第7話 説明しっくぃ
前話同様、場面・登場人物等が変更されています。
前回読まれていた方は、申し訳ありませんが第6話から読み返していただけると、話がつながります。
掘っ立て小屋は本当に一時的に休憩するだけのような作りであり、床と壁と天井がある以外は椅子が2脚とテーブルが1つあるだけであった。
門番の男性の対面に座ったことで、一息がつけた。
「で、まずはお前の名前を聞こう。名前もわからんということはないよな?」
一息ついたと言っても、取り調べみたいな感じだけどな。
そこはしょうがないとあきらめて、ここでこの男性からはいろいろ話を聞こう。
※※※※※※※※※※
「ふむ、本当に迷ってきたとは…しかも、フェンリルに出会って『異邦人』と言われた、か…」
まずは武器等を持ち合わせていないことを確認され、互いに自己紹介した上で、こちらの事情を説明した。
気づけば草原にいたこと、フェンリルと出会ったこと、そのフェンリルから『異邦人』と言われたことを伝える。
ただ、フェンリルに試されてわかった、『魔法』とやらを使っているということは今はまだ話してない。これについては追々話してみよう。
「うーむ…」
「あのー…」
門番の男性、ダンさんというらしい、彼は俺の話しを聞いたあと腕を組んで唸ってしまった。
なんというか、扱いに困ってる感じだ。
「ん、いやな。お前さんの話を聞いた感じだと、いち門番のところで済む話じゃないような気がしてな。
『魔物』であるフェンリルに会ってるどころか会話をしているってのも驚きではあるんだが…それに『異邦人』っていうのも聞いたことがなくてな」
「は、はぁ…」
うーむ、まさかの聞いたことがないとな。
こちらとしては、事情を説明したのでいろいろと聞きたいことを聞いておきたい。
が、ここで門番であるダンさんをずっと縛りつけておくわけにもいかないだろうな。
なんせ彼は門番なんだから、門から離れすぎているってのもよろしくないはず。
「こういうときは、長に聞いてみるのがいいか…よし、ちょっとついてきてくれるか?」
「それは問題ないのですが、部外者を中に入れてもいいんですか?」
「この村には立地上人が来ることはほとんどない。それに、もし来たとしてもきちんと調べてから通している。何より、普通は”冒険者”が来るほうが多い村だから、簡単に身元がわかるんだよ。
ただ、お前さんに関しては何もわからないが…この村で暴れたりとかしないだろ?なら、俺がついていけば大丈夫なはずだ」
「暴れるなんてそんなことはしませんので安心してください。ただ、今の状況を把握したいだけですので」
むしろ、今暴れたら即座にダンさんに取り押さえられる未来しか見えないのですが。
「なら長と会ったほうがいいな。あの人はこの村の一番の長生きだし、何か知っているかもしれん」
お、年長者と話せるのか。なら、ダンさんよりも詳しいはずだから色々とわかるはずだ。
「わかりました、迷惑じゃなければお願いします」
「それじゃあ、村に入るから俺についてきてくれ。滅多に外の奴が入らないから、村の奴らが変な目で見るかもしれないが、そこは我慢してくれ」
「大丈夫です、変な目で見られるのはわかります。自分でも変な恰好だと思ってますので」
ダンさんの恰好も、先ほど見かけた女の子と同様に、衣装が日本のものとは違っていた。
布製か何かまではわからないが、白色のシャツと茶色の長ズボンの上に、特に急所を覆うように動物か何かの皮だろうか、鎧だろうか?それっぽいものをつけている。
村人全てが鎧をつけているわけではないだろうが、明らかにシャツとズボンの様子を見るに、日本とは違う。
「そうか、ならついてきてくれ」
槍を手に取り掘っ立て小屋から出ていくダンさんについていくことで、俺はようやく人が暮らしている集落の中へ入ることが出来た。
※※※※※※※※※※
「へぇ…」
村に入ると、遠目から見えた通り木で作られた家々が立ち並んでいた。
