噂話
できれば2週間以上は開けたくないと思ってはいるのですが、残念ながら18日ぶりとなってしまいました。すみません。
今回は、3回目の中学入学ということになりますが、雪姉の影響で、前回までとは状況がかなり変わってきます。
あのクリスマスパーティーの1件以来、お袋をはじめ近所のおばさん達にからかわれる様にはなったが、多くの大人達は俺と由美乃の関係を好ましく見てくれていた。ただ一人、由美乃の父親だけには相変わらず認めては貰えなかったが。
小学校でも俺達のことは噂になっていたようで、どこからバレたのか、俺達が昼休み時間中に会っていることが知られてしまった。鍵の掛かる密室にいるということが先生にバレるのはさすがにマズいから、これまでの様に由美乃を抱き締めたりキスするなんてことはできなくなった。
また、下校してからは、まず由美乃の家庭教師をして、そこに健太達が合流して勉強会をすることにしたが、さつきあたりが毎日は厳しいとか言い出したようで、週3日、2日と徐々に減っていった。だが、その分、俺が由美乃だけに教える時間が増えたので、それはそれで悪い話ではなかった。母親がたまに気を利かせて2人だけにしてくれたりしたので、そういう機会にキスしてみたり、わりとやりたい放題だった。
肝心の由美乃の成績は、小学校の3段階評価で、「がんばりましょう」がまったくなくなったため、父親を黙らすには十分な結果になったようだ。でも、油断は禁物だ。
その後、俺が中学生になり、ついに同じ学校に通うという状況に終止符が打たれた。京子や初美のように2つ違いなら1年だけでも同じ学校に通えたのだが、こればかりは何度ループしたとしても変えようがない。家庭教師でそれなりの実績を作れたから、由美乃との時間がなくなったりはしないのだが、朝一番で顔が見られないのは、やっぱり寂しい。
しかも、入学式当日から、雪姉の猛アタックが始まった。それまでは健太を含めた男3人で一緒に登校することになっていたのが、例によって英治が拗ねてしまったのと、雪姉の無言の圧力に押された健太が英治と2人で登校すると言い出したため、2日目からは俺と雪姉の2人で登校するという状況になってしまった。
「雪姉、そんなにくっつくなよ。みんなが見てる・・・」
「あら、まーくん嫌なの?」
一応、抵抗はしてみたのだが、少し潤んだ目でじっと見て来るので、バッサリ切り捨てることができない。こういうのも的場さんの入れ知恵なんだろうか?
「そうじゃなくって、新入生の俺が雪姉とくっついていたら、変に噂されたりするよ? 雪姉は良くても、俺が悪目立ちすると、いろいろ問題になっちゃうよ!?」
「別に、言わせとけばいいじゃない? どんな問題があるって言うのよ?」
「ほ、ほら、雪姉って結構美人だから、人気あるんじゃないの? 3年生の誰かが、俺を逆恨みして呼びだしたりとかするかも・・・」
「あははっ! 何それっ? アタシが美人だなんて言ってくれたの、的場の叔父さん以外ではまーくんが初めてだよ! まーくんがそう思ってくれるんなら、アタシは別に構わないよ?」
「俺が構うんだよ。入学早々、3年生に目をつけられてたまるかってのっ!」
「えーっ! なんかのドラマみたいでおもしろいじゃない? もし呼びだされたら、教えてよ? アタシも一緒に行ってあげるから!」
余計なこと言って裏目に出たかも・・・ その場では、そんな事態になるとは思ってなかったし、雪姉も本気にしていなかったみたいだが、その次の日、雪姉と分かれて自分の教室に行くと、見知らぬ上級生が扉の前で待ち構えていた。呼び出しじゃなく、待ち伏せパターンかよ!
