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ワラキアの眠れる龍の伝説  作者: 神崎あきら
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幕間ー赤い龍を背負う男

 静寂が辺りを支配していた。遠くかすかに雷鳴が聞こえるのみ。厚い雲間から射す一筋の光が深い森の奥に立つ男を照らしていた。男の足元には数多の屍が転がっていた。いや、足元だけではない、周辺一帯に50名は下らない兵士の屍が斃れている。月の紋章を縫い付けた赤色の旗印が風に煽られ、地面に落ちた。その赤は兵士達の流した血でさらに赤く染まっていった。男は漆黒の鋼の鎧を身につけている。胸元には羽を広げる見事な龍の文様が刻まれている。豊かな黒髪は肩にかかり、鎧の上からでもがっしりとした体躯をしているのが見てとれた。


 噎せ返るような血の匂いに亜希は思わず目を顰めた。巨大な杉の木が林立する森の中にいた。杉の大木の影から見る景色は映画で見た中世の戦場のようだった。曲線を描く剣や盾が散乱し、血だまりの中に転がる兵士たちの屍。これは、夢に違いない。亜希はそう思ったが、頬をつねる気にはなれなかった。目の前に広がる光景は現実では無い、しかし、あまりにも映像が克明だった。そして頬を撫でる湿った風や、土の匂い、そして鉄臭い血の匂い。五感でこの状況を感じていた。


 目の前の男がゆっくりとこちらを振り返る。亜希は木の幹にしがみついたまま恐怖に体が硬直して動くことができない。額から汗が流れ落ちる。極限の緊張で口の中がカラカラだ。しかし、男から目を背けることができなかった。鼻筋の通った、精悍な顔立ちだった。薄い唇が冷酷な印象を与えている。その目はルビーのように赤く、静かな狂気を湛えている。亜希は息を呑んだ。呼吸をするのを忘れているのに気が付いた。男の燃えるような赤い目がこちらを見つめている。恐怖が亜希の全身を支配している。紅い深淵に引きずり込まれる、そんな感覚に目眩を覚えた。天からの光に照らされる男の体から赤色のもやが立ち上り始めた。それは徐々に形を成していく。


「紅い龍・・・」

 羽を広げた紅い龍。亜希は天を覆う龍の影を見上げ、意識を失った。


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