雪姉
雪姉が絡んできます。
次の日から、文也は俺達とは一緒ではなく父親の送迎で登下校するようになった。由美乃から聞いた話では、部屋もそれぞれ父母の部屋で一緒ということになったそうなので、1回目と全く同じ状況になったわけだ。違うのは、事の顛末を知っている第三者・・・的場さんの存在だ。そして、ある程度のことは、的場さんから雪姉にも伝わっているようだ。さすがに文也がやっていたことを全部伝えられているわけではなく、兄妹喧嘩に俺が仲裁に入って万事解決した、というような話になっているらしい。どういうわけか、俺と由美乃が相思相愛になっていることは伏せられていたみたいだったが、あまり踏み込んだ話をすると、隠すべきことが隠せなくなって困るのだろうと、あまり深くは考えなかった。
「まーくんは、京ちゃんと仲良かったみたいだけど、最近は由美ちゃんとも仲いいね。このプレイボーイが!」
もともとの俺に対してもそうだったように、1回目の時は直接話す機会がそんなにはなかった雪姉が、今回はそんな調子でよく絡んでくる。そういう時には、決まって栄治が近くにいたりするので、その栄治からの風当たりも厳しくなってきた。文也がいない状況では、俺と栄治の2人だけで登校することになるのだが、何故か待ち合わせの時に雪姉が絡んできたりしたので、栄治が機嫌を損ねて、俺と冷戦状態になってしまった。そうなると、一緒に登校しなくなってしまったので、必然的に俺は京子に引っ張られて、女の子達と登校することになってしまった。もちろん由美乃も一緒なので、それは俺にとっては願ってもないことではあったが。
「京ちゃん、あんまりくっつくなよ。クラスの奴らに見られたら、また、なんだかんだ言われるんだからな。」
「何よ? 私とコンヤクしてること、バレたら嫌なわけ?」
「誰が誰とコンヤクしてるって?」
「京ちゃん、まー兄は私のだからね。京ちゃんにはあげないよ。」
「いつ、由美ちゃんのになったのよ!?」
1回目の時も、京子の俺へのアプローチに対して、由美乃が横入りするという状況はあったが、登校時にはさすがになかった。それ以前に、由美乃達と登校すること自体がなかったわけだが、この状況は間違いなく雪姉がもたらしたものだ。通学路でこうなってしまえば、学校で噂になるのは必然で、一緒に登校している女の子が他にもいる(初美とさつき)ことで、「プレイボーイ」やら「石油王」(誰が言ったか知らないが、アラブの石油商はハーレムを作っているというイメージらしい)など、不名誉(?)な称号を与えられてしまった。中には、女の子達が全員年下ということから「ロリ●ン」呼ばわりする輩も出てきた。小5にして「ロリ●ン」と言われるのは釈然とはしないが、言ってるだけで、俺にいじめだとかを仕掛けるような輩はいなかった。
「むかつくけど、雅哉って頭いいし、何か大人びてる感じがするから、みんな何もできないんだよな。」
英治はこういうが、俺に何かをしようとした連中に手を回してくれていたらしい。英治は昔から喧嘩は強かったから、なんだかんだで助けてくれていた。いい奴なんだが、どうしてもともとの俺は、英治と疎遠になってしまったんだろうか・・・?
