もともとの世界
ほぼ1ヶ月ぶりの更新となってしまいました。お待たせして大変申し訳ありません。(待ってないって言われるとツラいですが・・・)
4回目に戻されるということでしたが、その前にもともとの初美に会おうとする雅哉です。
突然戻された場所は、もともとの俺が住んでいたワンルームマンションだった。謎の声が言っていた「リセット」とは、これまでのタイムリープをすべてなかったことにすることらしい。
「すぐに4回目に入るって言ってたみたいだけど、それならどうして60歳の俺に戻る必要があるんだ?」
そのままずっと、例の声に呼び掛けてみたものの、答えはなかった。
「リセットとは言われたが・・・ 俺の記憶自体はそのままみたいだな。」
そう、1回目の時、記憶の欠落があったとは言え、由美乃とちゃんと結ばれていたこと、その記憶を取り戻したいがために2回目に挑んだものの、最終的には雪姉を助ける選択をして由美乃を諦めてしまったこと、あらためて挑んだ3回目では、その雪姉を英治に任せて由美乃に専念できそうな手応えを感じていたものの、俺を追いかけていたらしい初美に、結果として邪魔されてしまったこと・・・ そう、すべて覚えている。
「だけど、どうして初美が俺を追いかけて来るんだ? あいつは大学時代に俺に愛想を尽かしたんじゃなかったのか?」
俺が初美にフラれたのは、間違いなく俺自身が原因だ。もともとの俺は中学生になったばかりの初美から家庭教師の申し出を受けた時、すごく嬉しかったにもかかわらず、「こんなこともわからないのか?」とあからさまに馬鹿にした態度を取って彼女を傷つけていたし、大学時代に再会したときも、当時彼女が通っていた大学を「あんなレベルの低いとこに行ってるの?」とか、さんざん馬鹿にするようなことを言っていた。そんなんで、よく付き合えたものだと思うが、俺はずっと憧れていた彼女と付き合えたことに舞い上がってしまい、自分の言動を振り返る余裕がなかった。結局、そのままフラれて現在に至るというわけだ。
「でもあいつ・・・ それならなんであんなことを・・・」
戻される直前に、初美の方から俺にキスをしてきた、あの感触がまだ唇に残っていた。俺の身体は60歳に戻ってはいたが、それを思い出したことで下半身が漲ってくるのを感じた。
「身体は正直・・・って、そんなこと言ってる場合じゃないっての!」
俺は携帯電話を手に取り、お袋に電話を掛けた。もともとの俺は月1回は実家に顔を出すよう言われていたし、最低でも週1回は電話することにもなっていた。もう80歳を超えているお袋が、まだ子離れできないのか、60歳にして独身の俺を心配しているのか知らんが、いくら何でも干渉しすぎじゃないかとは思うが・・・
「お袋、そう言えば初美ってあれからどうしたか知ってるか?」
「ああ・・・ アンタがフラれたって噂が流れて、しばらく肩身の狭い思いをしてたのに、アンタときたら飄々としてたもんだから、心配したこっちがバカみたいじゃないかって、散々悩ませて貰ったわね。今更どうしたってのさ?」
心配? 悩んだ? 俺は別にお袋に初美とのことを相談した覚えはないし、俺自身はフラれた原因が俺の方にあることをしっかり反省もしてるから、別にお袋に悩んで貰う必要などないのだ。噂話を信じて勝手に心配してるなら、それは噂好きのお袋の自業自得というものだが、そんなことを言ったら話が進まなくなるから、俺は気持ちを切り替えた。
「夢を見たんだよ。」
「夢? はっちゃんのかい?」
「あいつが、小学生の頃の俺の前に現れて、やり直せないかって言ってきた・・・夢だよ。」
「なんで小学生なのよ?」
「あくまで夢の話だからな? それに、小学生の頃の俺って、結構モテてたりしてなかったか? だからじゃないの?」
「まさか、小学生に戻れたら結婚できるんじゃないかって思ってないかい? なんか今更だね・・・」
実際、タイムリープした俺は、由美乃や雪姉と結婚できてたわけだから、まさにその通りなんだが、そんなことを言ったら話が進まなくなるどころか、ラノベの読み過ぎとかバカにされるだけだろう。
「俺だって今更だって思うけど、あんな夢を見せられたら気にもなるってモンだろう?」
「そりゃそうかもね。はっちゃんなら、バリバリのキャリアウーマンで、あちこち飛び回っていたらしいけど、最近、実家に戻ってきたって聞いてるよ?」
「実家?」
「今はマンションが建ってるけど、その中の一室さね。あの娘は結婚してないはずだから、独り暮らしなんじゃないのかい?」
「えっ? 初美が独身?」
「もう58だっけか? 子供は無理だろうけど、独り身同士、アンタともう一度やり直せないこともないってことかね? まあ、ただの夢とも思えないから、一度会ってみたらいいんじゃないかい?」
