不安
ちょっと間が空いてしまいました。すみません。m(_ _)m
今回は、文也の父が馬券を当てていたことから、話が急展開します。
翌朝、いつものように登校の待ち合わせで、英治と一緒に文也の家の前に行ったが、文也と由美乃の姿はなく、何故か的場さんがそこにいた。
「あれっ? なんで的場さんが?」
「やあ、雅哉君。実は君を待ってたのさ。」
「雅哉、この人と知り合いだったのか?」
英治はどうやら的場さんを知っているようだった。
「やあ、英治君、雅哉君が君の友達だったとは知らなかったよ。」
「いや、おじさん、こいつ雪姉のお隣さんだよ? 今まで知らなかったのか?」
雪姉の家は俺の家の右隣だった。左隣が栄治の家だが、栄治はいつも、自分が隣だったら良かったのにと俺に毒づいていたりする。そう、栄治は雪姉が好きなのだ。
英治は以前、表向きは勉強を教わると言いつつ、雪姉の家に入り浸っていたが、2つ上で今年から中学生になっていた雪姉が部活動で帰宅が遅くなったため、以前ほど頻繁には会えなくなっていたらしい。
的場さんは、雪姉の叔父にあたるそうだ。なら、隣に住んでいる俺と面識があってもよさそうなものだが、これまで的場さんのことはまるで知らなかった。ちなみに、雪姉の本名は千葉雪子、的場さんの妹の娘に当たるらしい。
「それで、俺を待っていたって? どうかされましたか?」
「うーん、そのもの言いといい、やっぱり小学生とは思えないんだよなぁ・・・」
「そんなわけないじゃないですか? 俺達、登校の時間なんで・・・」
「いや、雪ちゃんのお隣さんだったら、下校してからでも雅哉君の家に行くよ。」
「わかりました・・・ でも、的場さん、昨日のことだったら、俺の両親には黙っててくださいよ。親父が知ったら、おそらくぶん殴られますから。」
今朝の用件自体は、どうやらその話ではなく、俺の家の場所を確認したかっただけみたいだ。
「ああ、それから、文也君と由美ちゃんなら、今日は一緒に行けないみたいだよ。君達だけで先に行っててくれってさ。」
どうして・・・と、言いかけたが、なんか嫌な予感がして、言葉にできなかった。
* *
休み時間に文也や由美乃のクラスを見に行ったが、結局、この日は登校してこなかったようだ。2人して病欠? 由美乃とは昨日会っていたが、具合が悪そうな様子はなかった。何かあったと考えるのが自然だが、思い当たることは一つしかない。俺は下校の時間になると、自宅ではなく、文也の家に向かうことにしたが・・・
「やあ、雅哉君、やっぱりこっちに来たね。」
今日は工場の稼動日なので、鍵は掛かってはいなかったが、扉を開けると的場さんの姿があった。
「的場さん? もしかして、由美ちゃんのこと知ってる?」
的場さんは人差し指を口もとに当て、目配せをしてきた。
「何のことだい? 俺は今日、文也君達が学校を休んだから、君が真っ先にここに来ると思って、ここで待ってただけだよ?」
的場さんの真意は測りかねるが、文也の父が由美乃のことを誰かに話すとは思えない。もし的場さんが、それを知ってるというなら、この人は俺が思う以上に信頼できるということだろう。
「今朝も言った通り、俺は君に話があるのさ。ここじゃ何だから、君の家に行こうよ。」
「でも、文也達が・・・」
「まあ、学校を休むほどだから、心配になるのはわかるけど、大丈夫だよ。それは俺が保証するよ。」
やはり的場さんは事情を知っていると確信した。なら、ここで話すのはマズい。俺は的場さんを自宅に案内した。
俺の両親は財布作りの職人で、自宅の2階が仕事場になっている。その隣が大学受験を控えた兄の個室だ。俺は普段は1階の四畳半で過ごすことが多い。この部屋は食事の時に使うし、夜は親父の寝室を兼ねているから、日中の、夕食までの時間限定で俺1人の部屋になるわけだ。だから、学校が終わると京子が入り浸ったりしていたのだ。
「あれ、的場のおじさん、どうしてまーくんの家にいるの?」
雪姉が帰ってきていた。俺の家には小さいながら庭があり、そこを通らないと玄関に行けないのだが、雪姉の部屋からは庭が丸見えだそうだ。たまにここで京子達とおままごとをしていると、雪姉にニヤニヤされて、妙に恥ずかしかったことを覚えている。
「なに、ちょっとヤボ用だよ。後で行くからね。」
「うん、わかった。待ってるね。」
だけど、いくら自分の妹がいるからって、そうちょくちょく来たりするものかな? 雪姉は「千葉」姓だから、的場の家から嫁に出たということだろうから、余計にそう感じる。
