平穏
すみません、ほぼ1ヶ月ぶりの更新になってしまいました。最低でも月2回と思ってたんですが、今月は果たせそうもありません。
雅哉が改革に乗り出しますが、本来の目的とはちょっと違う方向に行ってしまいます。
翌日、俺は生徒会メンバーと顧問の先生に、残りの夏休み期間中の生徒会活動を休止することを宣言した。
「夏休み期間中のクラブ活動については既に顧問の先生方と話はついていますし、トラブルが発生したとしても、それは顧問の先生が対処すべきであって、生徒会の問題ではありませんよ。」
「だけど、これまでの慣習では・・・」
「校則では、『17:00までに下校すること』と定められていますが、少なくとも僕が生徒会に入ってからは、これを守っていないクラブがほとんどです。さらに、『休校日のクラブ活動は生徒会の認可に基づき顧問の教師が管理監督を行う』とされています。僕達はタイムテーブルを作成し、グラウンドや体育館を申請に基づき公平に割り振っていますが、そこから先は顧問の仕事だということです。僕達が活動自体に立ち合う必要があるとはどこにも書かれていません。」
「立ち合わなくても良い、とも書かれていないんだが?」
「校則に書かれていないなら、それは管理監督を行う顧問の先生の責任範囲ですよね? ですから、僕達が立ち合う義務はないですよ。僕達は生徒会であって、クラブ員ではありませんから、顧問の先生の管理監督する対象ではありません。これまでの生徒会はあくまで生徒会メンバーの意思で立ち合っていただけですから、僕達が止めると言えば、それを妨げる事は誰にもできないと思いますけど?」
「・・・・・・わかった。常々、君たちの負担が大きすぎるとは思っていたから、そこまで言われたら認めるしかないな。」
昭和の時代、生徒が先生にこんな発言をすれば、まずロクなことにはならなかったはずだが、中身が60歳の俺から見たら、60歳定年のこの時代の先生達は皆年下になる。それも、教頭や校長などを除けば、もともとの俺よりも10歳も20歳も年下だ。人数的にはさほど多くはなかったが、部下を持つ管理職の経験がある俺が、ヒヨッ子の教師連中に口で負けるはずがない。それに、校則が遵守されていなかったことが問題なのだから、1年生の俺の立場なら前例にとらわれる必要はない。改革するにはうってつけの状況だ。
「だが、生徒会活動の休止まで認めるわけにはいかないぞ。クラブ活動は中本君が言うように顧問の教師に責任があるが、それ以外の活動はまた話が別だからな。」
まあ、俺は早く帰れればいいだけなので、生徒会活動の停止まではもともと期待していなかった。そこまで言わないと本気にしてもらえないと思ったからだ。
「確かに、プールの件もありますしね。なら、それが終わる16:00くらいに帰っても問題はないですよね?」
クラス毎に持ち回りでプールで遊ぶことが許されていたが、この順番やら時間やらは生徒会が管理する必要があった。もっとも、輪番の教師とPTAの有志がプールサイドに待機しているので、俺達が監視する必要は本来ないのだが、勉強会の時間が取れるのなら俺に異存はない。
「プールの方だけなら、雪さん以外の4人を2つに分けて、週2回ずつ対応すればいいんじゃない?」
その健太の提案は先生にも受け入れられたので、俺達は1日おきに登校すればよくなった。夏休み期間中の土日はプールの開放はしないし、クラブ活動の立ち合いが無くなったため、連絡事項の引き継ぎなどで全員が登校する1日を含めて、週3日の登校で済むことになったのだ。これで、由美乃とのデートもできるかもしれない。
「まーくん、これでいっぱいデートできるよっ!!」
うーん・・・ 雪姉には考えを見透かされているようだ・・・
* *
結局、なんだかんだ言われたものの、俺が雪姉とデートすることはなかった。そもそも俺にそんなつもりはなかったし、生徒会活動が減ったとは言え夏休みの宿題が減るわけじゃないからだ。勉強会の場で片付けようとしても、俺の場合、由美乃を中心に勉強を教える時間の方が長くなるので、自分の宿題を消化する時間がないのだ。こんな状態で、生徒会活動をあのまま続けていたら、とんでもないことになっていただろう。
