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王太子の花 咲く前と咲いた後  作者: はるあき/東西
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榛色の髪の女性3

後編一話では終わりませんでしたm(__)m


2021.01.25

タイトルを後編1→3に変更しました

 何を言われたのか分からなかった。その時、私は凄く呆けた顔をしていたと思う。

 えっと、私を彼女の侍女に?確かに王妃や王太子妃には貴族が多いけど…、私が!?


「ウインを嫌っているのに?」

「だからですよ。嫌いな人ならでは見えることもあるでしょう?」

「足引っ張られるのはゴメンだわ」

「それは大丈夫だと思いますよ」


 モイヤ様とメイリ様は二人して勝手に話している。それよりも…。


「きらっている…」


 知られているのが信じられなった。迷惑そうな素振りは見せたけど、嫌いというのは見せてなかったはずなのに…。


「そんなのもモロ分かりよ。ウインも知っているわ」


 その言葉に血の気が引く。未来の王妃に対して嫌な思いしかもっていないことを知られていた。それはこの国で生きていくうえで未来が無いことに等しい。


「ウインダリナ様は気にされていらっしゃいませんから」


 モイヤ様にそう言われるけれど、そんな言葉で引いた血の気が戻るはずなく…。それに親や婚約者に知られたら何をされるか分からない。


「それから、また勉強会に誘ってもよろしいですか?」


 苦笑を浮かべたモイヤ様の言葉に私はカクカクと頷くしかない。モイヤ様が苦笑を浮かべられるほど私の顔色は悪いのだろう。勉強会に参加して、嫌っていても悪意はないことを分かってもらわなければ。


「じゃあ、誘いに行くね。レイと勉強するのは楽しいから」


 メイリが笑っていない瞳で私を睨み付けながら、口元には淑女らしい笑みを浮かべてる。

 ええ、大いに誘いに乗ってあげるわよ、こちらは生活がかかっているのだから。


 屋敷に着くと家令が慌てて玄関に出てきた。同じ侯爵でも格上のサーチマア家の馬車が入ってきたらそれは慌てると思う。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 家令にこう挨拶されるのも久方ぶりのこと。ほんとに何年ぶりかしら? お祖父様が生きていらっしゃった時は玄関から入れたからそれ以来かしら?


「カータルヤ家の者か?」


 モイヤ様が馬車から降りて家令に色々説明してくれている。

 王太子殿下の婚約者の学友に選ばれ、今後遅くなることもあるかもしれないと。彼女の学友? 学ぶ友達? 確かにメイリの言う通り、勉強会は有意義で楽しかったわ。一人でするよりずっと。だから、学友ならなってもいいかも。

 誰かが伝えたのだろう、父も慌ててやってきた。出てきて欲しくなかった。謙った笑みを浮かべているが、その目には侮蔑が透けて見えている。


「これは、モイヤ殿」

「カータルヤ侯爵、レイリア嬢を遅くまでお借りして申し訳ありません」


 家令が父に近づいて、モイヤ様から聞いた話をしている。その顔が一瞬嫌悪に歪んだのを私は確かに見た。今日は夕飯を食べれそうにないかもしれない。


「今後、レイリア嬢はハラルド王太子殿下と婚約者でいらっしゃるフアマサタ公爵令嬢とご一緒されることが増えますので」


 家令の説明が終るのを見計らってモイヤ様はそう言いながら、私の方をじっと見た。父もモイヤ様の視線を辿って私の方を見て首を傾げている。


「お父様?」


 あっ! また異母妹(めんどうなもの)が来た。

 異母妹(めんどうなもの)は父の隣に立ち、可愛らしく誰? と首を傾げている。


「アリナ、こちらはサーチマア侯爵のモイヤ殿。モイヤ殿、娘のアリナです」


 父が異母妹(めんどうなもの)を紹介している。婚約者のいないモイヤ様は王太子殿下の側近候補で優良物件だ。たとえ、その出生を気に入らなくても。婚約者のいない異母妹(めんどうなもの)を紹介するのは当たり前の流れ。その異母妹(めんどうなもの)に恋人がいるかどうかなんて関係ない。


 モイヤ様は紹介された異母妹(めんどうなもの)を頭の先から足元までじっくり見て、何かに納得したように頷いてからにっこり微笑んだ。

 父が満更でもない顔をして、異母妹(めんどうなもの)は照れた様に頬を赤らめている。まあ、モイヤ様も容姿が整っているから、マジマジと見られたら当然の反応かも。


「レイリア嬢が簡素な服を着ていらっしゃるので。妹君のような夜会に出る服装では困りますが、学園用に準備された装いではなくこれからは普段着でお願い出来ますか?」


 ああ、モイヤ様は王太子殿下の婚約者の学友として、見窄らしい格好をしていると言われたんだ。確かに異母妹(めんどうなもの)と私の服は雲泥の差。けど、夜会って。確かに普段着にしては派手すぎるドレスだけど。

 

 父は言われた意味が分からず瞬きを繰り返している。異母妹(めんどうなもの)は誉められたと思ってモジモジしてるけど、誉められてないから。


「あー、遠回しに言っても分からないって」


 馬車の中のメイリの意見に同感だけど、余分なことは言わないで欲しい。その後、色々言われるのは私だから。


「そんなケバケバしいドレスはお断りだけど、侯爵家として、ウインダリナ様の学友として相応しい服装をさせろ、と言っているの」


 色んな所で話題になっているからね。後妻とその連れ子は金かけてるのに()()()()()には金を使ってないって。


 あっ、余計なことを。これで今夜は何時に寝られるか分からなくなった。

 父の顔が恥辱で赤く染まっている。部屋に閉じ籠っていられたらいいんだけど。小さく息を吐く。


貴族(わたしたち)が出かける場所は似たり寄ったりですから。色々と噂が。夫人と妹君はよく街に行かれるようなので」


 モイヤ様も苦笑を浮かべてメイリの言葉を補足してくれているけど…、分からないと思うわ。自分たちが話題を提供しているって。


「レイリアは質素な装いを好みまして…」

「店の者がレイリア様のことを聞いた時に、後妻が『あの子には使用人の服でももったいない』て仰ったのを聞いたって、サロンで話してましたわ」


 メイリ、また余分なことを! けれど、あの継母(はは)が言いそうなこと。外でそんなことを言うなんて、カータルヤ侯爵家の名に泥を塗るのが分からないのかしら。分からないのでしょうね。私より上って示したいだけだから。


