表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワラキアの眠れる龍の伝説  作者: 神崎あきら
31/39

幕間ー泉の聖杯

 深い森があった。高い木立が枝を広げ、鮮やかな緑の葉を茂らせている。木漏れ日が大地に落ちて森の中を照らしていた。清らかな水が湧き出していた。いつしかそこは泉となり、長旅に疲れた旅人の喉を潤した。


 泉に水飲み場が造られた。白い大理石で、植物をデザインした緻密な彫刻を施された見事なものだった。近くの村人たちも泉に集まり、清らかな水の恩恵を受けた。ある日、水を飲むための杯が用意された。龍の紋章が刻まれた輝く金の杯だ。水を飲むために置かれたその杯を盗もうとするものは誰一人居なかった。


 旅人が泉を見つけ、手酌で水を飲んでいた。側にいた村人の手にした金の杯を見て驚いた。

「何故こんな人気のない森の中にある金の杯が盗まれないのか?」

 旅人は尋ねた。

「これはワラキアの王ヴラド様が用意した杯です。盗むものはいません」

「しかし…」


 その杯を売れば一生遊んで暮らせる金になるだろう。

「この杯を盗んだものは手首を斬り落とされ、串刺しにされるでしょう。その者の村はやかれ、村人は全員殺されます」

 ワラキアの王の罰が恐ろしくて、誰もそのような不埒な真似をしないのだと旅人は理解した。ワラキアの治安は恐怖により守られているのだ。金色の龍の紋章の聖杯は、木漏れ日を受けて光り輝いていた。


 それから月日が経ち、度重なる戦乱で泉は破壊された。森に迷い込んだ一人のトルコ兵が木の根本に光るものを見つけた。近づけば、苔むした大理石の側の木の根に絡みとられた金色の杯だった。

 トルコ兵は狂喜した。これを売り飛ばせば戦わず遊んで暮らせる。厳しい戒律のある隊に戻る必要もない。トルコ兵は周りに誰もいないことを確認した。剣で木の根を切り裂き、杯を取り出した。泥を落とせば、見事な龍の紋章が刻まれた杯だった。


 杯を手に、駆け出したその瞬間、大地から突き出た無数の杭が身体を貫いた。一瞬のことで、痛みさえ感じないのは彼の幸運だった。口から大量の血を吐き、トルコ兵は絶命した。手から零れ落ちた杯はころころと転がって木の根本にぶつかって止まった。


 森はまた静寂に包まれた。森からその杯を持ち出せたものはいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