ら、喧嘩でもしたのか?」
「いや、別に何も・・・」
文也は最後まで何も言わなかった。
* *
その日、俺は腹が痛いと嘘をつき、給食を食べずに早退した。もちろん、由美乃の母親と話をするためだ。普段でも文也の方が下校が遅いので、わざわざ仮病を使ってまで早退する必要はなさそうだが、下校の時間帯は由美乃の母親にしたら一番忙しい時間帯だから昼休憩の時間帯を狙う方が確実だし、文也が帰って来る心配がないだけに都合が良いのだ。ただ、仮病を使ったことや、まっすぐ帰宅しなかったことを後から俺の親父に知られたら、間違いなくぶっ飛ばされるだろう。
「それでも、由美乃にとっての最善を選ぶ!」
だが、勢いこんで由美乃の家に入ったはいいが、いつもいるはずの部屋に行っても、肝心の母親の姿が見当たらない。
「あれ? まーくんじゃない? こんな時間にどうしたの?」
「雪姉? そっちこそ、どうしたのさ?」
「アタシは今日から期末テストで、給食なしの午前中上がりだよ。」
そうだった。俺の通っていた中学校では、7月に入ると同時に期末試験が始まるんだった。
「そうなんだ・・・ でもどうしてここに?」
「おばさんから、由美ちゃんのことで相談されたのよ。このところ様子が変だって言ってたから・・・」
そう言えば、2回目の時のクリスマスパーティーで雪姉は由美乃の面倒を見ていたが、普段からそういう関係になっていたようだ。雪姉の叔父の的場さんが由美乃の父が経営している工場の関係者だからこそだろう。
「まーくんはどうしてここに?」
俺は、その問いかけに一瞬たじろいだが、俺に由美乃のことで相談されたと言ってきたということは、まだ真相については語られていないのか、母親が気づいていないかのどちらかだろう。なら、ここで誤魔化すようなことを言っても、少なくとも由美乃のためにはならない。雪姉に話しても良いものか迷いはしたが、3回目では逆に雪姉だけに伝えられていたことだ。俺は、雪姉を巻き込むことにした。
「雪姉、おばさんはどこにいるのさ?」
「今までアタシと一緒に子供部屋で話をしていたわよ。まだそこにいるんじゃないかな?」
「雪姉、悪いんだけど、俺と一緒に部屋まで戻ってくれないか?」
「えっ? 何があったの? まさか、まーくん・・・」
子供部屋・・・ようするに、文也と由美乃の部屋だが、両親が普段いる部屋とは離れていて、工場の仕事が終わらない限り、その隣の両親の寝室には誰も来ないという環境だ。両親が仕事を終えて来るのが、兄妹が寝静まった後、ということも度々あると聞いていた。つまり、この部屋の中で何が起こっているのかは両親は知りようがなかったのだ。
「あら、まーくんじゃない? まだ学校は終わってないんじゃないの?」
「実は、文也たちのことで、おばさんに話しておきたいことがあって・・・」
「わざわざ学校を早退してまで話したいことって、いったい・・・」
「おばさん、雪姉に由美ちゃんの様子がおかしいって、相談されてましたよね? 俺、その原因に心当たりがあります。」
「なんですって?」
4回目の俺はまだ、文也が由美乃を触る場面を見てはいないが、母親が「様子がおかしい」と感じているのであれば、既に文也の餌食になっていることは明白だろう。結局、何回タイムリープしようが、由美乃が嫌な思いをすることを回避することはできないらしい。
「まーくん、貴方の言ってることがどういうことなのか、ちゃんと理解しているのよね?」
「おばさん達からしたら、俺みたいなクソガキが何バカなことを言ってやがる、と相手にされなくても不思議じゃないでしょうね。でも、文也は間違いなく、俺の目の前でそういうことをしました。それは由美ちゃんの意志じゃないし、由美ちゃんは何も悪いことはしていない。だから、由美ちゃんには何も言わず、文也と距離を取ってほしいんです。」
「おばさん、にわかには信じられない話だけど、少なくともまーくんが由美ちゃんのことを一番に考えているってことはよくわかるわ。信じてあげてもいいんじゃないかしら?」
雪姉にも俺の意思が伝わったようだ。母親は子供部屋に兄妹二人だけでいる状況を改善することを約束してくれた。
「でも、まーくんって、まだ小5なのに、まるで大人が話しているような落ち着いた口ぶりだよね? 本当に10才なの?」
今回は父親ではなく母親の方からこのセリフが出てきたか・・・
文也の暴走を止めたかった雅哉でしたが、タイムリープした時点ではすでに始まった後でした。それでも1日でも早く由美乃を解放しようと動いた結果は・・・