「あっ、それならあのお店…」

「アリナ、喋るな」


 話題に乗ろうと可愛く異母妹(めんどうなもの)が口を開くが父が慌てて止めている。

 アリナの言葉で私のせいじゃないって分かって…くれないわね。


「試験も近いのでレイリア嬢はしばらく遅くなりますので。服装はウインダリナ様に合わせる必要もあります。店に任せられるのも一つの手かと」


 さりげなく王太子殿下の婚約者より目立たず学友として相応しい装いを、分からなければ店にまかせるようにと父に言ってモイヤ様は帰っていった。


「レイリア」


 馬車が走り去ったのを確認してから、父が低い声で私を呼んだ。今夜は本当に何時に寝られるかしら?

 罪人のようにトボトボと父と異母妹(めんどうなもの)の後ろを付いて部屋に入る。


「娼婦の子の分際で」


 父は憤怒の顔をして、モイヤ様を罵っていたが、ニヤリと顔を歪めて…。


「レイリア、ハラルド殿下の学友になったのは良くやった」


 いえ、婚約者の学友だけど…。言い直しても聞く耳を持っていないからしないけど。


「明日からはアリナの服を…」

「嫌よ、なんで貸さなければならないの」


 いえ、私の方がお断りなんだけど。趣味じゃないし、絶対似合わないから。


「あら、今の服ではダメですの」

「噂になっているらしい。お前が継子には服も買ってやらぬと」

「レイリア!」


 継母(はは)が鬼の顔で睨んできたけど、私は何もしていない。けど、ここで何か言ったりしたら、手が飛んでくるのが分かっていた。


「お前がレイリアの服は必要ないと言っていたのを店にいた令嬢たちが聞いていたらしい」

「お母様、使用人の服でも勿体ないと言っていたじゃない」


 父とアリナの言葉に継母(はは)が顔色を変えている。失言だったとやっと理解出来たみたい。


「あ、あれは、店が煩かったから…」

「とにかく他の者に聞こえるような声で話すんじゃない」


 シドロモドロで言い訳をしているけど、継母(はは)が私を貶める時の声はいつもより大きくなる。前妻の子供は出来が悪いと言い触らしていたみたいだけど、本音が出てしまったみたいね。


「ともかく、レイリア。ハラルド殿下から閨に誘われたらお受けするのだぞ」


 私の思考は固まった。

 今、父はなんて言ったのだろう?


「ハラルド殿下のお手付きになり、あの小娘より先に男児を、次の王太子を生めばこの家は」


 父は自分に酔って高笑いを始めたけど…、何を言っているの?

 待って。ちょっと待って? なんで、私がハラルド殿下の子供を生むことになっているの? それも次の王太子って? 王太子殿下には、″王太子の花″を贈られた婚約者がいるんじゃない。その婚約者が王太子妃になり、次期王太子を生むのでしょう?


「王家に成り上がりの血が混じるなど。そもそもあの小娘が婚約者に選ばれたのだって、役立たずの王女の子が男だったからであって、あの家が選ばれるはずはなかったのだ。皆、そう言っている」


 父が力説している…。それに″皆″って、ほとんどの貴族がそう思っているっていうこと? 確かにこんな王家をバカにするようなことをこの父が思い付くとは思えないけど…。

 先王妃を″王太子の花″を贈られていない妃として嘲り、″王太子の花″を贈られた婚約者を蔑む。どうなっているの?


「あなた、アリナならともかくレイリアがハラルド殿下の目に止まるなんてありえませんわ」


 継母(はは)まで奇妙なことを言い出した。アリナならって、そんなこと有り得ないのに。


「それもそうだな。レイリアに国母は重過ぎる。アリナのほうが相応しい」


 父が納得している…。

 何故、納得出来るの?


「レイリア、来年、アリナが入学するまで殿下に見捨てられないようにしろ。それまでにもアリナを殿下にお薦めするのだぞ」


 当たり前のように言う父、当然と頷く継母(はは)、満更でもない表情をしている異母妹(めんどうなもの)

 目の前にいる三人がどこか遠い異国の者に思えた。


「ところで、レイリア。馬車に乗っていた令嬢は誰だ」


 父の声がまた低くなった。メイリのことを忘れてなかったようだ。


「ナ、メイリ様。ドルナタ子爵の令嬢よ」

「ドルナタ…。近衛の分隊長か」


 メイリの父親がけっこうな地位にいるのにびっくりした。騎士は実力社会と聞いたことがある。爵位は低くても王族直属の近衛隊の分隊長は結構な実力者なのだろう。だから、メイリも強気なんだ。納得出来た。けど、その強気も所詮親の力なんじゃないと思った。

2021.01.17 義母→継母 ははおや→はは に訂正しました


誤字脱字報告、ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] モイヤのやんわり嫌味とメイリのズバッと指摘。 あと異母妹のルビが『めんどうなもの』表記にクスッとしました(笑) [一言] 物語が進めばすでに断罪済みのカータルヤ家の面々ですが、悪役が酷けれ…
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