「雅哉君はずいぶんとモテるみたいだけど、雪ちゃんはどうなのよ?」
いくら自宅の庭でも、立ち話もなんだから、とりあえず1階の四畳半に通した。
「どうと言われても・・・ 雪姉のことは嫌いじゃないけど、英治の好きな人だから、俺がどうこうしようなんて考えたこともありませんよ。」
「雪ちゃんが君のことを好きだったら?」
「・・・からかわないでくださいよ、そんなわけないじゃないですか?」
「うーん、つくづくからかいがいのない子だね? やっぱり小学生とは思えないんだけど?」
「また、その話ですか? そんなことを言うために、こんなところに来たわけじゃないんでしょ?」
俺は焦っていた。できるだけ小学生らしくない振る舞いはしないように注意していたつもりだったが、由美乃のことが気になって素の俺が出ていたようだ。
「わかった。じゃ、今から俺は君を小学生じゃなく、一人の人間として話をしよう。単刀直入に聞くが、君は文也君が由美ちゃんに何をしているか知ってるよね?」
やはり的場さんは一部始終を知っているようだ。なら、俺がここでとぼけても仕方がない。
「的場さん、このことが他の人に知られていちばんつらい思いをするのは由美ちゃんですよ。それは承知の上で話されてますよね。」
「それはわかってるつもりだ。」
「・・・すみません。だから、俺の家まで来られたんですものね。お察しの通りです。文也はわざわざ俺の目の前で・・・」
「雅哉君に見せつけていたわけだ?」
「俺には妹はいないから、文也の気持ちはわかりませんが、俺が由美ちゃんと仲良くしているのが気に入らなかったみたいで・・・」
「うん、思っていた通りだったよ。雅哉君は由美ちゃんのことが・・・」
「はい、俺は由美ちゃんが好きなんです。」
「うーん、だとしたら、工場長はとんだ思い違いをしてるわけだ。由美ちゃんが怒るのも当然だな。」
俺は文也が俺の目の前でしたことを、その翌日、文也の父に話をするつもりだったが、的場さんが競馬の話を持ちかけてきたため、話ができなかったことを話した。
「あちゃー・・・ じゃ、こんなに話がこじれたのは、俺のせいってことじゃない?」
「的場さん、おじさんの思い違いって・・・」
「怒らないで聞いてくれよ? 工場長は君が文也君を唆したと思っていたんだよ。」
「はい?」
最初から話をまとめると、昨日のレースで文也の父は1-7を1000円買っていて、結局5万近く儲けたらしい。俺が当たったことを文也の母にバラしたことで、買っていた馬券を調べられたそうだ。ちなみに、この時代、ラーメンが150円くらいで食べられたので、60才の俺の時代の貨幣価値の3~4倍と言えるから、そりゃ大騒ぎにもなるよね。それで、一家で外食しようという話になったらしいのだが・・・
「工場長が、俺が雅哉君に買った馬券を俺がもらったことを話に出して俺を誘ってきたから、それならきっかけとなった雅哉君も誘うべきだと言ったんだが・・・
「文也が嫌がったんですね。」
「そう。それに対して由美ちゃんが怒ったのさ。」
俺を巡って、兄妹が喧嘩を始めたわけだが、その中で由美乃が言い放った言葉が波紋を広げた。
「何よっ! いくら文兄が私にエッチなことしたって、私のまー兄への気持ちは変わらないんだからっ!」
つまり、由美乃自身が暴露したわけだ。幸い、的場さんがその場にいてくれたおかげで、内々でもみ消されるという最悪の状況は回避されたが、文也がそういうことをしたのは俺に唆されたからだと思われたらしい。
「それを由美ちゃんが怒って、部屋に立て籠もったわけだ。文也君の方は、お仕置きで押し入れに入れられたので、今日は2人とも学校に行ける状況じゃなかったんだよ。」
由美乃は昨晩から部屋に立て籠もったまま出てこようとせず、今でもそのままらしい。
「的場さん、俺、行かないと・・・」
「まあ焦らないでよ。まずは工場長の誤解を解くから、俺に任せてよ。」
しかし、1回目のタイムリープの時はいなかった的場さんが、2回目の今はキーマンになっている。俺と由美乃との関係はひとまず安泰かもしれないが、これだけ1回目と違うと、先のことはどうなってしまうのか、不安しかなかった。
1回目の時は出てこなかった的場さんのおかげで、由美乃のことはなんとかなりそうですが、これで未来が確定されたと判断されると、また記憶のない状態で60才に戻されてしまうことを心配しています。
どう行動すべきなのか、雅哉の葛藤は続きます。




