健太と弥生
由美乃との時間を守ろうと画策しますが、なんかおかしな方向に話が進みます。
あれ以来、京子は俺と一緒に登校しなくなった。待ち合わせ場所に俺がいても、その前を素通りして初美の家の方に向かい、そのまま初美と2人で登校していた。自然に由美乃とさつきが取り残されるので、俺はこの2人と一緒に登校することになる。ひとまず、由美乃と2人だけで登校ということにはならなかったので、由美乃の父との約束を違えることにはならなかったが、さつきが初美と一緒に行けないことに不満を漏らしていた。
「なんでウチ達がまーくんのシュラバのせいで別々に登校しなくちゃいけないの?」
まあ、俺がいなければ、前みたいに女の子4人で登校できるからねぇ・・・ だが、こうなってしまうと、俺が由美乃と同じ空間にいられるのは登下校の時しかない。それも、2人だけというのが許されないから、初美かさつきに頼るしかない。初美は京子と一緒だから、必然的にさつき一択だ。
だが、このままではおそらく、さつきも京子達と一緒に行くことを望むだろう。登校時なら別に2人だけだったとしても、密室に2人でいるとかじゃないから問題はないと言い切ってしまうことも考えたが、俺自身のことを考えると、これまでのハーレム状態から、由美乃1人になるわけだから、これは由美乃と俺でカップルが成立したと見なされてしまうだろう。いや、実際、その通りだし、俺自身、そう吹聴したい気分だが、間違いなく由美乃の父親の期限は損ねるだろう。一緒に登校するな、ぐらいのことは言われると思う。
「まー兄、健太君と知り合いだよね?」
さつきが漏らした不満の声にどう対処したら良いかをいろいろ考えていた俺に、由美乃がそう声をかけた。俺の母と健太の母は年に1回は一緒に旅行に行くくらい仲が良いが、小学生のうちは、それぞれの自宅の位置関係で、一緒には登校していなかった。中学生になると、健太の通学路の途中に俺の自宅がある位置関係になるのだが。
「うん、同じクラスになったことはないし、どちらからも遠回りになるので一緒に登校したこともないけどね。お母さん同士が仲いいから知ってはいるよ。」
「もし、健太君が一緒なら、さっちゃんはあんなこと言わないと思うよ。」
由美乃は由美乃で、登下校だけでも俺と一緒にいたいと思ってくれているみたいだ。だが、わざわざ遠回りをしてまで、健太に来てもらうなんてできるものかな? 1回目の時に、さつきが健太を好きなことは聞いていたが、健太はさつきのことをどう思っていたのかは聞いてなかったな。
「さっちゃん、妹の弥生ちゃんと仲がいいから、健太君の家に何度か遊びに行ったことあるみたいだよ。それで、さっちゃん、健太君のこと好きになったみたい。」
ようするに、健太と弥生ちゃんに、さつきと一緒に登校するように言えばいいわけか。そうなれば、初美と一緒じゃなくても、さつきは文句を言わないだろうし、俺達も別々にならなくて済みそうだ。
「由美ちゃん、いいアイデアだよ、それ。健太に話をしてみるね。」
ただ、クラスが違うので、今はあまり接点がないのだ。噂話のネタにされる可能性はあったが、俺はお袋を通して話をするほうが確実だと考えた。
「へぇ~ さつきちゃんがねぇ・・・?」
「かあちゃん、さっちゃんのことを噂のネタにするのはやめてあげてよね。」
「アンタは親を何だと思ってるんだい? でも、なんかかわいらしいじゃないか? いいよ、健ちゃんに頼んでみるよ。」
その日の夜に、お袋から健太からOKをもらったと伝えられた。
「健ちゃん、アンタとじっくり話したいって言ってたよ。なんでも都電の話だって・・・」
そう言えば、そんなこともあったっけな・・・ 確かに、もともとの俺が健太と一緒に遊ぶようになったのは、小5のこの時期で、きっかけは都電だった。俺が60才になった時点でも、東京には1路線だが路面電車が存在していたが、もとは41路線まであったのだ。(同じ時に存在していたのは最大39路線だったが)だが、俺が小3になった頃に段階的廃止が決定されていた。今の俺はもうすぐ11才になろうかというところだが、この時点でおおむね半数近くが廃線となっていて、ここから4年後に2路線を残してすべて廃止されることになるのだ。ちなみに、その2路線が統合され「荒川線」(さくらトラム)となるのだが、当時はそんな計画はまだなく、全線廃止が決定事項だった。
