束の間の逢瀬
2週間以上は開けないつもりでいましたが、15日ぶりになってしまいました。すみません。
「雅哉君、来たよ来たよ、ハクセツ! 単勝20倍ついたよ!」
赤羽から戻った俺達は、健太と再合流し4時近くに飛鳥山公園に戻ったのだが、戻るや否や、的場さんが興奮気味に俺に話しかけてきた。そうだった、ハクセツが勝って、枠連は1-6になると言っておいたんだった。的場さん自身は1-6を2000円買っていて、その他、俺の分と、なぜか雪姉の分として、それぞれ500円ずつ単勝馬券を買ってきたという。
「ハクセツって、漢字で書けば白い雪ってことだろ? 雪ちゃん、それってなんか自分のことみたいだからって言ってたから、記念にって買っておいたんだよ。」
今みたく、馬券に名前が入るわけじゃないけど、個人的に好きな馬の単勝馬券を買うってのは、この時代でも普通なんだな・・・となんか浸ってしまったが、俺が戻ってきたのに気付いた雪姉が、走ってきたと思うや否や、いきなり抱きついてきたのでびっくりした。
「まーくん、教えてくれてありがとうね! 的場のおじさんから貰った馬券、10000円になったらしいよ! まさかの臨時収入だよっ!」
「雪姉、わかった、わかったから、そんなにくっつかないでよっ!」
正面から両腕ごと、思い切り抱きつかれたので、振りほどくことができない。しかも雪姉の胸が思い切り押しつけられている。この時の俺の身長は雪姉とほとんど変わらない位だったが、もう少し低かったら顔が胸に埋まっていたかもしれない。なんか残念なような、ほっとしたような・・・
傍らで、由美乃がジト目で俺を見ていた。由美乃さん? これは不可抗力ですよ? 振りほどけないのは、俺の意思じゃないですよ?
「雪姉ちゃん、まー兄が困ってるから、早く離れて。」
「えー・・・ まーくん、別に嫌じゃないでしょ? 」
「い、嫌じゃないけど、由美ちゃんが嫌なら嫌かな?」
「何よっ! 自分の意思で決めなさいよっ!」
「まー兄はもう決めてるよ。私が嫌だから嫌だって! だから離してよ、雪姉ちゃん!」
それまで雪姉と一緒に遊んでいた弥生ちゃんとさつきが雪姉を追いかけて来た。
「雪姉ちゃん、何やってるの?」
「弥生ちゃん、こういうのをシュラバっていうらしいよ? はっちゃんがそう言ってた。」
「ふーん・・・ そうなの、お兄ちゃん?」
「俺に聞かれてもなぁ・・・ でも、雅哉って、由美ちゃんにだけじゃなくて、結構モテるんだな・・・?」
「健太君もかっこいいよ?」
「えっ・・・ そうかな?」
健太がなんか照れてるが、そんなことより雪姉をなんとかして欲しい・・・
* *
結局その後、雪姉が俺を離したら、由美乃が俺の左手を抱え込む様にして、ずっと離れなかった。帰りの電車は時間的に人が多かったので座れなかったが、運転席の脇を健太が譲ってくれたので、由美乃を進行方向が見えるように立たせて、その後ろに由美乃を守るような形で俺が立っていた。その間も、俺の左手を離さなかったので、由美乃を左手で抱きかかえるような体勢になっていた。
「あの2人・・・ 本当に好き合ってるのね・・・」
後ろで、雪姉の声が聞こえたが、俺は聞こえないふりをして様子をうかがった。
「工場長は、2人きりで会うなって言ってて、彼はそれを忠実に守ってるのさ。そんなところも含めてだけど、とても小学生とは思えないよね?」
「栄治君には悪いけど、同い年とは思えないわね。むしろ、アタシの小5の頃を思い返すと、栄治君は普通の5年生の男の子だと思えるけど、雅哉君は大人っぽ過ぎるかな?」
「僕は彼が感情的になったのを見たことがないよ。本人はビギナーズラックだって言ってたけど、普通は予想が当たったら、さっきの雪ちゃんみたいな反応になるはずなのに、全然喜ばないし・・・」
「最初から結果を知ってたみたいな?」
「工場長はあり得ないって言ったけど、彼は絶対未来から来たと僕は思ってるよ。」
「おじさん、それはさすがにないわよ・・・ でも、もしそうだとしたら、いったい何のために? アタシに的中馬券をプレゼントするため・・・ってわけじゃないわよね?」
雪姉と的場さんは、俺に会話が筒抜けだということに気づいてないみたいだ。だが、彼らの言うとおり、俺に小学生らしからぬ言動が多かったのは確かだろうから、もっと由美乃との思い出をたくさん保持した状態で60才に戻れるようにするためには、これからの言動をより慎重にする必要がある。このまま彼らの話を聞いて参考にしよう。
「雪ちゃんには詳しい話はしていなかったけど、彼は由美ちゃんを助けているんだよ。」
「それって、アタシが聞いちゃダメな話でしょ?」
「そうだね。詳しいことは言えないけど、僕は彼が由美ちゃんを助けに未来から来たんじゃないかと思ってるんだ。」
うーん、そこまで感づいているとなると、今更小学生らしい言動に戻したとしても、かえって怪しまれそうだな。このまま、ちょっと大人っぽい小学生を演じ続けるよりないみたいだ。
「もし、おじさんの考えが正しかったら、アタシの出番、なくない?」
あれっ? 雪姉、やっぱり本気だったの?