初美が独身だったとは考えもしなかったが、もしかすると、それは俺をフッたことが原因なのか? なら、その方法はわからないが、タイムリープしてまで俺を追いかけてきたことも納得できない話じゃない。
俺は、初美が戻ってきたというマンションに向かうことにした。
「でも、なんて言えばいいんだ?」
例の声の主は、リセットしたと言ってたから、今の初美はタイムリープした記憶を持っていない可能性がある。なら、40年前にフッた男が今更会いに来たっていうことになるから、あまりにも不自然すぎる気がする。お袋に話したように夢を見たと言うしかないが、俺が初美にフラれたことを40年引き摺っているみたいで、なんか嫌だ。
「まあ、どうせまた戻されるんだろうし、これ以上恥を掻いたところで失うものもないか・・・」
初美のいるというマンションはオートロックで、エントランスで部屋番号を入力して呼び出さないと中には入れないが、俺はお袋から部屋番号を聞いていない。仮に、誰か住民の出入りに紛れて中に入れたとしても、部屋がわからない以上探しようもない。だいたい、お袋の話が違っていたら、ただの不法侵入者だ。失うものはないとは言ったが、通報されるのはさすがにマズい。
エントランスでしばらく考え込んでいたら、中から住民が出てきたので、俺は軽く会釈し、怪しまれる前にその場を立ち去ろうとしたが、その住民に声をかけられてしまった。
「お前、雅哉か?」
えっ? 健太?
「どうして健太がここに?」
「なんだ、雅哉、俺がここに引っ越してきたことを聞いて来たんじゃないのかよ?」
健太が引っ越してきた? お袋からは何も聞いてない・・・って、電話では初美のことしか話してなかったから、そりゃ聞けるわけもないか・・・
「いや、お袋から聞いてはいたんだけど、ここのマンションだとは知らなかったよ。」
「じゃ、雅哉は何でここに来たんだよ?」
「人探し?」
「なんで疑問形なんだよ?」
エントランスで立ち話では、他の住民の邪魔になるからと、俺はそのまま健太の部屋に通された。
「おーい、おかあさん、珍しい奴を連れてきたぞ?」
「おかえり、健ちゃん。珍しい奴って・・・ あら、もしかしてまーくんなの? 何年ぶりかしら?」
健太を出迎えたのは、間違いない、さつきだ。そう言えば、さつきって健太のことが好きだって由美乃から聞いてたっけ・・・
「さっちゃん、久しぶりだね。そうか、初恋が実ったってことか。」
「え、ええっ! どうしてそれを・・・?」
健太が苦笑いしている。さつきは俺達が中学生になった頃に引っ越して行って、俺とはそれっきりだったわけだが、健太とはさつきが高校卒業直後に偶然再会していたらしい。その後、妹の弥生ちゃんの後押しもあって、めでたく結婚に至ったそうな。
「そう言えば、さっちゃんと仲の良かったはっちゃん、今どうしてるか知ってる?」
「あら、まーくん、知らないの? はっちゃんて、このマンションの大家さんだよ。」
「俺達がここに引っ越してきたのも、初美さんの紹介なのさ。」
初美が大家だったとは・・・ そう言えば、バリバリのキャリアウーマンだったらしいから、結構稼いでいたってことなのかもな・・・
「そう言えば、雅哉、お前、初美さんと付き合っていたことがあるって本当なのか?」
「そうそう、それ、ウチも聞きたかったのよ。はっちゃん、まだ独身だし、なんでっていつも思ってたんだけど、もしかして、まーくんからのプロポーズをずっと待っている、なんて話じゃないわよね?」
「そんなわけあるか! だいたい、俺はあっさりフラれたんだぞ!」
「そうなのか? でもそれじゃ・・・」
「そうよね。なんか勘違いとか行き違いとかじゃなかったの?」
どうも話がおかしい。だいたい初美は俺にはっきり「別れましょう」と言ってきたわけだし・・・
「このマンションの最上階が初美さんの自宅だから、今から行ってくれば? 雅哉の言ってるようにフラれて気まずいというなら、俺達が付き添ってやってもいいし・・・」
「うんうん、そうしようよ。はっちゃん、驚くだろうな・・・」
なんか、この夫婦、他人事だと思って楽しんでないか?
とは言え、もともと初美に会おうと思って来ていたわけだし、タイムリープのこともあるから、ここで逃げていても仕方ない。おれは健太とさつきの話に乗ることにした。
健太と思わぬ再会をしたこともあって、初美と会うことができそうな状況になりました。初美はどうしてフッたはずの雅哉を追いかけてタイムリープしたのか、協力者はいったい誰なのか? もっとも、初美の記憶が残ってなければ答は出ないでしょうが、さて・・・




