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王太子の花 咲く前と咲いた後  作者: はるあき/東西
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赤みがかった金髪の女性1

赤みががった金髪の女性は長いので幾つかに割りましたm(__)m

 彼女は何が起こっているのか全く分かっていなかった。

 急変した恋人の態度、拘束され煩いと沈黙の魔法までかけられた。連れて行かれたのはずっと来てみたかったお城。けれど、こんな形で来るはずではなかった。



 彼女は、王都の下町で生まれ育った。生まれた時から父親は側にいなかった。だからといって彼女の生活が苦しかったわけではない。物心ついた頃から母親は働いていたが、母親か稼いでくる以上の生活をしていて、それを不思議に思うことはなかった。

 彼女が十歳になったころ、周りの人々が彼女の赤みがかった金髪を見て言い始めた。

 『王太子の色』だと。会う人、会う人に言われるようになった。だから、彼女は思った。見たこともない王太子の髪の色が自分と同じ色なんだと。


 ある日、彼女は王太子を見ることが出来た。王さまの在位二十周年を祝うパレードで偶然に。大通りをゆっくり走る馬車から手を振る姿を見た。小さな王太子は光輝く金の髪をしており、彼女のような赤みがかった金髪をしていなかった。なんでだろう? と思って、彼女は考えて考えて、王太子が好きになる人が自分と同じ髪の色だろうと考えついた。だけど、王太子の婚約者は炎のような赤い髪の女の子だと聞いた。エライ人は好きな人と結婚出来ないと彼女は聞いていた。彼女は好きな人と結ばれない王太子が可哀想だと思った。


 彼女の生活がガラッと変わったのは母親が死んで一年経ったころだった。急に彼女の父親という男が現れ、彼女は貴族のお屋敷に連れて行かれた。そこで、お茶を淹れるのを徹底的に練習させられた。相手にお茶を淹れたら、必ずこう言うように言われた。不安そうに縋るように悲痛な感じで。何度も練習させられた。


『ワタシを信じて下さい』

『ワタシだけを信じて下さい』


 お茶が上手に淹れられるようになった時、数人の子息とお茶会をさせられた。

 子息たちは、彼女の父親がいなくなると平民だった彼女を馬鹿にする態度を取った。

 子息たちにお茶を淹れる度に、両手を組み上目使いで彼女は言われた言葉を彼らに囁いた。

 そうするとお茶を全て飲み終わる頃には、子息たちが彼女の言葉を信じるようになって優しくしてくれるようになった。

 けれど、次に会った時は最初の態度に戻っていた。彼女は子息たちとお茶会をする度に子息たちに囁いた。


『ワタシを信じて下さい』

『ワタシだけを信じて下さい』


 回数を重ねる度に子息たちは彼女の言葉を信じて動いてくれるようになった。彼女が侍女に虐められていると呟けば、侍女を罰してくれた。流行の香水が欲しいと言えば、競って贈ってくれた。お姫さまになったようで気分が良かった。


 彼女は突然学園に編入させられた。何も分からなかった。教科書というものを開いてもチンプンカンプンで何が書いてあるのか分からない、読めない文字さえもあった。

 彼女が父親から言われたのはお茶会を開いていつもの通り囁くこと。なるべく高位貴族の方と仲良くなることだった。お茶の葉はいつも持たされ、時々お菓子も持たされた。お茶会を開いた後は必ず飲むように言われた薬も渡された。

