髪と共に想いも切ります
「髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれない」
中学校に入ってから今まで、大事に大事に伸ばしてきた自慢の髪。
女らしくしようと思って伸ばし始めてから約4年とちょっと。
途中から腰まで伸ばそうと思って大事に伸ばした髪がそろそろ腰に到達する頃、
私はその大事な髪を昨日、ばっさり切ってしまった。
たまたまつけていたテレビで 『ヘアドネーション』について特集していた事がきっかけだった。
最近は『ヘアドネーション(髪の寄付)』をすることで困っている子に医療用ウィッグを無償で提供する事が出来る素敵な世の中の仕組みがあるそうだ。
さまざまな理由で医療用ウィッグを必要とする子供にプレゼントできるのだと聞いて、私はいても立ってもいられなかった。
よこしまな気持ちで伸ばしたこの髪を、困っている子に役立ててもらえるだなんて。
その時は、髪を切りたくて仕方がなかった。
ヘアドネーションを知る数時間前に、私は中学からずっと想っていた彼が楽しそうに彼女と食事をとるのを見てしまったからだ。
最初は、まさか休日に偶然にも出会えるだなんて!と喜んだのもつかの間、彼の横にいたのはかわいらしい彼女で顔周りをくるんと包み込む前下がりボブヘアーで、ジーンズにシンプルなシャツを羽織っては彼の後をついてまわった。
「なにそれ…きいてない」ふいに出た言葉は、中学の時に聞いていた内容と全然違ったからだった。
それまでの私はサッカーをしてて、見るからに男。メンズばかり着ては母親に泣かれたほど。
兄と私は顔も背格好も似ていて、女の子と遊ぶよりもっぱら兄貴の友達と遊んでいた。
でも中学校にはいった兄は小学生の妹と遊ぶことを嫌がり、遊んでくれなくなって
代わりに中学でできた友達を家に連れてくるようになった。
彼は兄の友達でたまたま家に遊びに来て知り合ったのが私が中学に入学した頃だった。
「お、猛もう着替えてきたのか?」とコンビニで少年誌を立ち読みしている時に声をかけられた。
一瞬で兄と間違えているのが分かった。
「兄さんはまだかえって来てないですよ」そう答えると読みかけていた少年誌に再び目を落とす。
「って、アレ?もしかして妹?」ようやく自分のミスに気付いたのか彼は慌てたが私は無視した。
少し考えてなんか喋っていたらしいが自分の意識は漫画に夢中だった。
何を言っていたのか覚えてすらもいない。
でも帰り際に「妹ちゃん、間違えた俺が言うのもあれだけど猛と似てて将来美人さんになれるね」
そう言って紅茶が入ったコンビニ袋を渡されて彼は帰った。
正直、そんな事を言われてその気になるやつなんていないと思ってた。
でも将来、いい女になると言われた気がして私は初めて女として扱ってもらった気がした。
なんて単純だったんだろう。
それからの私は彼に言われたように美人になるべく女らしさを求めた。
中学に入って彼を異性と意識した私がしたのは髪の毛を伸ばす事だった。
お手入れをして、髪の毛を綺麗にすることで女らしくなれると思ったのだ。
ベリーショートだった髪がボブくらいまで伸びた頃。
「好きなタイプ?あぁ、髪の毛がサラサラで長くて、清楚な女の子がいいな。いわゆるお嬢様みたいな…」
たまたま、家に来ていた彼がそう言っていたのを聞いた私は今まで以上に髪の毛を気にした。
何年もかけて伸ばして彼の理想に近づいてから、彼に告白しようと思って。
なのに横にいた彼女は…
情報が古すぎたのか?それとも、外観なんてどうでもいいの?
そんな事よりも私から見える席に座らないで。
彼女と楽しそうに笑わないで。頬をそめて喋らないで!!
