謎の声
またしても更新が遅くなってしまいました。ごめんなさい。<(_ _)>
雪姉に買い物に付き合わされた翌朝、俺はいつものように文也の家の前にいた。文也自体は父親の送迎で早々と出かけた後だが、他の皆との待ち合わせ場所は以前からこの場所になっていた。文也の家の工場に出勤する人達がいるので、俺達の内の誰かが一人でいたとしても、安全度が高いということもあったからだ。
「雅哉・・・ 聞いたぞ、この裏切り者!」
栄治が家を飛び出してきたかと思ったら、いきなり俺の腹にグーパンチをねじ込んできた。こうなるんじゃないかと思い、ある程度は身構えていたのでなんとか吐かずには済んだが、それなりのダメージはもらってしまった。
「い・・・いきなり何すんだよ、栄治!」
「お前こそ、雪姉に何したんだよっ!?」
うーん・・・ 雪姉を脅かしてやろうと、キス(するふり)をしようとしたことを言ってるのか? あの時は周りに誰もいなかったよな? 物陰から栄治が見ていた、なんてこともなかったみたいだったのだが・・・
「何のことだよ?」
「おばさんに聞いたぞ? お前、雪年に頭突き喰らって気絶させられたって。雪姉が理由もなくそんなことする訳がないじゃんかっ!? 絶対、お前がなんかしたに決まってらっ!!」
お袋にも困ったものだ。噂話をするのはいいが、息子をネタにするのはやめて欲しい。
「ひどい濡れ衣だな・・・ あれはただの事故だよ。だいたい俺が原因なら、あの後、雪姉が俺と出かけるわけないだろ?」
そう言うと、今度は頭をパーではたかれた。
「それはそれでムカつくっ!」
「だいたい、買い物の荷物持ちしかしてないし、俺には何のメリットもなかったんだぜ。それではたかれるって、ひどくない?」
「あら、まーくんに何のメリットもなかったって? いいことがなかったなんて言わせないわよ?」
俺と栄治の話に、いつの間にか当の雪姉が入ってきた。
「いいことって・・・」
「あら、アタシの膝枕で寝てたわよね?」
「ま・・・雅哉の女ったらし! てめーなんか豆腐の角に頭ぶつけて死にやがれっ!」
雪姉の前では、俺をどついたりはできないみたいで、栄治はその場から走り去ってしまった。
「あら、栄治君、行っちゃった・・・」
「まー兄、雪姉の膝枕って、本当?」
いつの間にか、由美乃が傍にいた。
「あっ・・・ 由美ちゃん、あれは事故でね。俺が気を失っちゃったから、雪姉が介抱してくれただけなんだよ?」
「ふーん・・・ でも、まーくん、アタシの胸、じろじろ見てたじゃない?」
「まー兄のスケベ! もう知らないっ!」
「そ、そんな・・・ 由美ちゃん・・・」
「あらあら、朝っぱらから修羅場ね。」
「これもシュラバって言うの?」
初美とさつきも、毎回ブレないなぁ・・・って、それどころじゃない。いったいどうしてくれるんだ?
「はいはい、雪ねーちゃんは中学校なんだから、さっさと行った方がいいわよ? まーくん、私たちも行くわよ。」
珍しく最後にやってきた京子が間に割って入り、雪姉を追い出すように二手に分かれたので、一旦その場は落ち着いたが、通学路を歩いている間、誰も何も話そうとしなかった。あの話し好きのさつきでさえ、雰囲気に飲まれたのか、上目づかいで様子を窺っていただけだった。
「あの・・・ 京ちゃん?」
こういう時に口火を切るのはいつも京子だったので、俺は京子に声をかけてみたのだが、何か俺を見る京子の視線が痛い。これが漫画なら、瞳に炎が描写されるのかもしれない。
「まーくん、今日は一緒に帰りましょうね。その後、ゆっくりお話ししましょう・・・」
京子の顔が怖い。後ろで由美乃もこちらを睨みつつ頷いている。由美乃も一緒に来るのね? まあ、それなら俺は嬉しいけど・・・
「まーくん、何ニヤけてるのよ?」
「まー兄、私達怒ってるんだからね!? 笑って誤魔化そうとしちゃダメだよ!」
君達、いつの間に徒党を組んだの? 由美乃さん、俺の味方じゃなかったの?