 そして絶対に守るように言われたのは、お茶を彼女が淹れること。他の誰にも淹れさせてはいけない、と。

 仲良くなった子息たちに彼らより高位の貴族子息を連れてきて欲しいとお願いしたら、連れてきてくれた。

 彼女はお茶を淹れて囁き続けた。より高位の貴族子息たちに。

 女生徒たちから色々言われた。それをお茶会に来ている子息に言うと憤り女生徒たちから守ってくれた。


 深緑の髪の青年が彼女のお茶会に来た。彼も彼女と同じ母親が平民だった。親近感がわく。彼と仲良くなりたかった。彼は王太子の友達でもあったから。

 彼女は、彼に囁いた。お茶を彼に出しながら。王太子に会いたいと。好きな人と一緒になれない可哀想な人を救いたかった。

 彼はもっと礼儀(マナー)を覚えてからと取り合ってくれなかった。けれど、ある日彼は王太子たちを彼女のお茶会に連れてきてくれた。

 王太子は彼女の髪を誉めてくれた。嬉しかった。彼女は自分こそが王太子の隣にいるべきだと思った。だって、彼女の髪は王太子の色なのだから。

 彼女は王太子たちをお茶会に誘った。距離を感じた王太子たちだったが、お茶会を重ねるうちに親密になっていった。彼女の願いを何でも叶えてくれるようになった。

 王太子の側に当たり前のようにいた赤い髪の女性を追い出すことに成功した。王太子の色を持っていないのに婚約者になっていた不届き者。婚約も早くどうにかして、王太子を自由にさせてあげたかった。


 マダラカ公の訪問が彼女の誕生日と重なっていた。

 彼女は王太子たちに祝って欲しかった。だから、無理と言われるのが分かっていてもお願いしてみた。王太子たちは彼女の誕生日を優先してくれた。とても嬉しかった。マダラカ公の所には赤い髪の女性が行くことになった。


 王太子たちはマダラカ公を訪問したことにして、その訪問期間をまるまる彼女の誕生日会にしてくれた。最高に楽しかった。プレゼントも素敵で王太子は花も贈ってくれた。王太子は特別な人に特別な花を贈ると彼女は聞いていた。彼女に贈られた花はどれも貴重でなかなか手に入らない高価なものだった。

 彼女は王太子の特別になったのだと思った。

 楽しい時間も終わりが来た。赤い髪の女性たち一団がマダラカ公訪問を終え、近くを通るというのだ。

 王太子たちはその一団に紛れこみ、自分達が訪問を成功させたようにする相談をしていた。

 彼女は考えた。赤い髪の女性をどうやったら消せるのか。

 だから、翌朝、彼女は騎士団に扮した賊の話をした。赤い髪の女性たちを賊に仕立て上げたら? と()()()()()()()だった。王太子たちは賛同してくれて勇んで討伐に出ていった。

 賊を全滅しなかったと聞いて、彼女は怖くなった。もし王太子たちが赤い髪の女性たちを襲ったと誰か言ったら? 赤い髪の女性たちが王太子に襲われたと言ったら?

 彼女は不安で堪らなかった。

 だが、それは杞憂に終わった。赤い髪の女性たちが襲われたことは大きく騒がれていたが、王太子たちと彼女は誰にも何も言われなかった。ヒソヒソと眉を顰めて囁かれることはあったが。

 赤い髪の女性がどうなったのかは分からなかった。学園を修業半年後に王太子と赤い髪の女性が婚姻することに決まっていた。だから、彼女は赤い髪の女性を婚約者の座から早く退かせたかった。


 王太子は、赤い髪の女性の双子の弟、赤い髪の青年の誕生日は祝っても赤い髪の女性には婚約者なのに何もしなかった。彼女がもう婚約者には何も贈らないでと頼んだけれど、それでも真面目な王太子は贈るだろうと思っていたからとても嬉しかった。

 王太子は、彼女にプレゼントをくれた。修業式の日の夜に行われる舞踏会の装いを全て。王太子の色のドレスとアクセサリーとそれに似合う靴。彼女が身に付けたいと呟いただけなのに。逆に婚約者には王太子は何も贈っていなかった。だから、王太子に相応しいのは自分だと彼女は信じ込んだ。間違った婚約は早く正さなければならなかった。

 修業式の前日、彼女は王太子に夜も一緒にいたいとお願いした。王太子は困った顔をしながらも了承してくれた。期待した甘い時間はなかったけれど、純潔を大切にする王室だから仕方がないと諦めた。だから、王太子が夜も朝も優しく髪をといてくれたことに彼女は満足することにした。


 舞踏会に赤い髪の女性は来なかった。来たのは赤い髪の女性の兄である黒髪の青年。彼女が父親に仲良くなりなさいと言われていた一人だった。黒髪の青年は学園を修業しており、赤い髪の青年に頼んでも忙しいらしく会わせてもらえなかった。

 赤い髪の女性が死んだと聞いて彼女は喜んだ。これで障害はなくなった。黒髪の青年とも仲良くなって、全部うまくいくはずだった。


 なんでこうなったんだろう?

