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第3話 なして?

 思わず手にした鱗であるが、なんだか捨てるのも勿体ない気がしたので、ジャケットのポケットに入れておく。重さ的に大丈夫かと心配になったが、どうやら無事ポケットに収まってくれた。

 思わぬ物を拾ったが、探しているものはこれではない。気を取り直してあの犬が向かっていった方向の手がかりでもないかと痕跡探しを再開する。

 地面が荒れ果てているからか、サンダルでは流石に歩きづらいが、なんとか歩き回って何かないかと探してみる。


 と、いまだ火が燻っている付近で、また別のものを発見した。


「毛?」


 たぶん、あの白い犬の毛なのだろう。太陽の光を受けて煌めいている白い毛が、真新しい血と共に散らばっていた。

 どうやらさっきの大怪獣決戦で犬のほうが怪我でもしたのだろう。白い毛がまばらに、そして鮮血が花のように散っている。

 落ちていた白い毛がちょうど一房?あったので手に取ってみると、鱗のゴツゴツとした質感とは違って手触りがいい。するりと手から零れ落ちてしまいそうなほど艶やかであり滑らかだ。

 つい、いつまでも触れていたい衝動に駆られるが、そうも言ってはいられないのが今の現状。

 触っていた手を止めて、触れていた毛を鱗とは反対側のポケットに入れ、探索を再開。


 しようと思ったが、よくよく見てみると、この毛が落ちているところにあった血痕が点々と跡を作っている。

 それは俺が来た方向とは違う方向へと続いているようで、もしかしたら…


「よし」


 思い浮かぶは先ほどの戦い。

 あれほどの破壊力を持つ生き物だ。近づくのがどれほど危険かは推して知るべし。その牙をこちらに向けられたらひとたまりもないだろう。しかし、現在進行形で命の危機に瀕しているのだ。

 このまま何の手掛かりもなしだと、平原のど真ん中で往生してしまうし、なんなら他の生き物に襲われてしまう。ならば少しでも命をつなげることができるために、なりふり構っていられない。


「こっちか」


 点々と続くそれは果たして鬼が出るか蛇が出るか。

 赤く目印に一縷の望みをかけて、俺は歩みを進めていく。



※※※※※※※※※※



 時間にして1、2時間ほど歩いただろうか。視界に徐々に、だが確実に変化が訪れた。

 どうやら平原の堺まで来たようで、視界には鬱蒼とした森が広がるようになった。そして、ここまで誘導してくれた血痕も森の中へと続いているが…


「さて」


 このまま跡を追ってもいいが、あの大きな犬に見つからないようにしたい。

 あんなものに真正面から遭遇しても一口で食べられるだけだ。

 幸い、森は深いような気はするが、獣道がところどころにあるようで、奥に進むのは問題なさそうだ。むしろ問題があるとすれば俺のほうで…


「靴…か」


 視線を下げると見慣れたサンダルだ。

 そう、ここまで平原で、しかも丈の短い草だけしかなかったから問題なかったが、ここからは森の中である。そんな中をサンダルだけで歩き回るのは明らかに無謀。が、背に腹は代えられん。

 どげんすっかと考えたが、ここで思い詰めていても仕方ない。

 気を取り直して、森の中へと足を進めることとする。

 もちろん、血が続く方から少し離れたところから森の中へと歩を進める。

 獣道はどうやら外縁部というか、どうやら森の淵だけだったらしく。しばらく進むと直ぐに茂みやら岩やらで道がなくなっている。そんな足場が最悪なところではあったが、歩いているうちに違和感に気づいた。


 歩きやすいのだ。


「…」


 先ほどまでの平原なら歩きやすいというのもわかる。草も短く柔らかであり、歩いていた時もサンダルのことを気にせずスムーズに歩けた。

 だが、この森の中でも同じように歩けているのだ。

 もちろん、歩く際、足元に注意しながら歩いてはいる。双子の太陽の日の光すら若干遮られ、薄暗さを醸し出している森の中だからこそ、歩く際は十分に注意して進んではいるのだが、それを抜きにしても歩きやすい。


