目つきの悪い俺と幼馴染のバレンタイン
『ういーす、お邪魔しやすぜ~』
「邪魔するんやったら帰って~」
『ほなそうさせて貰いますわ~』
「……」
「…………」
「………………」
「【いや、ホンマに帰んなや】」
『【やったら追っかけてきてーや。電話を使うとは情けないぞ現代っ子勇者フシフミ・フシミ】』
「【はいはいそれは大変申し訳ございませんでした女神ナリ・イナリ様。それはそうとして、はよせぇへんとお菓子全部食い尽くしたんぞ】
『【それは許されざる蛮行! 首を洗って待っていろ勇者め! フハハハハハ!!】』
「……これじゃ女神やなくて、魔王やんけ全く……」
『じゃあ改めましてお邪魔しまーっす』
「へいよー」
『うぉい。ちょいと伏見臥史君や』
「なんでっか」
『そこのゲーミングチェアはわっちの特等席でありんすえ。すぐに退いてクレメンスか』
「嫌どす。そもそもこの椅子どころかここは俺の家どす。どこを使おうとも俺の自由だと思うどすよ稲荷奈莉さんよ」
『死ねどす』
「ちょ、お前ーーーっ!! 百歩譲って辛辣な言葉を言うのはええけど、目隠しはすなーっ!! ってああっ……! 死んだやんけーーーっ‼ あと一歩の所やったのに‼ 」
『業突く張りは死ぬしかないんや。ウチの特等席を独占した臥史が全部悪い。独占禁止法に抵触したからなぁ』
「使い方めっちゃ間違っとんぞお前。そんなんで再来週の期末テスト大丈夫かホンマに」
『大丈夫や、問題ない』
「いや問題ありまくりやろ。やからこうして俺ん家にわざわざ来て、勉強会する羽目になっとるんやろ」
『まぁなぁ。ま、さっき死ねたのは勉強に気持ち切り替えられる良いタイミングだったってことで許してや』
「こいついけしゃあしゃあと……。まぁえぇわ。一理あるしな。じゃあ早速やるとしますか」
『と、その前にちょっとええか』
「なんや?」
『今日が何の日か、知らへん訳じゃないやろ?』
「そりゃあ……そうやけど。別に興味ないわ」
『お? なんや? 何をそんなにしらこい顔してんねん?』
「るっさいなぁ! 興味ない言うてんねん! はよ勉強すんぞ!」
『いーや、答えるまでウチはやらへんぞ~。ほら、言うてみ? ん?』
「このクソアマァ……! 分かっとるわんなモン! ”バレンタイン”や今日は‼」
『おーおーよく答えられまちたねぇ。ではそのご褒美として──ほら、10年連続のチョコレートや! 泣いて喜びやー‼』
「いや喜べへんわ。結局今年も奈莉からの義理チョコかいな。しかも、コンビニで売ってるやっすい板チョコ……」
『グチグチ文句言うなや女々しいなぁ。世の中にはチョコを貰えんくて阿鼻叫喚する男子諸君もおるっちゅーのに』
「それが俺なんやけど? あーあー今年こそは奈莉以外からって期待しててんけどなぁ……。そもそもバレンタインが日曜日っていうのがもう詰みゲーやったな。まぁまだ月曜日が残っとるから希望はあるにはあるんやけども……」
『いや無理やろ~。今年も臥史はクラスの優男の二枚目達がチョコを貰いまくるのを恨めしそうに見つめて終わりや。予言しといたげるわ』
「不吉なこと言うなや! ……にしても、何で俺ってこんなにチョコ貰えへんねん……おかしいやろこの世の中」
『お? なんやなんやいつにも増して不満げやな。お姉さんが話聞いたげるで?』
「俺の方が誕生日的に寧ろ年上やろ。まぁええわ。こんな愚痴漏らせんのも幼馴染のお前ぐらいやし。いや、原因は分かってんねん。俺ってやっぱ怖がられてるんやなぁって」
『そりゃあ目つき悪すぎるからなぁ臥史。外を歩けばヤーさんだって道空けるわ』
「何のフォローにもなっとらんわそれ。そりゃ目つきは悪いけど、顔は自分で言うのもなんやけどそんなに悪ないはずなんやけどな」
『うわぁ……』
「ちょっ、『うわぁ……』て。マジな反応すんなや、せめて茶化せや」
