突然の帰還
またしても3週間ちょっと空いてしまいました。決して月1回でいいだろうとは思っていませんが、なら3月中にもう1回更新できるかと言われると・・・ どうでしょう?
初美の行動により、雅哉の状況が一変します。
その後、夏休み中はずっと、午前中は自宅で京子と初美、昼過ぎから由美乃の部屋に行き由美乃と一緒に夏休みの宿題を片付け、夕方から栄治達と合流して勉強会という、俺からしたらおよそ小5とは思えないくらいの勉強漬けの毎日となった。
もともとの俺の小学生時代の夏休みと言えば、それこそ1日中栄治と文也の3人で遊び惚けていたし、栄治か文也のどちらかがいない時には京子が誘ってきて、勉強などほとんどしていなかった。そして8月の20日を過ぎたあたりから、あわてて夏休みの宿題を始めるという、当時の小学生あるあるに俺もずっぽりハマっていたのだ。
「なんか、今年のまーくんは、随分と手際が良くなったわね? 何かあった?」
母に小4までの俺との比較で、まるで別人のようだと言われたが、俺は笑って誤魔化すしかなかった。
「おばさんもそう思うでしょ? これは絶対に何かあるって思うけどね・・・」
俺に何回目かと聞いてきた日以来、さっきの母のように誰かがこれまでの俺との違いを口にすると、その度に初美が俺に揺さぶりをかけてくるようになった。だからと言って、初美から距離をおこうという気にはなれなかった。
「貴方は由美ちゃんが好きなんでしょ? どうして彼女から離れようとしないのよ?」
言われるまでもなく、俺は初美とどうにかなりたいと思ってはいない。前回の雪姉の時は、彼女への同情もあったが、俺しか彼女を救えないという状況があった。由美乃を選んでいたとしても、雪姉に救いがないままだったら絶対に後悔していたはずだ。今回は、これまでとは違い、英治が雪姉から好感を持たれる程になっているから、雪姉の祖父の介護に協力するようになれば、英治が前回の俺の立ち位置に立てるかもしれない。そうなれば、俺も安心して由美乃に専念できるというものだ。
なら、俺のループのことを感づいている初美の存在は、毒にこそなれど薬にはならない。それはわかっているんだけど・・・
「もともとの貴方の潜在意識の中に、大学時代に付き合ったという彼女がいるみたいね。こう言っちゃなんだけど、貴方は彼女のことを諦め切れていないのかもね?」
そうかもしれない。もともとの俺には、初美と別れて以降はほとんど女っ気がなかった。・・・唯一、35歳の時に14才年下の女の子といい感じになったことはあったが、年齢差が理由で結婚にまでは至らず、結局別れてしまった。そのせいか、年齢差が2才の初美とだったら、という感情に囚われて、余計に初美のことを後悔するようになってしまった。
「だけど、60才にもなれば、いい加減吹っ切れているし、これまでのループで由美乃への気持ちを再確認できているから、今の俺に迷いなどないよ!」
それは確かに俺の本心なんだが、だったら声の主の言う通り、初美とは距離を置くのが正解なんだろう。だが、初美は夏休みが終わっても俺の家に入り浸り、雪姉の家にも当然のようについて来るようになった。
「はっちゃんは成績が良いって聞いてるけど、どうしてアタシのところに来るの?」
「それを言ったら、まーくんだって同じじゃない?」
「雅哉は俺に付き合ってくれてるだけだよ。」
「ん・・・ まー兄は私の先生だから当然・・・」
「正直言うと、私は英治君が気になるから、かな?」
「な・・・ なんでだよ! 俺は別にお前になんか・・・」
「ふーん、顔が真っ赤だよ、英治君・・・」
「ゆ、雪姉、ご、誤解だよ! 俺は別にはっちゃんとは何も・・・」
初美がさらりと爆弾を投下した。英治の反応は小5男子なら仕方がないとも言えるが、雪姉の反応が意外だった。英治の言い訳を無視して席を立ち、そのまま2階の自分の部屋に隠ってしまったのだ。
「初美! お前、何を言い出すんだよっ!」
「あら、私は実際に今回の栄治君の行動に興味があるのよ。」
「今回? この前も言ってたよな? 今回ってどういうことだよ?」
この前? まさか栄治の行動パターンが変わったのは、初美が栄治に何かを言っていたからなのか?