 決定的だったのは、一度、頭上の枝が気になって足元の石ころに気づかず蹴とばしてしまった。結構大きめな石で、拳大の大きさくらいのサイズはあったようだが、それをサンダルで蹴ってしまった。

 気づいた時にはもう遅かった。あっと思って当然痛みが来ると思って身構えていたのだが、次の瞬間には信じられないものを見てしまった。


「えっと…」


 砕け散った石の破片が、木に深々と突き刺さっている。

 蹴とばした石が破片となって、前方にあった木に突き刺さっているのだ。

 意味が分からん。

 サンダルで蹴っても痛くないってのも意味が分からないし、蹴った石が砕け散っているのも意味が分からないし、何よりそれがとんでもない威力となって木に刺さっているからもっとわからない。

 もちろん、安全靴みたいに鉄板を仕込んでいるということもない、そこらへんにありふれた、至って普通の安物のサンダルだ。


「…」


 だが、よくよく考えたらこんな変な所にほっぽりだされたときから不思議なことが続いているのだ。今更サンダル如きで頭を捻っていても俺には理解できないことなのだろう。

 ここは石が脆かったと思って先に進むとしよう。


 気を取り直して、俺は止めていた足を再び動かして、森の奥へ奥へと向かっていくことに。



※※※※※※※※※※



 頭上の枝葉が双子の太陽を完全に隠し、薄っすらどころか昼か夜かもわからないくらいに森が深くなってきたころ。

 森に棲む生き物の鳴き声がそこらかしこから聞こえるのに怯えつつ、時々鳥の飛び立つ音に驚きながらも、森の切れ目が見えるところまでやってきた。

 よくよく聞くと、水のせせらぐ音も聞こえているので、どうやら川があるらしい。

 ここまで歩き続けて疲れていた体に鞭打ち歩みを進めると、徐々に木々が途切れてきた。目には太陽の光が映り始めてきている。

 あと少しと、何とか藪を漕いで進んでいくと、眼前に広がる川が目に飛び込んできた。


「おぉ…」


 森の切れ目、足元は川原なので石だらけだが、そこには幅2、3メートルくらいの小さな川が流れていた。

 どうやら森の間を流れる小川のようで、対岸には石ころや岩が転がっている川原を挟んで、来た方向と同じような森が左右に広がっている。

 恐る恐る川のほうに近づいてみる。川は森の際から見えていた通り透き通った穏やかな流れであり、人の手が入っていないようだ。水は川底が透き通って見渡せるほどの透明度であり、湧水と言われても違和感がないほどだ。

 太陽の光に照らされて光る川に思わず目を細めてしまうほどだが、ようやく水の在処までたどり着けた。


 ここまで散々歩き通しだったことに加え、喉が水を求めていることもあってか、その流れる水に手を差し入れる。

 水の冷たさが手に心地いい。

 思わず声を上げてしまいそうになるくらいの気持ちよさを味わった後、一度手を洗い、この水を飲んでみようと思い手ですくってみる。

 水を口に含んでみると、手で感じた冷たさと水の清涼感が口の中に広がっていき、無意識のうちに飲み込んでしまった。


 美味い。

 ただの水なのに美味い。


 思わず夢中になって水を飲む。水を掬い口に持っていく。それを何度も何度も。水に味があると言っても過言ではないくらい、これは病みつきになってしまう。

 どれほど水を飲んだのか。病みつきになるくらい水を掬っては飲み、掬っては飲みを繰り返していたが、もうそろそろ喉が潤い、これを最後にしようと水を口に含んだ時。


「?」


 なんか視界の端に白いものが映ったような気がした。

 水を得たことで落ち着いたからか、気になったそちらに目をやると…


「ブッ!!」


 思わず水を噴出した。


 なんでさっきの白い犬が目の前にいるんだよ!

お読みいただきありがとうございました。


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