健太が都電好きだということをもう少し早く知っていたら、一緒に廃止されていた路線を乗り継ぐ、なんてこともできていたかもしれないが、俺一人だけで(当時の)渋谷や新宿などに行くことなど、到底許される状況ではなかったので仕方がない。
俺はインターネットもない小学生時代に、独自に都電の全路線を調べていた。親父の持っていた古い地図に掲載されていた路線図などを頼りに、41路線中40路線まではトレースすることができてはいたが、どこをどう調べても「26系統」だけが謎だった。健太は、俺がそんなことを調べていたことをお袋を通して聞き、興味を持ったようだ。同じようにいろいろ調べて、「14系統」と「26系統」がわからない、と言っていたらしい。
もともとの俺も、健太が俺と同じことを調べていたと聞いて、嬉しかったことを覚えている。
次の朝、いつもの待ち合わせ場所に行くと、健太が妹の弥生ちゃんと一緒にそこに来ていた。
「雅哉、お母さんから聞いたよ。14番のこと知ってるって?」
開口一番、いきなりそれかよ。だが、このことが幸いして、この兄妹が一緒に登校するようになったのだから、今は素直に感謝だ。
「14番は5、6年前に、地下鉄ができるんで廃止されたらしいよ。新宿発荻窪行だね。」
「新宿は11番から13番の3つだけじゃなかったんだ・・・」
「14番は国電のガードをくぐった反対側から出ていたし、他の3つとはつながってなかったからね。錦糸町の16番と同じだよ。」
なんともマニアックな話をしていたと自分でも思うよ。健太の妹の弥生ちゃんは全然気にすることなく、さつきと話していたが、こうなると由美乃が話に取り残される形になってしまう。
「まー兄、話が見えない・・・」
うーん・・・ 健太がいないと弥生ちゃんも来ないから、由美乃と一緒に登校できなくなりそうだし、健太との話は由美乃にはわからないのは当然だし・・・ どうしたもんかな?
「写真、撮りに行かないか?」
俺が健太と由美乃の間で逡巡しているのを察したのか、健太が突然、そんなことを言い出した。
「えー、なに、なにっ!? 何の写真? 健太君、私も行きたいっ!」
そう言えば、そういう話もあったな。もともとの俺は、健太と2人で都電の車庫をいくつか見学に行っていて、写真撮影もしていた。なぜか撮影した写真は1枚も残っていなかったのだが、どこにいってしまったんだろうか?
「さっちゃんが一緒に行くなら、私も行く。」
なんか、ダブルデートっぽくなってきた。だが、小5男子と小2女子の組み合わせが2組というのでは難がありそうだ。渋谷や新宿というわけにはいかないだろうな。
「なんか盛り上がってるけど、ウチのこと忘れてない?」
さっきまで、さつきと話していた弥生ちゃんが膨れっ面をしている。そうだよな・・・ ダブルデート+1という構図になってしまうが、それも致し方あるまい。
「じゃ、5人で行こうよ。」
だが、それぞれが帰宅後、親に次の日曜日に遊びに行きたいと話をしたところ、どこの家でも親の許可が得られなかったらしい。そりゃそうか。もともとの俺達は小学生とは言え男2人だけだったから許可されたのだろうが、今回は2年生の女の子が3人いるから、その点を心配されたんだと思う。さて、どうしたもんかな?
健太と共通の趣味があったことで、由美乃との登校を継続することはできたものの、女の子たちにはマニアック過ぎてついて行けません。それでも、都電を撮影しに行こうという健太の提案に女の子たちが乗り気になったので、良いかなと思いましたが、さすがに許可されなかったようです。
なら、ここはあの人の出番かな・・・
ちなみに、今回の話で言う「次の日曜」は雅哉の誕生日ですが、誰もまだ気づいていません。