一瞬でも休日に出会えて喜んだのに、激しい嫉妬の炎に焼き尽くされて私の心は荒んだ。
途中からどうやって店を出たのかも覚えていない。
会話すら聞きたくなかった。なのに「どんなものあげていいかわからなくて、ごめん」
「もっと早くに言えばよかったんだけど、でも嬉しかった」だの聞こえてしまう。
私は自分の胸にくすぶっている恋心にけじめをつけるべく、決心した。
失恋をしたのなら髪を切るのが理だ。
でもその日は いつも通っていたお店は臨時休業ですごすごと帰宅した。
たまたまつけてたテレビでヘアドネーションを知るとすぐさま提携店舗を探して予約する。
翌日に予約ができたのでベリーショートまで一気に髪を切った。
彼女と同じボブにする事すら嫌だったのだ。
でも思いっきり切って髪の重さから解放されてか、ちょっとスッキリした。
髪をアップにしたりできない代わりに掴む事すらできない髪。
今まで手間暇かけてきたあの時間はなんだったんだろうか、自分が馬鹿みたいで乾いた笑いが口から洩れる。
ここまできたら思い切って服装も変える。
今まではお嬢様が好きだからと思って高校のブレザーの制服は着崩さず、きちんと着ていた。
でもそうじゃないと分かったら、窮屈はシャツの一番上は外してリボンもだらしなくゆるくつける。
スカートの丈もひざ下からひざ上に変えて動きやすさを重視した。
今までの4年間、自分を偽って生きてきたみたいだった。
これが本来の自分なのかと思うと、余計みじめになったが、この恰好をしていればきっと気付かれない。
不毛な想いで伸ばした髪は悩んでいる子供たちに喜んで使ってもらえるのなら、と寄付した。
それと同時に何年も燻ぶらせていた想いも断ち切った。
兄も県外の高校の寮に行って家で会うこともない。
まともにあったのは、通学中のバスが同じだったり、こないだみたいにたまたま出逢うくらいだった。
兄さえいなければ 彼と会うこともなければ、私はただの群衆だ。
そう思って、今までと違う自分に胸を張って学校へ向かった。
今日は くしくも私の誕生日だった。
でも自分の誕生日にいままで偽ってきた自分から解き放たれると思えばいいものだ。
底冷えするようになったこの季節に制服にマフラーを一本巻いて登校する。
このマフラーは兄から去年もらったものだった。
使いやすくて肌触りもいいから愛用している。
マフラーを欲しがっているのを知らない地にいる癖に兄にしてはいいチョイスだなと思った。
息を吐けば白く変わる寒さの中、今まで髪の毛がカバーしてくれた寒さの痛みを顔全面に受けて、頬も鼻も赤くしながら学校に登校しようとすると道の途中で彼がいた。
バスを待っていたのか、いつも私が使う停留所で何やらキョロキョロと人を探しながら待っていた。
きっとあの彼女と待ち合わせをしているのだろう。
そう思うと今日は歩いて学校に行こうと思い、停留所を通り過ぎる。
「髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれない」だなんてー
そんなレベルではない。今までと違う恰好の私を見ても気付かないだろう。
さっさと歩いて彼の視界から消える。今日は会いたくない、そう思って早足でその場から歩き去る。
この角を曲がってしまえば見えなくなる、そう思った時だった。
後ろから誰かが走ってくる音がした。
突然、腕をつかまれて後ろを向かされる。
「……め、芽生ちゃん……」
彼は息絶え絶えに腕を掴んだまま、肩で息をしていた。
停留所から全力疾走でもしたのだろうか。
視線も合っていないのに… 彼は私に気付いていたのだと私がびっくりしている間に彼は徐々に息を整えていた。
「…な、んで、その…恰好?」彼は不思議そうに問いかけてきた。
「この方が好きなんです」
偽っていない私はずっとこんな服装でいたかったから嘘は言っていない。
「髪は?ずっと伸ばしてたでしょ?」腕を掴んでいない左手で頬の近くの髪に触れる彼。
その仕草から逃れるように そっと身をかわして「短い方が似合うって」と。
私の返事を聞くや否や「誰に?もしかして彼氏に?」と少しキツイ口調で言われた。
彼女がいる癖になんでキツく言われなきゃいけないのか。
この場を離れたい、その一心で「貴方には関係ない話」そう言って離れるつもりだった。
でも、彼は腕を掴んだまま離してくれるどころかもう片方の腕で私の腕を掴み
正面を向いた私に「関係なくない!」そう言い放った。
突然の事で何がどうなったのか分からなかった。
呆然と立ち尽くしている私に、彼は「関係ないだなんて言わないでほしい」と今度は切なげに言ってきた。
「好きなんだ、中学の時からずっと」
何が起きているんだ?
