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第9話 じぇんが手に入るっ

 長の家から出て、教えられた場所へと向かう。


 向かった先には、教えられた通り剣と盾と杖がモチーフの看板が掲げられたこじんまりとした建物があった。

 そこが”冒険者”達が利用する建物、”冒険者ギルド”というらしいが、そこで先ほどのアレを売ればいいとのことだ。


 早急に金銭が欲しい俺は、カウンターがあったのでそこに暇そうにしていた受付と思わしき女性にさっきの物を見せて、フェンリルの毛とドラゴンの鱗だと伝えた。


 結果、


「―――」


 目の前の女性が固まってしまった。



※※※※※※※※※※



「あのー…」


「はっ、す、すみませんっ!」


 復活した受付の獣耳の女性は慌てて頭を下げて、俺がカウンターに置いた物を改めて見てくれた。


「えっと、その…ちょっと待っててくださいっ!」


 女性は慌ててカウンターの奥に引っ込んでしまった。


 取り残され手持ち無沙汰になってしまったので、一度出したものをポケットにしまい込み、改めて今入ってきた冒険者ギルドの中を見てみる。

 木造ではあるが、大きさ的には小さな町の小さな郵便局を思い出す佇まいだ。

 カウンターも1つしかないが、そもそも他に冒険者と呼ばれるであろう人が見当たらない。

 たぶん小さな村だからやってくる人も少なく、いたとしても今はまだ昼。若干陽が陰りつつあるものの、まだまだ日差しが強いことから外に出て仕事をしているかもしれない。

 カウンターの脇には、掲示板だろうか。ボードが1つ設置してあるが、そこには何も張られていない。お知らせみたいなものでも張り出すのか?


 と、中を見渡していたら、奥に消えていった受付の女性が戻ってきた。

 その手には板のようなものが抱えられているが、あれはなんだろうか?


「先ほどは取り乱してしまって申し訳ありません。素材の持ち込み、しかもそれがトンデモないものだと言われ、固まってしまいました…」


「いえ、こちらとしては問題ないのですが…それはなんでしょうか?」


 狭いカウンターに置かれたそれは、カウンターを占領してしまった。

 ぱっと見は普通の黒い木の板にしか見えない。


「これは鑑定板というものでして、ここに置かれた物の名称を確認する魔道具です。フェンリルの毛やドラゴンの鱗を見たことないのと、私は鑑定の魔術を使えないので、それが本物かどうか判断できませんので…」


 なんとも面白い物が出てきたものだ。

 大きさは1メートル四方くらいで暑さも1、2センチといったところか。何も言われなければただの板だ。

 にしても、鑑定なんて魔術があればどういった物かわかるのか。


「では、こちらに先ほどの物を置いてください。あ、両方置いてもらって構いませんよ。」


 セッティングが終わったようなので、早速再度フェンリルの毛とドラゴンの鱗を置いてみる。

 どんな感じで鑑定されるのか気になるので板の上の物を見ていると、


――――


 ドラゴンの鱗


――――


 フェンリルの毛


――――


 それぞれの素材の上に名前が表示された。

 これ、どうやって見えてるんだろうな。

 魔法やらがある世界だから何でもありだとは思うが、空中に文字が浮かび上がった感じだ。


 って、これ俺読めてるけど受付の人も読めてるのか?