* *
「まーくん、おねーさんと付き合いなさい。」
あれから4か月ぐらいが過ぎたが、栄治とはあいかわらず冷戦が続いていた。雪姉が登校の待ち合わせをしていた俺にいきなりこんなことを言ってきた。
「な・・・ 雪姉! いきなりどうしたのさ!?」
「いきなりも何も、まーくんはアタシと付き合わないといけないのよ。的場のおじさんから聞いてない?」
いや、何も聞いてないんですが・・・ と言うか、あの1件以来、的場さんは俺に競馬の話しかしてこない。ダービーを1点で的中させたことがビギナーズラックだったなどとは微塵も思っていなくて、未来から来たと信じているかのように、だ。だが、もともとの俺が競馬に興味を持ったのは20才を過ぎてからで、そこから過去のレースにも関心を持って調べたりはしたが、ダービーとか有馬記念ならまだしも、毎週やっているような普通のレースの結果など、知る由もなかった。的場さんには悪いが、正しい結果など伝えられるわけはない。今の時代でわかるとすれば、次は菊花賞・・・ タケシバオーが海外遠征で不在の中、3強の残り2頭のアサカオーとマーチスの一騎打ちとなると思われた中、アサカオーが勝ち、ダービーで文也の父が狙っていたダテホーライが2着に食い込んだレースだ。的場さんはマーチスを盲目的に追いかけていたらしいので、3着に敗れて文字通り馬券も破られてしまったわけだが・・・
「雅哉君の言ってたタニノハローモアが菊花賞で来なかったら、責任取ってもらうよ?」
確かそんなことを言ってたな・・・ 俺は、アサカオーとダテホーライだと言ってたはずなんだが、馬連がなく枠連しかない時代、ダテホーライとタニノハローモアがおなじ2枠に入っていたため、なぜか、俺がダービーで勝つと伝えたタニノハローモアを再度狙ったと思われてしまったようだ。
どちらにしても枠連は2-6で、俺の言ってたことが間違っていたわけではなかったのだが、タニノハローモアが6着に敗れたため、俺が責任を取ることになったらしい・・・ 理不尽な話だ。
「で、その責任を取るのが、雪姉と付き合うってことなの?」
「的場のおじさんとどういう約束してたかなんて、アタシは知らないわよ? ただ、まーくんが責任を取るから、としか聞いてないのよ。」
的場さん・・・ 俺の気持ちを知ってるくせに、そういうことを言ってくるのか?
ただ、雪姉の言う「付き合う」が、どうも1日だけ俺を買い物に付き合わせるということだったらしいので、ホッとしたような、そうでないような・・・
だが、それを栄治が聞いてしまったため、またしても拗ねられてしまった。
「雪姉!? 雅哉はロ●コンなんだから、年上の雪姉なんか興味ないって言ってるよ!」
うーん・・・ いくら雪姉が年上だとは言っても、2才しか違わないので、俺としては興味がないとは言い切れないものを感じてはいた。だが、栄治に代わってもらえるなら、変な誤解を与えずに済むから、その方がいいのだが・・・
「雪姉、そういうことなら、俺よりも栄治の方が向いていると思うよ?」
「ええ~・・・ まーくんはアタシと付き合うの嫌なの?」
そう言って、俺の右腕を自分の両手で抱え込んでくる。由美乃にはない感触、胸の膨らみが右腕に感じられる。これはちょっと、たまらないものがある。
「い、いや、雪姉がどうしてもって言うなら・・・」
「じゃ、決まりね。」
「く・・・ ま、雅哉なんか、大嫌いだ、このスケコマシヤロー!!!」
「栄治・・・」
「あらあら、栄治君、行っちゃったね?」
これはもうしばらく、栄治とは顔を合わせられないかも・・・
「まーくん、私というコンヤクシャがいながら、なんで雪ねーちゃんと浮気してるのよっ!」
浮気も何も、誰もコンヤクなんかしてないって・・・? だいたいこれは、雪姉が勝手にくっついてきているだけなんですが・・・
「まー兄、顔がスケベになってる・・・」
由美乃さん? 誤解です。胸を当てられたらこうなるのは男の性ですよ・・・
まあ、57才の由美乃を思い返すと、雪姉みたいにはどうもなれそうもないのは確かだとしても、そんなことで俺の気持ちが揺らぐはずはないのだよ・・・たぶん。
「修羅場ね。」
「こーいうのがシュラバっていうの?」
初美とさつきまで・・・ いったい、この状況、どうすればいいのやら・・・
未来を確定させたとみなされると、また一気に60才に戻され、その間の記憶を失ってしまうため、あえて由美乃以外の女の子にはっきりと由美乃が好きだと伝えないという選択をしたわけですが、もともとの雅哉とは接点がなく、1回目でも影響がなかった雪姉がやたらに絡んでくるので、ちょっと話が変な方向に動き始めてます。
ちなみに、私の実体験でも右隣に「ゆき姉ちゃん」はいましたが、あいさつ程度の付き合いしかありませんでした。