『いや、だって否定も肯定もし辛いし。確かに臥史は顔だけ見たらクラスの優男イケメン君達にも負けてへんけど、でもやっぱ目つきがなぁ……シンプルにヤンキーやもん』
「……ちぇっ。中学時代のツケってもんやなこりゃあ。あん時はめっちゃ喧嘩したし、誰にも負けたるかこなくそって感じやったし」
『臥史……』
「高校に入ってからは将来のことも考えて真面目に勉強して、こうして幼馴染のお前ともなんやかんやで楽しい生活送れとるしそれなりに満足はしてる。やけど、俺にこびりついたこの目つきの悪さとかはどうにもならへんのかもしれんなぁ……」
『……ウチ、知ってるかもしれへん』
「ん? 何をや?」
『臥史の目つきの悪さ、治す方法』
「ホンマに? どんな方法や!?」
『整理すると、臥史は飢え過ぎや』
「上杉……謙信か?」
『いやちゃう、今は勉強から離れろ。腹減ってるって方の飢え過ぎや。で、臥史の目つきの悪さやけど、あんたチョコ欲しがり過ぎやねん。チョコっていうか、恋人やな』
「……あぁ。言われてみればそうかもしれんわ。ってか心当たりしかないわ」
『せやろ? 女の子は敏感やねんでぇ? 男が”そういう気”持っとったら、すぐに勘付くやこっちは。それで避けるんや。クラスでモテてるイケメン共見てみ? あいつら全然がっついてへんやろ?』
「確かに」
『あいつらは基本女に困らんからな、余裕を持っとるんや。で、女は基本的に余裕ある男とかを好きになりやすい。こっちのことを気にかけてくれたり優しくしてくれたりするからなぁ』
「なるほど、お前の言うてることどっかの恋愛指南の本とかで読んだような気がするわ。そん時はんなアホな思て真に受けんかったけど……ホンマなんやな」
『そりゃあな、こうして現実に起きとる訳やし。つまり、今のままやったら臥史はずっと余裕を持てへん。嫉妬と焦りで目つきが悪いまま、鬼の形相を浮かべたままで一生チョコを貰うことも恋人を作ることも出来ひんわ』
「絶望やんけ……ホンマに詰みゲーやな。俺の人生オワタな……」
『諦めんのは早いで。さっきも言うたやろ。……一つだけあるんや。臥史の目つきの悪さ治す方法が』
「あ、そやったな。で、その方法っていうのは?」
『それは……その……』
「何なんや? 勿体ぶらずにはよ言うてや?」
『えっと……うぅ……あーもー! 分かったわ! ちょっと待ってて!』
「お、おう……?」
『……ほらっ、これっ‼』
「は? なんやこれ……って、チョコか?」
『そうや!』
「いやでも、何やこのやけに丁寧なラッピング? 義理じゃなくてまるで本命みたいな……」
『まるで、ちゃう。本命チョコなんや!』
「まさか俺へのモンか!? えぇっ!? 誰からの本命チョコなん!?」
『ウチやっ‼』
「……は?」
『ウチが……作ったんや! そのチョコ! 臥史に渡そう思て、作ったんや‼』
「い、いや……でも……えっ? そ、それやったら……奈莉は……?」
『……そうや。ウチは……臥史のことが……好きなんや……』
「……」
『……』
「ほ……ホンマか……?」
『ホンマや……』
「な……え? な、何でなんや……?」
『……中学時代、臥史が喧嘩しまくっとったんは、イジメられてたウチを助けるためやったやろ? イジメッ子の奴ら全員殴らんと気が済まん言うて、先生にどんだけ止められても喧嘩続けたやろ……?』
「お、おう……」
『臥史があの時助けてくれへんかったら、ウチはここにはおらんかった。どころか、生きてすらおらんかったかもしれへん。あの時、ウチを助けてくれて……ホンマにありがとうな。どんな言葉にも、どんな人にも負けずに、自分を貫き続けた臥史は……世界一カッコいいです。そんな臥史にウチは惚れました……だからその……えっと……大好きです。ウチと付き合って下さい』
「……」
『……』
「……」
『……』
「──あぁ。よろしく頼むわ、奈莉。チョコ、ありがとうな」