1 プロローグ
あの日の月はとてもきれいだった。
俺は病室の窓からその月を眺めていた。
あぁ死ぬ前にこんな綺麗なものが見れるだなんて俺は幸せ者だな。
いきなり病室の扉が開いた。
侵入者は無音でこちらへ近づいてくる。
侵入者は二人だった。
二人ともローブを着ていて部下らしき人物が鎌を持っていた。
「迎え、ですか?」
俺はそう尋ねた。
すると上司であろう人物が口を開く。
「死ぬのが怖いですか?」
女の声だった。とても冷たい女の声。
それに返答として俺は頷く。
「そうですか。正直でよろしい」
そう言うと女は指をパチンと鳴らした。
闇。
どこまでも続くであろう暗黒が景色を覆っていた。
女が口を開く。
「私の眷属神となることを誓いますか」
俺の意思を無視し勝手に口が動いた。
「はい。誓います」
「よろしい。では、あなたには私の後継者として死神になってもらいます。ミア、鎌を」
ミアと呼ばれた人が俺の背丈と同じぐらいの鎌を手渡した。
「知識はすこしはあるでしょう。これは魂を狩るための道具です。死者からでてきた魂をサクッとやって狩ります。逆に生き物には武器としては使えなくてせいぜい防御としてしか機能しません」
その鎌を握ると手のなかに入っていった。
「その鎌はあなたの意思で出し入れすることができます。そのほうが便利でしょう」
たしかに。
それは同感かも。
「もうひとつあなたにプレゼントがあります」
手の上に蜘蛛が現れる。
「あなたの使い魔です。私だと思って色々聞いてください。会話ができるのでいい話し相手になってくれるでしょう」
俺は蜘蛛をまじまじと見つめる。
チョッと可愛いかも。
「あとはそれに聞いてください。私からの話は終わりです。またいつか会いましょう」
そう言うと俺の意識は段々と遠のいていった。
ん?
なんだ?
ベッドの上じゃないな…
「痛っ」
俺は首に痛みを感じ飛び起きた。
「あ、起きましたか」
その声がしたほうを見る。
そこにいたのはメイド服を着た少女だった。
「誰?」
「誰とはなんですか。私ですよ。使い魔の蜘蛛です」
「ここは?」
「森のなかです。もうすこしで料理ができますからね」
「なぜ森のなか?もっとマシなところなかったのか」
「魔法を学んでもらうためですよ。使えないと苦労しますからね」
「魔法なんてものがあるのか」
「そりゃあありますよ」
「あれ?ここは日本じゃないのか」
「なにを言っているんです?二ホン?ああ、あなたのもといた世界のことですか」
「もといた世界?」
「ええ、ご主人様がそちらの世界から連れてきたのですよ」
俺はその時、すべてを理解した。
ああ、俺は異世界に来てしまったのだと。