「ほ、本物のようですね…」


 ちゃんと読めているようだ。

 異邦人にも読めてこっちの人にも読めるとは、なんとも不思議な文字だ。


「でも、困りましたねぇ…」


「どうかしましたか?」


 本物とわかってこちらは問題がない、というか満足なわけだが。


「これらの素材を持ち込んでもらったのはいいのですが、全部を買い取るような資金がここにはないのです」


 しゅんと落ち込んで、頭の獣耳も垂れ下がってしまった受付の女性。

 え、何それ。怖いんですが…


「どれくらいの値段になるのでしょうか?」


 板と共に持ってきた、見た目古い紙の束を捲っている。たぶん買取表のようなもので、そこにこれらの素材の値段が書かれているのだろう。


「こちらのフェンリルの毛一房ですが、こちらが金貨10枚になります。そしてドラゴンの鱗ですが、こちらが1個で金貨20枚になります」


 ここに持ち込むに当たって、長からこちらの貨幣について教えてもらっていた。

 鉄貨が一番下の硬貨で、その次が銅貨、銀貨、金貨、白金貨となるらしい。

 それぞれのレートは、


 鉄貨100枚=銅貨1枚

 銅貨100枚=銀貨1枚

 銀貨100枚=金貨1枚

 金貨100枚=白金貨1枚


 ということだ。

 鉄貨1枚=1円と考えればわかりやすい。

 わかりやすいので、今言われた金額を円に換算すると…


「…1000万と2000万かよ」


 そら、こんな小さいところにはないよなぁ…

 というか、ただ拾っただけで4、5年分の年収に匹敵するお金が転がり込みそうだ。


 幸い、今の呟きは向こうに聞こえてきていなかったようで、受付の女性は書類とにらめっこしている。


「それなら、買い取りができる数量としてはどれくらいがいいでしょうか?ドラゴンの鱗は難しいですが、フェンリルの毛のほうを一房ではなく、もっと少なくしたら買い取りできないでしょうか?」


 こっちとしては、これを換金できるようならさっさとお金にしてしまいたい。


「それでしたら…はい、可能です。毛のほうを金貨1枚にまで抑えてもらえると、こちらで買い取りができます」


 となると、今出している10分の1くらいだが、それって全然ないようなもんでは?

 たぶん10本くらいにしかならないぞ。


「私としては問題ないのですが、いいのですか?」


「はい、フェンリルの毛がこれだけでもあれば、それを防具に織り交ぜることで飛躍的に効果が上昇するのです。他にも様々な使い方がありますが、どれも少量でも問題はありませんよ」


 そういう使い方があるのか。たったこれだけで問題ないか不安になったが、どうやら杞憂だったようだ。

 なら、とっとと換金だ。


「では、それで買い取りお願いします」


「わかりました、それでは用意しますね。ただ、金貨1枚と申しましたが銀貨100枚をお渡しする形になると思いますが、それでもよろしいでしょうか?」


「それで構いません」


 ここで金貨だけもらっても、それで買い物ってできる気がしないわな。

 それなら銀貨でもらっていたほうが、小さい買い物も幾分かはしやすいだろう。


 苦労することなくお金を手に入れることが出来そうだが、それはまあ突然この世界にやってきたってことで許してもらいたい。



※※※※※※※※※※



 奥に行っていた受付の女性が布袋を持って戻って来たが、あれが銀貨100枚分だろうか。


「こちらに銀貨100枚が入っています。ご確認ください」


 随分と重そうな音を立ててカウンターに布袋が置かれた。

 これを数えるのか…


「わかりました。ちょっと時間がかかってしまうかもしれませんが、ここで数えてもいいですか?」


「大丈夫ですよ。ここはあくまで冒険者ギルドの支所的なところで、あまり使われることはないですから」


 それは嬉しいやら悲しいやら。

 あまり時間をかけることもないだろうと、さっさと100枚を数えてしまうことに。


「はい、100枚ありましたので問題ありません。ありがとうございました」


「ご利用ありがとうございました。そういえば、初めて見る方ですよね?」


 と、ここにきてようやく俺が初見さんだということに気づいたようだ。

 小さな村だから、ここにやってくる人も限られているのだろう。

 それに、明らかに布の地味な色の服ばかりの村で、スーツ姿は浮いているしな。

 ただ、やはり出合い頭にトンデモない素材を見せてしまったから、そういった確認が抜けてしまったのだろう。


「はい。と言っても、まだここに来たばかりで何が何やらわかっていないのですが…」


「そうでしたか。そういえば当ギルドのカードはお持ちでしたか?」


「いえ、持っていません。ついでに作ろうと思ったのですが大丈夫ですか?」


 今のうちに作っておけば、今後何かしらでお金を稼ぐのに使えると思ったのだ。

 まあ、しばらくは手元のフェンリルの毛とドラゴンの鱗でどうにかなるだろうが、先立つものがないと不安になる。

 とりあえず作ってみることにして、お金を稼ぐのに使えるようだったら使うだけだ。


「では、登録の手続きをしてしまいましょう」


 早速、俺は冒険者ギルドで登録の手続きをすることにした。

 これで一応職にはついた、かな?

お読みいただきありがとうございました。


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