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王太子の花 咲く前と咲いた後  作者: はるあき/東西
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ウインダリナ2

「おじいさま!」


 小さな体は宙を舞い、赤い髪が元気よく揺れている。

 黒髪の少年は呆れたように息を吐いた。


「お爺様」

「おぉ、エンドール。お前もほれ」


 小さな体をそっと地面に降ろすと好々爺の笑みを浮かべた老人は腕を広げて訪れる衝撃を楽しみに待っていた。


「つまらんの。ほれ、ウイン」


 老人が赤い髪の少女に向きを変えるとその腕の中に小さな体が飛び込んでくる。


「やはり可愛いの、ウインは」


 抱き上げて老人はその軟らかな頬に己の頬を重ねる。

 くすぐったいのかクスクス笑いながら、少女は嬉しそうに老人に報告する。


「おじいさま、エンダリオがいるの」

「ほう、エンダリオが」


 老人が目をやると少し離れた場所に赤い髪の少年が不安そうに立っている。

 老人は少女を抱いたまま、赤い髪の少年に近付いた。


「お前がエンダリオか」

「お、お、お、おじいさま、初めして! え、え、エンダリオでっす」


 言い間違いに気がついたのだろう、赤い髪の少年の顔が髪の色に負けないほど赤くなる。


「初めてじゃないぞ。覚えてないだろうが、赤子の時から何度も会っておる」


 老人は少女を抱いていない方の手を赤い髪の少年の頭に乗せると優しく撫でた。


「さて、こっちの可愛い孫はどうかな?」


 老人は頭に乗せていた手を赤い髪の少年の腰に回し抱き上げる。


「うわっ!」


 急に浮き上がった体に赤い髪の少年は悲鳴をあげ、目の前にある服にしがみついている。


「しっかり重い。やはり男の子だな」


 にっこり笑って言われた言葉に強張った顔をしていた赤い髪の少年の表情も緩んでいく。


「おじいさま」


 照れ臭そうな呼び掛けに老人は満足そうな笑みを返していた。 


「ほう、殿下も交えて遊んでおるのか」


 孫に囲まれて楽しそうに老人は笑う。卓上の盤には、赤と白のピンが並んでいる。


「これはな、こうすると勝てるのじゃ」


 卓上におかれた白いピンをすっと取ってしまう。


「お爺様!」


 黒髪の少年が抗議の声を上げるが、老人はニヤリと笑うだけだ。


「ほれ、ここが空くだろう」


 赤い髪の少年少女は、ほうと息を吐いている。


「そしてこれをここに置く」


 ポンと置かれた赤いピンを黒髪の少年はパッと取り、その場所に白いピンを置く。


「ほう気付いたか」


 老人は嬉しそうに笑った。


「惜しかったな、エンドール」


 黒髪の少年はプイと横を向いて、赤いピンだらけの卓上から目を逸らした。


「次は必ず勝ちます」

「楽しみにしておる」


 老人は黒髪の少年の頭をポンポンと叩く。黒髪の少年は煩わしそうな顔をしたが、老人のしたいようにさせていた。


「エンダリオ、もう休む時間ですよ」


 赤い髪の女性が、赤い髪の少年を呼びに来た。


「お母様、もう少し…」


 赤い髪の少年が縋るように老人を見るが、女性はそれを許さない。


「いつもより遅い時間です」


 有無を言わさない声に赤い髪の少年は俯いた。老人の側から離れると寂しそうな表情で夜の挨拶をする。


「おじいさま、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

「エンダリオ」


 老人の膝の上から降りて少女が赤い髪の少年の手を取ろうとした。

 パッシーン

 よろめいた少女の体を近くにいた黒髪の少年が受け止める。


「フーラルよ、実の娘に何をしておるのだ?」


 冷たい目をして少女を見下ろす女性に老人は声を低くした。

 女性はハッとした表情になり、慌てて頭を下げた。


「大旦那様、失礼いたしました。私とエンダリオは失礼させていただきます」


 赤い髪の少年がウインと手を伸ばそうとするが、女性が引き摺るように連れていく。


「お母様、待って! ウインに」


 赤い髪の少年が叫ぶが女性の足は止まらない。


「お母様!」


 女性の足が止まったのは扉の近くに来てからだった。


「ご挨拶を」


 赤い髪の少年は女性の手を振り払うと三人の方を見て、頭を下げた。


「おじいさま、お兄様、ウイン、おやすみなさい」


 半べそをかいた赤い髪の少年は、潤んだ目で少女を見つめながら言葉を紡ぐ。


「おやすみ、エンダリオ。フーラル、後で話がある」


 老人の言葉に女性の片眉がピクリと動き、分かりましたと頷いたがその表情は固く冷たいままだ。


「おやすみ」

「おやすみなさい、お母様、エンダリオ」


 少女が口を開くと同時に女性は扉を開き、エンダリオを引っ張りながら部屋を出ていった。

 老人は大きく息を吐き、閉じられた扉を見つめている少女の頭を優しく撫でた。


「ウイン、今夜はわしと寝るか?」


 黒髪の少年が少女に分からないように小さく頭を振る。ダメだと。それを見て、老人は少女に分からないように小さく息を吐いた。


「では、ウイン。この老いぼれに部屋までのエスコートをお任せいただけないかな」


 老人は小さな体を抱き上げて、ギュッと抱きついてきた背中をそっと撫でる。お願いしますと小さな頭が上下に動いた。

 顔を上げた少女は黒髪の少年の方を向くと、ニッコリと笑った。


「お兄様、ありがとうございます。おやすみなさい」


 笑顔なのに寂しそうに泣いているように見えて、黒髪の少年はいつも顔を背けてしまう。


「おやすみ、ウイン」


 誰もいなくなった部屋で黒髪の少年は大きく息を吐くと、侍女たちに後を任せ自分の部屋に戻って行った。

誤字報告、ありがとうございますm(__)m

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