3回目の結末
またしてもほぼ1ヶ月ぶりの更新となってしまいました。<(_ _)>
その代わりに・・・という訳ではありませんが、いつもよりも長めになっています。
強制的にタイムリープから戻された、と思っていましたが・・・
健太とさつきに連行される形で、俺はマンションの最上階に・・・と言っても6階なのだが、初美の部屋の玄関チャイムを鳴らした。
「どちら様? 玄関ってことは、うちの住人の方かしら?」
58才になっているはずだが、はっきりと初美だとわかる声がした。
「はっちゃん、ウチだよ。今日はちょっと珍しい人を連れてきたんだよ?」
「あら、さっちゃん? 珍しい人って・・・ まあいいわ、ちょっと待ってて・・・」
玄関ドアの中から出てきたのは・・・ 紛れもなく初美だ。不思議と大学時代の頃と見た目はそれほど変わっていないように見える。
「それにしても、このマンションに初めて来たときに久しぶりに顔を見たけど、はっちゃんて見た目が全然変わっていないよね? ウチより1つ上のはずなんだけど、ウチの方が年上みたく見えるよね?」
「いやいや、おかあさん・・・さつきだって、まだまだ十分若いだろ?」
「やだ、健ちゃんってば、まーくんの前だからって、ウチに気を遣うことなんてないわよ?」
「まーくん?」
「あらあら、ごめんねぇ・・・ そうなのよ、珍しい人って、まーくんのことなのよ。はっちゃん、たしか40年ぶりぐらいになるんじゃなかったっけ?」
さつきの話好きは、小学生時代から変わってないらしい。ほっとくと、玄関先でいつまでも話してそうだが、まさか俺の方から中に入れてくれとも言えないので、俺は健太を指先でつついて、さつきを止めるよう促した。
「ほら、さつき、あとは若い二人にお任せだろ?」
「あらヤダ、ごめんなさいね、気が利かなくて。じゃあ後はお二人でごゆっくり!」
そう言うや否やさつきは健太の腕を引いてその場を後にした。俺も初美も、何か呆気にとられた感じで二人を見送った。
「あ、なんか、突然ごめんな。下でたまたま健太に会ったら、成り行きでここまで来ちゃったよ。」
「ふふふ・・・ さっちゃんて、ずっとあの調子だし、健太君も大変でしょうね。」
「でも、なんかいい夫婦だな。うらやましいよ。」
「私もそう思うわよ。まあ、二人が言うように後は私たちの話だし、ひとまず中に入ったら?」
「うん、お邪魔させてもらうよ。」
もともとの人生では、これまで俺が初美の部屋に入ったことはなかった。大学時代に一時期付き合ったことがあったとは言え、お互いの自宅で二人きりになるということは一度もなかったのだ。それだけに、これまでタイムリープした中で、家庭教師をしていた時に二人きりになっていたことを思い出すと、妙に恥ずかしい気分になってきて、顔が赤くなってきたことを自覚した。
「さっちゃん達、私達のことを若い二人だなんて言ってたけど、自分達の方が若いのにね・・・ あれっ? まーくん、何赤くなってるの?」
「はっちゃんて、もう58才のはずなのに全然そうは見えないよな。こんな奇麗な女性と二人で部屋の中にいるって、意識しない方が変だろ?」
「へぇ・・・ まーくんが私にそんなことを言うなんて・・・ やっぱり3回もやり直してるから、いろんな意味で成長したってことなのかな?」
あれっ? 例の声はリセットするって言ってたが、俺同様に初美もタイムリープした時の記憶がそのまま残っているようだ。想定はしていたが、いきなりその話を持ち出されたことで、俺は少し焦った。
「はっちゃん、やっぱりタイムリープした時の記憶が残って・・・」
「そうよ。全部覚えているわよ。」
「えっ? それじゃ最後に俺にあんなことをしたのも・・・」
「あんなことって?」
初美が悪戯っぽく笑っている。大学時代に別れることになる少し前に、同じような表情を見たことがあるが、それから40年以上経っていても、何も変わっていないように思えた。
「初美って、可愛いよな・・・」
何の意図もなく自然に、そんな言葉が口をついて出た。思った言葉が無自覚にそのまま出てきたのだが、それを聞いて今度は初美の方が顔を赤らめた。
「な・・・ それって、今のまーくんが今の私に言うことじゃないんじゃない?」
いや、見た目が若いとは言え、58才の女性に可愛いなんて言える男は、やっぱり今の俺のような年相応の男じゃないと無理じゃないのか?
