クリスマスパーティー
またしても、3週間ほど空いてしまいました、ごめんなさい。
今回は、タイミング的には半年ほどズレていますが、クリスマスの話になります。
「まーくん、由美ちゃんの勉強見てくれるんですって?」
うん? 確かにそのつもりではいたが、何回も言うようだが、小学生が小学生の家庭教師をするなんていうのは、いくらなんでもあり得ないと思われるだろうから、由美乃には勉強会という言葉を使って説明させたはずなのだが・・・
「その話なんですが、休憩室をお借りしたいと思っています。」
「あら、どうして? この部屋でやればいいんじゃない?」
「べ、別に、由美ちゃんと僕だけでってわけじゃないんですよ。さっちゃんや、弥生ちゃんも一緒ですし、健太もいますから。」
「ああ、そういう話だったの? 私てっきり、まーくんが由美ちゃんと2人きりになる口実だと思ってたわ。」
やはり、俺の考えは読まれていたか・・・って、由美乃の母は俺たちの気持ちを知っていて、父親と違い応援してくれているのだから、そりゃ当然か。
「バレバレでしたかね?」
「バレバレよ。」
傍らで、由美乃が顔を真っ赤にして俯いていた。そんな姿を見た俺の鼻の下は、だらしなく伸び切っていたに違いない。
「勉強会のことは了解したわ。今日は休憩室を使うから、明日からでいいのよね? 小学生が5人程度なら5時前でも構わないけど、5時まではこの部屋で待っているってことね?」
「はい、それまでの時間は、由美ちゃんだけの勉強を見るつもりでした。」
「ふーん・・・ 私が席を外すのも計算に入れてるのよね?」
「えっ? そうなんですか?」
「またまたぁ~ とぼけちゃって、ホント、バレバレなのに、もう、かわいいわねぇ~」
いろいろからかわれている気はするが、由美乃の母親からは好感を持たれているようなので良かった。
「でも、由美ちゃんの成績が下がったら、おとうさんは絶対に止めろというでしょうし、私もそれは同じよ。引き受けたからには、ちゃんと結果を出しなさいね。」
そう言った母親の顔には笑顔はなかった。そうか、これはビジネスなんだ。報酬は由美乃との時間。由美乃の成績という成果がなければ、その報酬は得られない。
「そうね・・・ 由美ちゃんが高校を卒業するまでが契約期間ということでよいかしら? もちろん、結果が出なければ、その時点で契約終了。どう、まーくんはそれでもいいかしら?」
うん、1回目のループの時には、俺が国立高校に入学することを宣言していて、その上で由美乃の家庭教師を引き受けていたが、その時も同じ条件だった。俺としては十分な条件だが、よくよく考えてみるとタダ働きに近い感じがするが・・・
「なんか、うまく言いくるめられた気がします。」
「そんなことないでしょ? もともとまーくんから言い出した話なんだから?」
まあ、由美乃の成績を落とすつもりは毛頭ないし、自信もある。だが、雪姉や的場さんがどう出るか、それだけが心配だ。
* *
俺達の小学校の冬休みは25日からで、今日24日は終業式だけで午前のうちに下校していた。由美乃の母親と話をしたのはまだ昼前のことで、話が決まった後、俺は由美乃とそのまま話し込んでいた。
「由美ちゃんところでは、今日、クリスマス会やるんだね?」
「うん、24日が今年みたいに平日だと、仕事が終わってから、休憩室を使って、皆でパーティーをやるんだよ。私達は食べたらすぐに部屋に戻っちゃってたけど、皆は9時ぐらいまで騒いでるよ。」
なるほど、由美乃の母親が、今日は休憩室を使う、って言ってたのはそういうことだったのか。要するに工場の人達の忘年会ってことなんだろう。それなら、文也と由美乃はともかく、俺なんかは完全に部外者だから、呼ばれるわけもないか。そんなことやってたことすら知らなかったしな。
「でも、今年は的場さんがまー兄を呼ぼうって言ってた。お父さんは、クリスマスはそれぞれの家庭でいろいろあるだろうから、誘うのはやめたほうがいいって言ってたけど・・・」
そりゃまあ、由美乃の父はいい顔をしないだろうさ。だが、俺としては、由美乃と一緒なら悪くないなんて思ったりするのだが・・・
「それに、雪姉ちゃんが的場さんの関係者としていつも参加しているから、ちょっと・・・」
雪姉の勉強会への参加は栄治が阻止してくれそうだが、さすがに工場関係者のパーティーとなれば栄治がどうこうできるものではない。俺だって関係者とは言い難いわけだから、雪姉と一緒に参加するなんて言ったら、何を言われるかわかったもんじゃない。考えるだけでも、かなりめんどくさい。