幸い、俺は自分の宿題を由美乃の部屋ですることができるようになった。これは、由美乃の母親の計らいで、クーラーが設置されていない休憩室ではなく、設置されている事務所の方がはかどるだろう、という申し出があったからだ。勉強会は少し涼しくなる夕方からなので、それはこれまで通り休憩室ですることになっていた。
「まーくんが昼間にここに来ていることは、雪ちゃんには内緒にしておいてあげるわよ。」
とは言え、雪姉の場合、俺が由美乃の部屋にいる時間には、母親の病院に行っているので、たとえバレたとしてもどうしようもないはずだ。まあ、夕方の勉強会には来ているので、薄々感づいてはいるかもしれないが。
「まー兄・・・」
由美乃が嬉しそうに俺を呼ぶ声が、なんかすごく愛しい。
「ほらほら、手が止まってるわよ。まーくん、クーラーが利かなくなるから、由美ちゃんの方ばかり見てちゃダメよ!」
「なんで僕が由美ちゃんを見てると、クーラーが利かなくなるんですか?」
「私があてられるからよ!」
そんなことを言いつつも、由美乃の母親はたまに5分くらい席を外すことがあった。それに気づいた俺は、その度に由美乃とキスしたり身体を触ったりした。それくらいなら許してあげる、という無言の了承なんだろう。まだ小4の由美乃相手なら、それだけでも十分だと思わなければいけないんだろうが、俺はだんだんと我慢するのをつらく感じるようになっていった。
* *
二学期が始まると、俺は普段の生徒会活動でも、夏休み同様にクラブ活動の立ち合いを止めた上で、校則で定められた下校時間の徹底を行うことを宣言した。クラブ活動は顧問責任で17:00以降も延長できるという慣習があったが、このことは校則には規定されていない。本来は17:00になればどんな事情があっても下校しなくてはならないのだ。
最初の1週間は各クラブからの抵抗が激しかったが、翌日に教頭にそれを報告すると、顧問の先生に対し厳重注意がされた。それを続けたことにより、1ヶ月もしないうちに校則通りの下校時間が徹底されるようになった。当然、生徒会メンバーも17:00には確実に帰れることになり、俺は下校直後に由美乃の部屋に行けるようになった。
また、雪姉が母親の病院に行くため、放課後は生徒会活動ができない代わりに、休憩時間をうまく利用しているのを見習って、同じことをしてみた。幸か不幸か、俺に絡んでくる生徒は健太ぐらいしかいなかったので、予想以上にうまく回せた。その健太の協力もあって、週1回ぐらいは普通に下校できるようになったのだ。
「ノー残業デーをゲットだぜっ!」
「ノーザン・・・なんだって?」
健太が社〇の馬みたいな発音で言い返してきたが、まあ、この時代は残業なんか当たり前だったし、サービス残業あり、有給休暇なしなんて珍しくもなかっただろうから、ノー残業デーなんて言葉があるはずもないので仕方ないだろう。まあ、生徒会活動はボランティアみたいなものだから、元から関係ない話だが。
そのノー残業デーに勉強会を行うことにし、ようやく元の状態に戻すことができた。夏休み期間中と違い、雪姉が来ることはなかったので、俺と由美乃にとっては平穏無事ともいえる毎日が続いたのだった。
だが、この状況はおそらく長続きはしない。本当に平穏無事なら、未来が確定したとみなされて俺は60歳に戻されるはずだが、そうならないということは、この先、人生の岐路とも言える何かが起こるということだ。最初からそれをわかっていながら、俺は現状に溺れ過ぎて油断していた。
校則で理論武装して、なんとか由美乃との時間を取り戻しましたが、雪姉がこのまま何もしてこないはずがありません。次回、いよいよ動きます。
ちなみに、ノーザン・・・ですが、この時代(昭和46年頃)には既にあったようですが、生産馬が活躍するのはもう少し後の話なので、健太でなくてもその冠名は知らないでしょうね。(蛇足ですが)