「これは下校してからが、これまで以上の修羅場になりそうね。私も参加していいかしら?」
「でも、はっちゃんって、まーくんのこと京ちゃんほど好きじゃないでしょ?」
「いいのよ、面白そうだし。」
傍らで初美とさつきが余計なことを言ってるが、余計にややこしくなりそうだから勘弁して欲しい。
* *
その日の下校時、俺はこっそり一人で帰ろうとしたが、京子が待ち伏せていた。もちろん由美乃も一緒だ。
「あのなぁ・・・ 雪姉のことは京ちゃんの誤解だよ?」
京子が常々口にしてはいるが、本当に婚約しているわけじゃないし、そもそも俺は京子よりも由美乃の方が好きなんだから、雪姉の件で京子に言い訳をする必要などないのだ。とは言え、ヘタに自分の気持ちを吐露してしまうと、由美乃との未来が確定したと判定されてしまう可能性がある。そうなるとまた記憶を失った状態で60才に戻されてしまう。それだけは何としても避けたい。
「俺は、皆のことが好きだから。雪姉だけが特別ってわけじゃないんだよ?」
我ながら、プレイボーイ的発言だとは思うよ。京子は「京ちゃんだけが特別だよ。」と言わせたいんだろうが、嘘でもそんなことを由美乃の前では言えない。
「まー兄、そういうのを八方美人っていうんだよ?」
由美乃さん? なんか今日は、俺への風当たりが強くないですか?
「それじゃ、私とも付き合ってくれる?」
面白そうだと一緒についてきた初美がそんなことを言い出した。もともとの俺は大学時代に少しだけ初美と付き合ったことがあったので、そう言われてしまうと心が少し揺れそうだ・・・
「はっちゃん、ダメだよ。まー兄は私のだから。」
由美乃・・・ その言葉を俺は待ってた・・・って、そんなん、女の子の方から言わせちゃダメだよな・・・ だが、確定させるような発言は・・・
「いやー・・・ 雅哉くん、今日もモテモテだね、このー・・・」
どこから聞きつけてきたのか、いつの間にか的場さんがこの場に来ていて絡んできた。アンタ、仕事中じゃなかったのかよっ!?
「的場さん、俺の気持ちを知ってる癖に、よくそんなこと言いますね?」
「まーくんの気持ちって?」
京子が的場さんに対する俺の言葉に突っ込んできた。
「ん・・・ まー兄は私とソウシソウアイっていうやつだよ?」
「なんでそんなこと言えるのよ?」
「まー兄は、私のお父さんの前で私が好きだって言った。」
「嘘よっ! どうしたらそんな話になるのよっ!?」
「うーん・・・ 僕は工場長との約束で、詳しいことは話せないけど、確かに雅哉君は工場長にそう話していたよなぁ・・・」
「何よ・・・ みんなで寄ってたかって、私のコンヤクシャを奪う気なの?」
「誰がコンヤクシャだって」といつもなら言うところなのだが、京子の目が潤んできているのに気付いた俺は、その言葉を飲み込んでしまった。
「由美ちゃんなんか・・・ 雪ねーちゃんも、みんないなくなっちゃえばいいんだわっ!」
そう言うと、京子はその場から逃げ去ってしまった・・・ この展開だと、今後、京子を通して由美乃と会うことができなくなりそうだが、そんな打算よりも、俺は、結果として京子を傷つけてしまったことを激しく後悔していた。
「あらあら・・・ この前よりも展開が早いわね・・・ でも、最大のライバルだと思っていた京子ちゃんが、こんなに早く消えてくれたのは好都合かしらね・・・」
突然、頭の中で聞いたことのない若い女性の声が聞こえた。
「誰だっ!?」
「あら、聞こえちゃった・・・? まあ、それは別にいいわ。いずれはわかることだしね。そうそう、安心していいわよ。今回のことで未来は確定しないから。まだ不安要素がいくつかあるからね・・・」
「未来が確定しない? 不安要素? お前は何を言ってるんだっ!? だいたいお前は・・・」
「まー兄、誰と話してるの?」
由美乃に声を掛けられて我に返った俺は、自分の周りを見たが、頭の中で聞いた声の主はこの場にはいなかった。
由美乃を好きだと声を大にして言いたい雅哉ですが、未来の確定により60才に戻されることを恐れて、口に出せずにいたため、ややこしいことになってしまいました。そこで聞こえた、謎の声・・・
京子以外の不安要素がなくなれば、その時点で60才に戻される、ということは確かなようですが、雅哉の葛藤はまだ続きそうです。