 馬車に揺られ、彼女は考える。


 黒髪の青年は、彼女を″恥″と言って蔑んだ。覚えるべきことを覚えようとしない″恥″だと。

 不安そうに覚えなくてはいけないの? と聞いたら、誰もが覚えなくていいと彼女に言ってくれていた。それが彼女なのだから、彼女の魅力なのだから、と。だから、″恥″など言われないはずだった。


 彼女は忘れていた。親しくなった最初の頃に深緑の髪の青年に彼女自身のために何度も礼儀(マナー)を覚えたほうがいいと忠告されたことを。赤い髪の女性にも何度も注意されていたことを。彼女は都合よく忘れていた。


 舞踏会にいた者たちが、彼女を間違っていると責めてくる。

 彼女は間違ってなどいないのに。彼女が間違っていたのなら、彼女と親しくしている人たちが教えてくれるはずだから。誰も彼女が間違っているなんて言わなかった。

 恋人になった王太子の態度も手の平を返したように変わってしまった。自分が大罪を犯したと言い、彼女を誑かした罪人と言ってきた。そんなことないのに。


 そして、城で謁見室というところに連れていかれた。

 王座に座る国王陛下と護衛の人たち。王座に続く階段の下にも人がいる。彼女の父親の顔もあった。苦虫を噛み潰したような顔をして、冷たい目で彼女を見ていた。

 赤い髪をした貴婦人が泣き出した。赤い髪の青年の母親みたいだ。


『母上、私が国一番の魔力を持っているのではなかったのですか?』


 赤い髪の青年は、魔法使いだった。高難度の魔法も簡単に使い、彼女は様々な魔法を見せてもらっていた。

 赤い髪の青年の悩みは魔力が普通くらいしかないことだ。高難度の魔法は魔力を多く使う。魔力が多くないために高難度の魔法を連続使用出来ないことを悔しがっていた。



 ある日、赤い髪の青年と彼女が二人っきりになった時、打ち明けられた。


『ウインダリナが国一番の魔力持ちと言われていますが、本当は私なんですよ。魔法で彼女に魔力が流れているのです』


 なんで? と彼女は思った。

 あの赤い髪の女性は、なんで人のものばかり奪っているの?


『おかしいじゃないですか。奪われているのなら取り返さなくっちゃ』


 そうだ、取り返せばいいんだ。

 彼女は自分の考えは正しいと信じていた。だがら、奪われていた王太子を自分に取り返すのは当たり前のことなのだと。


『嫌だと言われて、ウインダリナを傷つけることになっても?』


 彼女は赤い髪の青年は優しいと感じた。

 間違ったことをしているのだから、赤い髪の女性が傷つくのは当たり前の罰なのに。


『話し合うなんてしなくていいです。自分のものを取り戻すのは当たり前です』


 だから、彼女は赤い髪の青年に強く言った。話し合う必要などない、ただ取り返すだけでいいんだと。



『私は魔力から、その一団が王太子殿下の代わりにマダラカ公を訪ねたウインダリナ一行だと分かりました』


 赤い髪の青年の言葉に引っ掛かりを覚えた。


『ちょっと待て! 俺は弟を切ったということなのか?』


 栗色の髪の青年の言葉に違和感がわく。

 なんで彼らは知らないふりをするの?

 彼女はそう思った。彼らが自分に罪を被せているように思えてくる。恋人の王太子のように。

 赤い髪の青年の言葉に頭の中が真っ白になる。


『防御に徹するウインダリナの魔力を抑え、王太子殿下が剣でウインダリナを斬りつけられるようにしました。王太子殿下はウインダリナを斬りましたが止めは刺さずその場を後にされました』


 王太子は赤い髪の女性を殺せたのに殺さなかった。それは彼女に対して酷い裏切りのように感じた。

 なんで? と彼女は王太子を見るが、彼は悲痛な顔をして握りこんだ右手を見ている。その表情は見ている彼女のほうが胸が締め付けられ泣きたくなるくらい。

 彼女には王太子がそんな表情をする理由が分からない。まるで赤い髪の女性を切ったことを悔やんでいるみたいで、死を悼んでいるみたいで嫌だった。


『私が愚かだったのだ』


 王太子の言葉が彼女の心に刺さった。

 何が愚かだったのか、話せたとしても彼女はそれを聞くのが怖かった。

誤字脱字報告、ありがとうございます

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