「だって、まーくんって、私にそんな言葉、かけてくれたことってなかったじゃない? 付き合い始めてからだって一言も・・・」
そう言われてみればそうだったかもしれない。昭和の時代、「男は黙って×××」なんてのがカッコいいなどと勘違いしている奴が多かったんじゃないかと思うが、まさに俺はそんなタイプだった。いや、実のところは、自分が恥ずかしくてストレートに気持ちを表すことができなかっただけなのだが。
「そうかもしれないな。それどころか、初美のことを否定するようなことばかり言ってた気がするよ。今更かもしれないが、ゴメンな。」
付き合ってほしいといったのは俺の方だし、それを受けてくれた時点で俺は初美を自分のものにできたと錯覚していたのかもしれない。そんな感覚だったから、結婚どころか、早々に別れを切り出されることになったのだろう。だが、あの時の俺は、そんなことに気がついていなかった。はっきりそれを自覚できたのは、タイムリープを3回繰り返したからだ。実際、戻る前の俺は初美のことを吹っ切った気持ちにはなっていたが、その原因が俺自身にあったなどとは、微塵も考えていなかったから。
「何よ、本当に今更よね。今、ここでそんなことを言うくらいなら、なんで3回目で私を選んでくれなかったのよ? どうして、こっちに戻って来るって話になったのよ!」
「それならどうして、2回目までに何も言わなかったんだい? そもそも、俺が戻された理由って・・・」
「そうね。1回目でちゃんと聞いたわよね・・・」
1回目で俺は、京子と初美を呼びだして、由美乃への思いを吐露した。あれは京子に対するものだったが、初美への気持ちを断ち切るためでもあった。今思えば、酷いやり方だったとも思うが、ケジメをつけるという意味では正解だったと思っている。
「1回目では、まーくんが家庭教師をちゃんとしてくれてたから、油断しちゃったのよ。もともとの私はバカにされたと思ってやめちゃったけど、ちゃんと向き合って貰えたことで、いつでも気持ちを伝えられるって思いこんでいたのね・・・ だけど、まーくんに先越されちゃったわ。」
1回目の時、未来が確定したのは俺が国立高校に入学したからだと思っていたが、おそらくそれだけではなかったのだろう。京子や初美に俺の気持ちをはっきりと伝えて、彼女達の俺への思いを断ち切ったことも条件の一つだったんだと思う。
2回目の時は的場さんとの関わりが増えたことなど、今思えば雪姉への追い風が吹いていて、俺が抗え切れなかった。初美が介入してきても、結果は同じだったと思う。
「でも、まーくん、2回目と3回目で、まーくんが戻った後のこと、知らないでしょう?」
確かに、俺の未来が確定されたと判断されて戻された後、それ以降の記憶はない。それを取り戻したくて2回目を始めた訳だし。
「2回目では、由美ちゃんを宥めるの、大変だったんだからね! 京ちゃんまで一緒になって、裏切り者は死刑だ、なんて、それこそ修羅場だったんだから。」
俺自身の記憶はないが、60才にちゃんと戻れたなら、罵倒されまくったとはしても刃傷沙汰までにはならなかったってことだよな。
「由美ちゃんが包丁を持ち出して、雪姉ちゃんを殺して私も死ぬ、まー兄は一生独りで苦しめばいいって、中学生になんてことさせたのよ?」
それ、修羅場だなんて笑ってられる状況じゃないよね? どうやって止めたんだ?
「まあ、私がいなかったらどうなっていたかしらね? 3回目ではまーくんとは誰もくっつかなかったけど、2回目ほどじゃないけど一悶着あったのよ? でも、こうして振り返ると、私ってまーくんの尻拭いばっかしてるわね?」
「ああ・・・ いろいろと済まなかったな。」
「まあ、それはもういいわよ。それより、今の世界線の話をしましょうよ。」
「今の? 今って、もともとの世界だよな?」
「まーくん、これから4回目に行っちゃうんでしょ? 次は私は着いていけない。できれば4回目でも私を選んで欲しいけど、今の世界線でそうなれれば、それで十分よ。」
そこまで話すと、初美はいきなり俺にキスをしてきた。強制的に戻される前と同じように・・・
「ん・・・ は、初美、いきなり何を・・・」
「強制的に戻されたこの世界線って、もともとの私たちがいた世界じゃないって気づいてた? 間を飛ばされたし、その間起きていたことはもともとの世界とほとんど変わってないみたいだけど、実は微妙に違うのよ?」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「さっちゃん達のことだよ。もともとの世界じゃ、あの二人の間には子供はいなかったんだよ?」
「そう言えば健太の奴、さっちゃんをおかあさんって呼んでたな?」
「それって、子供がいるってことでしょう?」
もし、健太の子が生まれているなら、うちのお袋が黙っているはずがないが、もともとの俺はそんなことを聞かされていなかったから、初美の言うことには信憑性がある。
「じゃあ、強制的に戻されたけど、3回目はまだ確定していないと・・・?」
「まーくん、貴方が戻された後、私が戻されるまでの間に、京ちゃんはもちろん、由美ちゃんや雪ちゃんとのことはすべて決着させているわ。さっきは尻拭いなんて言ったけど、すべては私自身のためよ。お互い適齢期なんてとうに過ぎてるけど、私は貴方と最期まで一緒にいたいのよ!」
俺は、これほどまでに必死な初美の姿を見たことがなかった。だが、俺の心ない言葉に発奮し、俺を見返してやりたい一心で頑張ってきただろうことは言われずともわかる。いや、わかるようになった俺に気づいて、初美自身がこれまで抑えてきただろう俺への気持ちを開放したんだろうな。
「初美、俺ってカッコ悪いよな。」
「まーくん?」
「俺はこれまで、初美の気持ちを全然考えてなかったし、それに気づいた今になっても、初美から言わせてしまった。自分でも最低だと思うけど、これだけは言わせてくれ。」
「・・・・・」
「俺は今の初美が好きだ。もし良かったら、残りの人生、俺と過ごしてくれないか?」
「まーくん、その言い方はズルいわよ・・・」
今度は俺の方から初美にキスをした。そして、その日から俺が初美の部屋に転がり込む形で二人の生活が始まったのだが、当然それだけで終わるはずはなかった。
ある朝、目覚めると、見覚えのある一筋の光・・・ 隣の女性は初美ではなくお袋。俺はまた戻されたとわかった。
「4回目か・・・」
初美のタイムリープは雅哉のそれとはタイミングがずれていて、雅哉が戻された後のフォローを初美がしていたことを知らされました。確かに、2回目の状況だと修羅場になってもおかしくはありませんが、さすがに雅哉だけではどうにもならなかったようで・・・ このあたりの詳しい話は、何か機会があったらいずれ・・・