「まー兄、未来から私を助けに来たって、本当?」
由美乃がこれまでと同じ体勢で俺の方を見ずに、そう訪ねてきた。俺に2人の会話が聞こえてたんだから、由美乃にも聞こえてて当然だね。
「まさか。でも、これから先、由美ちゃんを助けられるなら、どんなことをしてでも助けたいと思うよ。それが俺の気持ちだから。」
その言葉を聞いて、由美乃は抱えていた俺の左手をさらに強く握ってきた。その発言に対しての返事はなかったが、それだけで十分だ。
「雪ちゃんの出番? それは雪ちゃんしだいじゃないかな?」
「でもあの2人・・・」
「雅哉君は2人だけでは由美ちゃんとは会えないけど、雪ちゃんはそうじゃないでしょ? 今はまだ我慢はできても、高校生ぐらいになると男の子はなかなか大変なんだよ。そういう隙をついて既成事実を作ってしまえばいいんじゃない?」
おいおい、的場さん、あんた自分の姪に何をさせようとしてるの?
「まー兄、大丈夫だよ。いざとなったらお母さんに言えば、お父さんなんかどうにでもなるから。」
由美乃さん? それって7歳の女の子の言うことですか?
まあ、これではっきりした。あの謎の声の主が言ってた「不確定要素」は間違いなく雪姉だ。最初は初美なのかなとも思ったが、1回目のループの時、俺は初美への想いを断ち切れている。1回目には出てこなかった雪姉こそ、今回の「ジョーカー」ということで間違いない。
「由美ちゃん。俺、自信がないわけじゃないけど、お父さんとの約束を守るよりも、由美ちゃんを優先したいよ。だから一つ提案があるんだ。」
「提案?」
「あまり時間はないかもだけど、俺が小学校を卒業するまでの間は、昼休憩の時間に2人で会えないかな?」
うちの小学校は全学年、12:30~13:20が給食の時間になっている。ただ、実際に給食にかかる時間は、当番でなければ20分ほどで、終わったら好きに遊んでもいいことになっていたのだ。当番は、週ごとに4~5人の班が持ち回りでおこなうことになっている。所定の割烹着を着用し、最終日に持ち帰り、家で洗濯して、次の週に次の班に渡すことで、引き継いでいくことになっている。
つまり、お互いが当番にならなければ、30分ほど会うことはできる。さらに俺には、誰にも邪魔されずに2人きりになれる場所に心当たりがあったのだ。
「だけど、そんなに長い時間は取れないよ?」
「それでもいいよ。たとえ5分でも一緒にいたいと思ってるから。」
俺の左手を握る由美乃の力がさらに強くなった。俺が卒業するまでの1年ちょっとの間、昼休みの束の間の逢瀬が決定したということだ。
「でも、まーくん、アタシが散々胸押し付けても、全然動じてなかったみたいだよ? もっと凄いことしないと無理なのかな?」
もっと凄いことって何? 思わず後ろを振り返って雪姉にそう問いかけたくなったが、由美乃が俺の手をしっかり握ってそれを許さない。うん、わかってる。ちょっとした気の迷いだよ。ごめんね。
雅哉達に聞かれているとは気づかないまま、的場さんが雪姉に「入れ知恵」をしていますが、それがより雅哉と由美乃の気持ちを高めたようです。
小学校を卒業したら、同じ学校に通うことはなくなりますが、それまでに由美乃との関係をもっと深くしたいと考えている雅哉です。




