女神の僕(しもべ)
蓮の咲き誇る池、底が見えるほど透き通っているのにそこに映る自分の顔は醜く歪んでいた。
唇を噛み締めて、理不尽に耐える。
もう、終わりにしたい。そう願った。
底が深いここに身投げすれば……。
その時
「そなた、よもやここに身を投げようなどとは思っていまいな?妾の住処じゃ。けがれるだろう?」
なんと表現したら良いものか…。今しがた水から出てきたばかりのはずなのに濡れていない髪、白い肌。
どんな文豪も、女神としか表せないであろう美しさ。
「そなた、名はなんと申す」
私に名前など、無い。女神に対し、黙っているのは失礼だ。
「私に、名は…ございません」
女神様は目を見開いて身を乗り出した。
「なんとっ!?ではなんと呼ばれておったのじゃ?」
「お前と、呼ばれることが多かったと思います」
惨めだ。目の前の女神様と私なんかを比べるのは間違っているけれど。私も、綺麗に生まれたかった。
「そなた、妾の僕になれ」
僕?名誉だが、精霊の血を引くものしかなれぬのでは?
「とても光栄ですが私のように醜く、精霊の血を引かぬ者には荷が重すぎます」
「そなたは、美しいぞ?それに見たところ水の精霊の血を受け継いでおるから住処の浄化もできるであろうし」
私は精霊の血を引いている、と言っていたのは私が幼い頃に亡くなった母だけだった。お伽噺のようなことあるわけが無いと思っていた。
「女神様。私に、名を下さりますか?」
「名は水麗……でどうだ?」
麗しい水。綺麗な名前だ。濁った水溜まりのような気持ちも、もうなかった。
このお方のために生きようと、固く誓った。