これは夢なのかはたまた、私はどこかに頭でも打ちつけたのか。
こんな事は想定していなければ理解を超えている。
私が黙っていると彼がゆっくりと何か紙袋を鞄から取り出して言った。
「ごめんね。プレゼント買ったのにつけられない…」
渡された紙袋を開けると… 綺麗にラッピングされた箱が1つと、バレッタが入っていた。
「え?これって…」
「誕生日プレゼントだよ、芽生ちゃんの。
そのマフラー使ってくれてて良かった。
俺があげたやつじゃなきゃ見逃してた……」
何を言っているのか分からない。
誕生日プレゼントは分かっても、このマフラーは兄からもらったもので……。
「でも、これ兄さんがくれたやつです…よ?」恐る恐る聞くと
「違う、それは俺が買って、でも直接渡せなくて猛の名前を借りたんだ…」
眉をひそめている彼は少し顔が赤らいでいた。
「え?これ兄さんじゃなくて…??」マフラーに手をあて確認する。
「ほんとは俺が芽生ちゃんにあげたんだよ」彼が視線を上げ、視線をぶつかった。
「う…そ…… でも、、、」こんな近くで見つめられて恥ずかしくて目をそらしてしまう。
「芽生ちゃん、、、信じて。俺、ずっと好きだったんだ」優しく伝える彼の声は聞こえた、聞こえたけど。
「………。」私は彼女といた所を見ていたから、素直に受け入れられなかった。
何も言えず、うつむいて泣きそうなのを耐えるしかできなかった。
「これ、無駄になっちゃったかな。俺、女の子が好きなアクセサリー分からなくて、彼女に見てもらったのに…。つけられないんじゃ仕方ないよね」
一瞬力が入った気がした、が腕の力を緩まり、捉まっていたものから放たれた。
そして私が持っていた紙袋からバレッタを取り出して悲しげにため息をつく彼。
「……ご、めん…なさぃ……」彼女という単語を聞いて辛くなった私はぐっと涙を我慢しながら必死で震える声をつなげた。
「ううん、こっちこそごめん。彼氏に怒られるもんね、ほかの男からもらったアクセサリー持ってるだなんて」
彼女って言ってるのに彼氏に怒られるとか……さっきから何か噛み合わない、何かが引っかかった。
でも、もう会う事なんてそうないだろうし、さっさと振られてしまいたいと思って核心をつこうと思った。
「…何言ってるの?そっちこそ彼女が私といたら怒るんじゃないの?」
強がってはみせても、目を合わせると泣いているのがバレてしまうくらい、瞳には涙が浮かんでいて上を向くことができず必死で言葉をたたきつけるように彼にキツく言い放った。
「なんで?」なんで質問に疑問形で返すの、もう辛いのに心が張り裂けそうになる。
「なんでって彼女でしょ!彼女がいるのになんで私にくれるのよ!」
張り裂けたのは心で私はヒステリックに彼に当たり散らした。
「それは………猛の彼女だから。俺、彼女いないよ。」
ポツリとつぶやく彼は少し考えて「ねぇ、芽生ちゃん… もしかして…勘違いして嫉妬して…る?」
「………え?お兄ちゃんの彼女って?」ついぽかんとしてしまい、涙が一滴頬を伝って。
彼を見ると彼の顔はさっきより赤くなって私を見つめていた。
「………芽生ちゃん…っ」
そう言ったが早いか、目があった瞬間、彼はきつく私を抱きしめていた。
私は温かい腕の中で何が起きているのか分からず、困惑して、身を固くしたまま思考も停止してしまった。
「俺、芽生ちゃんに彼女になってほしいって思ってる。
猛がいなくても会える存在になりたい。ね、さっきの嫉妬って思っていい?