「お前、1年の癖に生意気だぞ!」
もちろん何を言いたいのかはわかっているけど、こういう輩には何を言っても通じないだろうから、適当に受け流すしかないよな。
「先輩、僕に何のご用ですか?」
「お前、朝っぱらから女といちゃつきやがって、生意気なんだよ!」
「ああ、僕も困ってるんですよ。雪姉も3年生なんだから、いい加減、弟離れして欲しいものですよ。」
「えっ? 弟? 千葉さんにはきょうだいはいないって聞いてたけど、本当なのか?」
「お隣さんですし、僕からしたら姉も同然ですよ。雪姉だってそう思ってるはずですよ?」
「お隣さん? なんてうらやま・・・いや、まあ、そういうことなら・・・」
「先輩、もうすぐ予鈴が鳴りますよ。僕なんかに構っていていいんですか?」
「あっ! そ、そうだな。じゃあ、お前、俺が千葉さんと・・・その、何だ?」
「それは雪姉に直接言ってくださいよ。」
「わ、わかった! じゃあな!」
同級生達は、俺が3年生にやられるとでも思っていたみたいだが、彼が雪姉に気があることは明白だから、本当の姉弟ではないにせよ、隣同士で身内も同然の俺にヘタに手を出せるはずがないのだ。俺が殴られでもしたら、殴った奴を雪姉が許すわけないからだ。もっとも、実際に殴られてやれば、それを口実に雪姉との登校を回避できたかもしれない。どちらに転んでいたとしても、俺にとっては悪いようにはならないと思っていた。
だが、結果として、怖い3年生をあっさり退けたとして、同じ1年生達に一目置かれるようになってしまった。さらに、俺と由美乃の関係を知ってる同級生が余計なことを吹き込んだことで、またしても俺は、プレイボーイの称号をつけられてしまったようだ。
「あははっ! 本当に来たんだ? ねえ、もしかして、そいつって、角刈りで鼻の脇にでかいほくろがある奴だった?」
「雪姉、知ってたの?」
「そいつに、アタシ、告白されたんだけど、おかあさんが入院して大変だから、今は無理って断ったのよ? まだ脈があると思ってるのかな?」
「そりゃ、その言い方じゃ、俺だってそう思うよ。だから俺といちゃついてるのを見たら、文句の一つも言いたくなるはずだよ。」
「わかった、こんど、ちゃんと言うね。」
「やめてくれよ。それこそ逆恨みされちゃうよ。せめて卒業までは夢を見させてやりなよ。」
他人の気持ちを慮れ、などと言っても、中学生には無理な話なのかもしれないが・・・
* *
それ以降、俺は同級生の男子からは嫉妬と羨望の眼差しを向けられてはいたが、直接俺に何かを言ったりやったりしてくる輩はいなかった。俺のことを知っている同じ小学校出身の同級生の話を聞き、実際の俺の中1らしからぬ言動を目の当たりにして、自分たちとは違うと思われたようだ。輪を掛けて、初の定期試験となった中間試験で、俺は5教科全てで満点を叩き出した。なんか、学校始まって以来の快挙だそうだ。いや、こう言うと、凄いことをしたように受け取られるかもしれないが、60才の俺にとっては難易度の低い中1の最初の中間試験、しかも、同じ試験問題で3回目ともなれば、当然の結果とも言える。今回のループでは、雪姉が諦めた時点で未来が確定するようだから、それ以外のことについては特段自重する必要がない。むしろ、由美乃の父親に認めて貰うために、俺は全力を出す必要があると思っていたのだ。
結局、学校で話しかけてくる同級生は、ほぼ健太一人となってしまったのだ。
「雅哉、お前、いろんな意味ですごく目立ってるぞ? 良くも悪くも、女子の噂話が凄いってよ?」
健太の妹の弥生ちゃんには、俺達の同級生の姉を持つ友達がいるそうだが、そのお姉さんから、同級生にもの凄い優等生がいると聞かされたらしい。それだけなら別に悪い気はしないのだが・・・
「その子が言うには、表では全教科満点の優等生だけど、裏では上級生の男子を手玉に取って、全学年をシメているマフィアみたいに怖い番長なんだってさ。それ、誰のことだって感じだよな?」
手玉に取ったって・・・ 俺はただ、雪姉に片思いしている先輩に、俺は弟みたいなもんだと言っただけなんだが、なんでそれが「マフィアみたいに怖い番長」ってことになるんだよっ!?
「確かに、あの先輩の見た目は、かなり怖かったけどな。」
「そんな先輩をあっさりやり過ごしたんだから、雅哉も怖いってことになっちゃったのかもな?」
まあ、所詮は噂話に過ぎないし、夏休みを挟んで2学期にでもなれば、変な誤解も勝手に解けるんじゃないかとは思うけど・・・ だが、やっぱり全教科満点はやり過ぎだったかもしれない。ただでさえ、あの先輩の件で近寄りがたい感じになってしまったのに、前代未聞の快挙となれば、ますます浮いてしまうのも道理だろう。
その後も、雪姉が昼休憩の時間とかにちょくちょく顔を出してくる上、それを少し離れた場所からじっと見ている例の先輩の姿があって・・・ 他の1年生たちは当然として、俺自身もこれ以上関わりたいとは思わない。
「健太は俺といても平気なのか?」
「なんか、栄治も含めて四天王とか呼ばれているらしいよ?」
「あと一人って、誰だよ?」
まあ、60才の俺に言わせたら、所詮はガキの戯言に過ぎないのだけどね・・・
作者の中学生時代にも不良グループとかがいたりはしましたが、上級生に呼び出されたとか待ち伏せられた、なんて話は聞いたことはなかったです。むしろ、竹刀を持った教師が目を光らせていて、何かあろうものなら思い切り竹刀で叩かれてましたから、ヘタなことはできなかったですけどね。今の時代にそんな教師がいたら、クビどころか逮捕されてしまうでしょうけど・・・




