妖精王の帰還1
初めは、目を開けているのに周囲が眩しい光の中にあるようで良く見えなかった。
暫く目が慣れるとそこは自分の知っている何処でも無かった。
がらんどうとした建物の中だった。
床は青いモザイクタイルで精緻な幾何学模様が描かれている。何と書かれているかは分からないが文字みたいなものもある。
周囲は8本の柱が立ち、門にあったのと似た女の人のレリーフが刻まれていた。
その手が伸び天井を支えているようなモチーフだ。
柱と柱の間は色とりどりのガラスが貼られステンドグラスのようになっていて、そこから優しい光が室内を満たしていた。
「ここは……?」
賢治が戸惑いを隠せないでいると一つだけあった扉が開き衣擦れの音をさせ人……のようなものが3人入ってきた。
柱のレリーフに似た長い髪に、誰もが彫刻のように美しい顔。長くゆったりとした服に身を包み、その背には蝶々のような4枚の羽根を背負っている。
前を歩いていた人物が3人の前につくと跪き頭を垂れた。
「お待ちしておりました妖精王、王配殿下、皇女殿下」
「ようせい……おう……?」
聞き慣れない単語に優子と賢治は目を見合わせる。
しかし、ここまで来てしまった以上相手の言う事を聞くしかない。ずっと優子に抱かせっぱなしだった響を賢治が抱き、取り合った手をギュッと繋ぎ直した。
響は嬉しそうにニコニコと笑っている。
「まだ混乱されているでしょう。先ずはこちらへ。ゆっくりとお寛ぎ下さい」
「ヤツらは此処までは追い掛けては来られません。ご安心下さい」
賢治の顔を見上げると小さく一つ頷いたので、2人は前に進んだ。
その様子を見て3人も腰を上げ、先導するように前を歩き出した。
そこは白亜の宮殿だった。
白い柱が幾つも並んだ回路を進むと中庭に面した場所に出た。
中央には噴水があり、色とりどりの花が咲き乱れ良い匂いがする。
何処かの宮殿というより正にファンタジー世界そのものだった。
中庭をぐるりと囲む廊下を進み一つの部屋へと通された。
心地よい風の吹き抜けるその部屋も白1色で、壁際に心地よさそうな大きなソファーが設えてある。
給仕人だろうか、案内をしてくれた3人より簡素な格好をした女性が控え目に立っている。
どうぞと促されソファーへと座る。
柔らかすぎないそれは心地よい肌触りで座り心地がとても良かった。
「皇女殿下は宜しければこちらへ」
優子の隣に絹の布団のひかれた心地よさそうなバスケットが用意され、有難く響をそちらに寝かせて貰った。
テーブルの上には良い匂いのするお茶と、幾つか見慣れたフルーツが用意された。
案内してきた3人はソファーには座らず、クッションの置かれた床へと腰を下ろした。
「お疲れでしょう。ゆっくりお寛ぎ下さい」
「それより……この状況を説明して貰えませんか?王様とか突然言われても……」
「そうですよね。突然こんなことになって混乱していると思います。長い話になりますので掻い摘んでご説明致しましょう」
真ん中に座った銀の髪に同じ銀の羽根を持った青年は自らをイヴァンスと名乗り、隣の黒髪に漆黒の羽根の女性をソフィア、茶色の巻毛にアゲハ蝶のような羽根をもった少し若い男性をジョバンニと紹介した。
そしてこの世界の事、3人の状況を説明し始めた。