もう泣かせないから、彼氏と別れて俺と付き合って……」
「別れるだなんて… 誰とも付き合ってもないわ…」そう言うと彼は腕に力を込めた。
ぎゅぅって彼の胸の中に抱きしめられて苦しい。
でも耳元で「芽生ちゃんが好き」って言われてのぼせそうだった。
「好きな人…いてもいいから付き合って。絶対俺を好きにさせるから…」
もう胸が締め付けられて何が起きててどうなっているのか分からない。
抱きしめていた腕の力が少し緩んで彼と私の間に隙間ができた。
「ね、付き合って?俺だけ見て?」彼は私の顔を覗き込むように身をかがめてくる。
もう涙がボロボロとこぼれて、心機一転して薄化粧をした私の顔はぐしゃぐしゃになっていた。
見られたくなくて顔をそむけようとしたのに、彼の両手に包まれて顔を彼に向けさせられてしまった。
ぐしゃぐしゃな顔を見て彼の顔は固まった。
「………そんなに…俺 嫌だった…?」
ぎこちなく聞いてくる彼に違うって言いたかったけど、胸が苦しくて言葉にできない。
必死で、違うって言いたくて泣きながら頭を横に振る。
「……俺の事 嫌いじゃないってこと?」おそるおそる聞く彼に こくんと頷いてみせる。
「………芽生ちゃん… 俺の事 好き?」
「………」顔が熱くなって、どうこたえていいのか悩んで視線が泳いでしまう。
こたえに悩んでいると彼の手で涙を拭かれる。涙が通った場所に風が当たって冷たいと思った。
なんとか気持ちを言おうと彼の顔を見たら「いいよ、俺が好きだって知ってくれたらそれで」頭をポンポンされて、涙腺が壊れてしまった。
彼が拭いてくれたのに涙が止まらなかった、私の不甲斐なさに嫌になる。
好きって一言いったら彼の悲しい顔を見なくて済むのに。
「……もしかして… 感極まって言葉にできない…?」
ぐしゃぐしゃになった顔で頷く。
彼が頭をくしゃくしゃっと掻いて少し考えて私の顔に手を当てて目を合わせて懇願するように言った。
「俺の事 少しでもいいなって思ってたら…頷いて…」
涙が視界にあふれて顔がちゃんと見れなかったけど、ゆっくり頷いた。
「俺の事…… 好き?」
「………。」もうこたえるしかないけど… 恥ずかしくて彼の胸に抱きついてから、頷いた。
「うそ…じゃないよね?ほんとに??」と問い続ける彼の言葉にぎゅっと腕に力を込めて頷いた。
「…芽生ちゃん……… 」
彼はそっと私の肩に手を回してゆっくりと優しく抱きしめてくれた。
「本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った」
****
私の誕生日、私と彼はお付き合いを始めました。
髪と共に片想いを切ったつもりが、両想いに。
長い髪をばっさり切ってしまった事は残念そうだったけど出会いがショートだったからか「これから一緒に過ごしながら変わってく芽生ちゃんも見られるから」と笑ってくれたけど服装は嫌がられた。
「ちゃんとシャツはボタン閉じて!ほら、胸元が見えちゃうじゃん。それに足出しすぎてるから!ほかの男に見せないで。」って、こんなキャラでしたっけ?
私が想ってただけだと思ったけどこれじゃ溺愛されてるような…?
あとでラッピングされている箱から、ハートモチーフの、シルバーのネックレスを出して私につけてくれた。
これは彼が選んだのだけど交際もしていない人から貰う物にしては重過ぎると兄さんの彼女に言われたらしい。
「買ってて良かった。これずっとつけてて?でも他の男には見せないでね」と。
一瞬ひんやりとしたけど、すぐ体温に馴染んで… 大事にしようって思った。
けど、どれだけ心配症なんだろうか。
私が散々想っていたのに彼はそんなそぶりも見せなくって。
だから想ってた以上に彼の想いを伝えられると思考停止してしまうみたい。
あの後も、落ち着いてから気持ちは伝えたのだけど、結果は抱き締められて、耳元で「俺も好き」って散々言われて、私のキャパを超えて伝えてくる彼の想いに溢れてしまい、またもや言葉で返せず涙がでてしまい…。
「本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った」
でもね、本当に嬉しい時こそ、言葉で伝えられるようにならなきゃなって思った。
診断メーカーで出たお題から作成しております。
「髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれない」で始まり
「本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った」で終わります。
が、芽生は強がりだけど、思っていた以上に女の子女の子してる性格だったので
肝心な時に言えなくなる自分に「ちゃんと言えるようになろう」って
前向きにしたくて、付け加えて終わりました。




