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箱庭悪戯  作者: ミーケん
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episode0 女神との邂逅、そして異世界へ

「私は女神です」


 毎日、無為に時間を消費し、親のすねをかじり、部屋に引きこもってパソコンの画面に顔を照らされることを繰り返してきた僕の目の前に広がる光景は女神と名乗る髪の長い小さな女の子ただ1人だった。

 周囲は光の調整を失敗した写真のように真っ白で、僕が認識できるのはただ、女の子が偉そうに浮いているようにしている様子しかなく、僕の理解は光において行かれる音のようであった。つまり、理解をする前に状況を確認することに従事する他なくなっていた。


「ごきげんよう?大丈夫かしら?意識はしっかりしてる?」


 女神を名乗る女の子が姿とは似合わぬ妙に色っぽい口調で僕に語りかける。そして、ここに来て僕は理解する。女神、光、どことなくあふれる神聖な雰囲気。そうか、つまりここは天国なんだ。僕個人としては天国や、地獄なんて空想の産物であると思っているのだが、しかしこんな風に異界じみたところに僕がいるのなら信じるほかない。

 いや、まて。まだ夢である可能性は残っているのではないか?ここが夢であり、僕がここにいるのはただ単に気の迷いで見てしまった夢であるからだ。しかし、そうであったとしても僕はそれを確かめる手段がない。なぜかと言えば僕の体が動かないためである。

 今も必死こいて手を動かそうと力を入れているのだが、全く動く気配がない。イメージ的にはストッパーを想像してもらいたい。力を入れて動かそうとすると、その動き自体を硬い何かに止められるのだ。正直言ってこれ以上力を入れても無駄なのだろうことは自分でもわかっているのだが、入れずにはいられないのだ。


「冷静にならないとだめよ?あなたの人生がどれだけ無駄だったのかは知っているけど、だからっていまその人生分のがんばりを消費する必要はないのよ?」


 彼女は慈悲深く言う。その声は機械じみた、どこかマニュアルらしい声色で、僕に恐怖を与える。それは以前感じたことのある不思議な感覚だった。

 しかし、それにしても、僕はなぜこんなところにいるのだろうか。


「ごめんなさいね。わたしが仕方なく呼び寄せたのよ。もしあなたがこれを夢だと思っているのであればそれでもかまわないわ。そうね、明晰夢として捉えてくれてもいいわ」


 なるほど、そうであれば考えやすい。明晰夢となれば自分の意識が通常の夢と違ってはっきりしているのもうなずける。しかも彼女は僕の思考がわかるようだ。ならば、どうするべきか?口もなにもすべてが動かせないのであれば、動かせる思考でもって会話を果たせばいいのだ。全くもって簡単な会話である。


「そうね。それじゃあ、本題に移ってもいいかしら?」


 本題?まあ、よくわからないが、とりあえず郷に入っては郷に従えである。僕は仕方なくYESの意思表示として、はいと考える。


「それで、あなたがここに呼ばれたのはわたしが呼んだからなの話した通り。その上であなたが知りたいのは言わずもがなその理由でしょう?」


 全くその通りである。


「理由はほら、よくあるでしょ?くじを当ててて異世界転生だったり、交通事故で死んだら異世界転生だったりね?それとおなじよ。わたしはあなたを適当に選んでそっちの世界で人気の異世界転生をさせてあげようってことよ」


 正直言って余計なお世話だった。僕個人的に異世界転生が女神曰くの人気であるということを知らない。と言うか、最近の異世界転生系のアニメが人気であるという情報を聞かない。

 僕の貴重な友人であるアニメオタクがいるのだが、彼曰く異世界転生は使い古されたオワコンである。


「まったく、あなたは失礼だね。わたしがせっかく異世界に転生させてあげようと思っているのに。そんなことを言うのならわたしはあなたを殺してあげてもいいんだよ?」


 なんて物騒なことを言う女神なのだろう。殺す?女神だからって言ってはいけないこともあるだろうに。


「だって、わたしはあなたを助けてあげているのよ?わたしが会話を切り上げたりでもしたらあなたは死ぬことになるわ。ほら、そんなアニメオタクさんがお友達にいるならわかるでしょ?」


 死んだから僕はここにいると、そういうことか。


「正確に言うなら死ぬ直前でここに連れてきたのよ」


 よし、じゃあ、その話を事実としよう。それで僕が助かるにはどうすればいいんだ?


「話が早くて助かるわ。死にたくなければあなたはわたしが女神をしている世界に転生してほしいの」


 へえ、それはまた、簡単に言ってくれますね。その転生にあたってなにか追加能力とかは付与されるのか?アニメではそういうのが定番であり、王道だが。


「ないわよ?わたしの世界は魔法が発達してたり人間とは違う生き物が言葉を話せたりするけど、あなたに魔法の力はないわ。そもそもの話、あなたに魔法なんか与えたところで面白くないもの。」


 なにもないのか。それはなかなか厳しい世界だ。もしかしたら僕のいた世界よりも厳しいんじゃなかろうか。


「そうね、たしかにそうかもしれないわ。でもそのあたりは自分でなんとかしてちょうだい。わたしの子供の1人が一応サポートには付くように手配してるわ」


 それは心強い。何もできずにそのあたりで死ぬなんてことにはならなさそうだ。

 しかし、1つ不安が残る。もう、この際、なんで僕なのかとか、そんなどうでもいいことは置いておく。それよりも気になっているのは、目の前で僕の質問に答える彼女の発言だ。彼女は執拗に『異世界転生』や『転生』と言っている。これはつまるところ『転移』ではないと暗に言っているのではないか。

 思考を呼んでいる(らしい)彼女の表情が若干の驚きを見せた。


「おお、よくわかったね。その通り、あなたはこれから転生するわ。つまり、一から人生を私の世界でやりなおしてもらうわ」


 それはなかなかハードな人生だな。


「そうね。でも大丈夫よ。多分あなたは頑張れると思うわ」


 なんだその全く頑張る気が起きない応援は。


「そんなことを言わないでほしいわ。わたしだって必死なんだから。――――――あ。ごめんなさい。もうそろそろ時間みたいだわ」


 なんだって、これが夢であるにしろないにしろ情報はたくさんほしいのだが。


「それは転生してからわたしの子供の1人に聞いてね」


 なっ、そんな適当な―――――――。


 その瞬間周囲にあった光が僕自身ものみこんで意識が呑まれていく。完全に光に包まれた時、ここという名の空間は消失した。


 ああ、いつになったら目が覚めるのだろう....。


 意識を失う直前、僕に横切ったのはそんなくだらない思いだった。 

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