「栄治、雪姉を追いかけなよ。」
「・・・・・」
雪姉から見たら初美は4才も年下だから、何を言われようと動揺などしないと思っていたが、俺が今の初美に感じているように、雪姉も年相応には感じていないのだろう。初美はそれをわかっていて挑発したのだと悟った。だが、それは雪姉自身が栄治を異性として意識しているということになる。そんなことが本当にあるんだろうか?
「まあ、雪ちゃんは栄治君に任せるとして・・・ 由美ちゃん、まーくんをちょっと借りるわよ?」
俺達が「雪姉」と呼んでいるように、初美や京子は「雪姉ちゃん」と呼んでいたはずだ。今はまだ小3の初美が「雪ちゃん」と呼ぶのは何か変だ。それは、初美の中身が今の雪姉よりも年上だからだと確信した。
「・・・ちゃんと返してよね?」
「当たり前でしょ? ちょっと話がしたいだけよ。」
初美と俺は雪姉の家の玄関先に出た。由美乃の前では話ができないと思っていたのは初美も同じだったようだ。そこで初美は俺に顔をゆっくりと近づけてきた。初美の顔をこんな至近距離で見たのは、もともとの俺が大学時代に付き合っていた頃以来だ。もっとも、その頃の初美は今から10年後の姿なのだが。
「はっちゃん、俺にキスでもするつもりかい?」
「馬鹿ね、誰かに聞かれたら困るから近づいているだけよ。それって、あなたがあの時のように、私とキスしたいってことなのかしら?」
しまった、迂闊なことを言って墓穴を掘ってしまったようだ。俺は初美のこの言葉にどう返答していいかわからず、また、自分でも動揺しているのがはっきりわかった。こんな態度を見せてしまっては、俺がループしていることが丸わかりだろう。
「どうやら、間違いないわね?」
そう言うと、初美は俺の唇に自分の唇を重ねてきた。咄嗟に顔を背けようとしたが、初美の両手が俺の頭を掴んで離さず、俺は初美を振り切れなかった。
初美は顔を離すと、また同じ質問をしてきた。
「まーくん、今のあなたは何回目なの?」
どう答えたものかと逡巡している時間が、永遠に続くような気がした。初美は口を半開きにして俺の答を待っている。頬が紅潮して息が荒い。まずい、このままだと完全に引き込まれてしまいそうだ。
「しっかりしなさい。貴方は貴方の目的を忘れてしまったの!?」
例の声に叱責されて、俺は我に返ったが、どう返答するのが正解なのかは依然としてわからないままだ。だが、もはや誤魔化すことはできないだろう。
「2回目だ」
「それじゃ、1回目で雪ちゃんに転んじゃったわけね?」
「どうしてそれを・・・」
「もし、あなたが雪ちゃんを助けなかったら、あなたの思惑通りに由美ちゃんとやり直せていたかもね。」
「・・・・・」
俺は実際は3回目なのだが、1回分サバを読んでいたことまで知られているらしい。どうやらこれまでの俺は、初美と一緒にループしていたようだ。
「貴方には悪いけど、このまま60才に戻ってもらうわよ。」
どうしてそうなるんだ、と頭の中で叫んだ。
「彼女が一緒にループしているようだから、一旦リセットする必要があるのよ。彼女を一緒にループさせているのが誰なのかも見当はついているから、次は一緒にループしないように調整するわ。」
待て、じゃこのまま60才に戻された時、俺は誰と一緒にいるんだ?
「そこからまた戻されて4回目に入るんだから、そんなことどうでもいいでしょ?」
次の瞬間、俺の意識はもともとの俺がいたワンルームマンションに戻っていた。シングルベッドの中、隣には誰もいなかった。
もともとの雅哉は大学時代に初美と付き合っていましたが、半年も経たないうちに初美の方からフラれてしまっています。それだけに、初美が一緒にタイムリープしていたり、キスをされたりしたのが不思議でなりません。しかし、声の主は結論を出さないまま60歳に戻してしまいましたが、そこはもともとの雅哉の部屋、隣に誰もいない世界でした。まさか、やり直しをさせないための行動・・・?