「雪姉のことはともかく、家にいないと親父に何言われるかわからないから、俺は遠慮させてもらうよ。由美ちゃんと一緒にいられるんだったら、絶対参加したいところだけど・・・」
「うん、おそらく、そうはならないかもね。的場さん、一昨日のことで、まー兄に何か言いたいことがあるみたいなこと言ってたし。」
一昨日の日曜日のことと言えば、まず有馬記念のことだろうな。例によって、的場さんから予想を聞かれたりしたのだが、俺は一言だけ「リユウズキ」とだけ答えただけだった。そう、俺はこの年の詳しい結果を知らなかったのだ。
しかも、一昨日は親戚の法事に連れて行かれたため、いつもの様に的場さん達と一緒にレース観戦はしていない。つまり、リアルでもレースの結果を知らずにいたのだ。
「ハズレたんだね?」
「うん、ハズレた。なんでもアサカオーが負けたとか言ってた。」
確か2着に変な名前の馬がきていたように覚えていたが、確信がなかったから言わなかったのだ。
「じゃ、そういうことで。由美ちゃん、明日からの勉強会、よろしくね。」
もう少し話していたかったが、パーティーの準備があるということなので、俺は由美乃の家から自宅に戻った。時間があったので、俺は明日から予定している勉強会の準備をすることにした。前もって由美乃から今どんなことを学習しているかを聞いてはいたが、どの程度まで理解が進んでいるかを知るために簡単なテストをしようと思っていたので、問題を作る必要があったのだ。
タイムリープ前のように、PCやワープロがあるわけではないし、同じ問題を3人分と言ってもコピー機があるわけでもない。当時の学校で使われていたのは、ガリ版刷りの印刷機だが、一般家庭にそんなものがあるわけもない。3人分とは言え、同じ問題を3枚、手書きをするのは、11才の、しかも字が汚い俺にとっては意外と重労働だった。
悪戦苦闘しながらも、なんとか作業を終えた時には、既に夕方の5時を過ぎていた。
「ヤバかった・・・ 前の日にやっておいて正解だったよ。」
3人で良かったかもしれない。コピーができないことがこれほど不便だとは思わなかった。
一息ついていると、いきなり雪姉が部屋に入ってきた。まあ、確かに門とか玄関とか、普段は戸締まりなんかしてないし、一度この部屋に来たことがある雪姉なら、いつ来たとしても驚くことじゃないけどね。
「まーくん、どうして来ないのよっ!」
「はい?」
「おじさんが由美ちゃんに、まーくんに今日のパーティーに来るよう伝えたって言ってたんだけど、聞いてないの!?」
「どうして俺が? だって、それって工場の関係者の忘年会みたいなものでしょ?」
「まーくんは関係者みたいなものじゃない? おじさんや工場長の競馬仲間なんだし?」
別に仲間になった覚えはないんだけどね。むしろ、断片的とは言え、一方的に情報を搾取されてる関係って言ったほうがいいんじゃないの?
「俺って小学生だよ? そんな関係だったら、即補導されちゃうよ!?」
そう言えば、俺の分と言って買ってた当たり馬券って、どういう扱いになってるんだろ? まあ、もともと的場さんの金だし、勝手に俺の馬券って言ってるだけだから、関係ないと言えば関係ないのだが。
「とにかく、今からでもおいでよっ!?」
例によって、俺の右手を両手で抱えるようにするので、胸が・・・ まずい、意識を持ってかれそうだ。
「でも、もう夕飯だし、かあちゃん準備してるだろうし?」
「あら、そういうことなら、雅哉の分はみんなで分けちゃうから、気にしなくていいわよ?」
お袋・・・ そこはちゃんと止めてくれよな・・・
結局、押し切られてしまった・・・ まあ、由美乃がいるだろうから、それでもいいや。
目論見通り、勉強会という名目で由美乃と会う時間を作れましたが、一方で雪姉からのアタックに揺れ動いている雅哉です。
ちなみに、この年の有馬記念、勝ったのは前年の皐月賞馬リユウズキで、2着はニウオンワード
いう馬です。ちょうどこの年まで、馬名に小さい「ャュョ」が使用できなかったらしく、2着の馬は本来なら「ニューオンワード」としたかったらしいです。ちなみに、3着は翌年、翌々年の有馬記念を連覇するスピードシンボリで、アサカオーは1番人気に押されますが6着に敗れています。的場さんはアサカオーから買って負けたらしい・・・