門のところから伸びる道は大通りみたいなものなのか、幅5、6メートルくらいの余裕があり、その横に家々が立ち並んでいて、合間合間にはたぶん店なのだろう、食べ物やら雑貨と思われるものを売っているのが見えた。
軒先にある食べ物やら雑貨なんかを見てみるが、日本では見たことないようなものばかりで目移りしてしまう。
ダンさんのあとをついていってはいるものの、忙しなく視線をさまよわせていると、先ほど言われた通り外の人が珍しいのだろう。
何人かの村人がこちらを見て、なにやらひそひそと話している様子が目に入った。
「ここは小さい村だから目新しいものはないが、そんなに珍しいのか?」
「はい、私が住んでいたところとは大きく違うので。それにしても、随分人が少ないといいますか、老人や子供しかいないように見えるのですが…」
「今の時間、働ける奴らは森に行って動物を狩ったり食べられる木の実の採取をしてるんだ。だから若いやつらはいないな」
なるほど、働き盛りはこの昼間からいないのか。いるとしても、ダンさんみたいに門番をやったりと、村の中で働くような人しかいないってことか。
それにしても、こちらを見てひそひそと話している老人や、興味津々な視線を送ってくる子供を見ると、彼らの頭にはやはり獣の耳が。そして腰くらいからは尻尾が生えているのが見える。
ここには普通の、俺みたいな人間ってのはいないっぽいな。
あとをついていきながら村の家々と人々を観察していると、どうやら目的の長のいるところに到着したようだ。
「よし、ここが長の家だ。長、ダンだ。この村に妙なやつが来たから連れてきた」
妙なやつ…ほかの人から言われると意外にショックだ。
ダンさんは長の家のドアをノックしながら要件を伝えると、しばらくしてドアが開き、中から腰が曲がった老人が、これまた頭に獣の耳を生やした男性が出てきた。
「ダンよ、妙なやつを入れないようにするのが門番の役目なはずだが?」
「いや、それがどうも”人族”ではあるんだが、話を聞く限り俺じゃ何もわからないから、村で一番物知りな長のところに来た。あと、持ち物は確認済みだ。武器なんかがないことは確認しているのと、ここで暴れることがないってことは本人から聞いている」
「ふむ…」
彼はこちらに視線をやると、全身を探るかのように睨みつける。
全身スーツで、足元はサンダルなんで、ここからすると怪しさ満点なのは申し訳ない。
「明らかに怪しい。それだけでここに来ることはないはずだが?」
「彼、どうやらフェンリルと会話をしたそうで」
「ほほう、あのフェンリルと会話、か」
ちょっとだけ驚いた表情を浮かべた長は、どうやら興味を持ってくれたようだ。
まあ、普通狼と会話できるなんて思わないだろうしな。
とりあえず、今は余計なことを言わないようダンさんにお任せするとしよう。
「その会話から、”異邦人”ってことを言われたらしいんだが、長はどういうことかわかるか?」
「”異邦人”か…」
お、どうやら心当たりがあるっぽいな。
この人なら、こっちの事情を説明すれば、こっちが思ってるわけのわからないこともわかりそうだな。
「たしかに、こやつのことは門番であるお前さんには荷が勝ちすぎているな。わかった、こちらで引き取るからお前さんは門番の仕事に戻るといい。そろそろ先に森に入った者たちも戻ってくるだろう」
「あぁ、助かる」
それじゃあと、ダンさんは長に俺を託した後、門のほうへと去っていった。
で、残されたのは俺とこの老人なわけで。
「さて、ではお前さんのことを詳しく聞くとしよう。狭い家だが、中に入ってくれ」
「ありがとうございます。それでは、お邪魔します」
長に連れられ家の中に入れてもらうことに。ここでわからないことが解決できればいいんだが、はてさて。
お読みいただきありがとうございました。
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