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妖精王の帰還  作者: 若竹丸
プロローグ
3/11

プロローグ3

「蛇だ!あっちに大きな蛇がいる!!近づくな!!」


芝生の広場にいる人たちにも大声で危険を知らせる。

一瞬で公園はパニックになり、人々が我先にと公園の出口を目指した。

暫くして警察と保健所の職員がやって来て公園を封鎖した。

目撃した賢治は蛇の大きさや様子を身振り手振りを交え警察に説明している。

優子は近くの喫茶店に入り、響を抱きながら目の前のホットミルクから上がる湯気を見つめていた。

あの時気付かなかったらこの子はどうなっていたのかと想像もしたくない。

幸い何事も知らない響はスヤスヤと腕の中で寝ている。

しかし、今日は鉄骨といい蛇といい何かがおかしい。

自分の中の何かが警笛を鳴らしていた。

早く逃げろと胸の奥の方から何かが告げている。

クラクラと目眩がするようだった。


「あの……もし良かったら……」


控え気味にアルバイトの店員が絆創膏と清潔なタオル、スリッパを差し出した。

今まで気が付かなかったが、裸足で走ったせいで足のあちこちから血が出ている。足の裏も真っ黒だ。


「あ、すみません……お借りします」

「何か大変でしたね。他に何か欲しいものがあったら言ってください」


ありがとうございますと頭を下げると「ごゆっくり」と店員は会釈を残して席を離れた。

優しさに甘えて足の裏を拭き、血の出ている所には絆創膏を貼った。スリッパに足を通すとやっとホットミルクに口をつける気になった。


「大丈夫?少しは落ち着いたか?」

「うん……ありがとう。そっちはもう大丈夫?」

「後は警察と保健所に任せろだって。どこかでペットとして飼われていたのが逃げ出したんじゃないかって話だ」

「そう……」

「荷物はもう少ししたら警察が持ってきてくれるそうだ。そしたら先にタクシーで帰るか?」


1人になるのが怖くてここで待っていると首を振った。

まだ動揺している優子を落ち着けるように賢治は隣に座ると肩を抱いて引き寄せた。


暫くすると警察が荷物を持って喫茶店に入ってきた。

芝生にそのままになっていたベビーカーからシート、貴重品の入ったバックや投げ散らかした靴やスマホ、一通り確認して受け取った。

投げた衝撃かスマホの画面は割れてしまっていて反応が悪い。

これは修理するか買い換えないと使えない。


「蛇は見つかりました?」

「それがまだ見つからないんですよ。蛇のいたような跡はあるんですけどね。保健所の職員によると木の上にでも隠れてるんじゃ無いかと言うことです」

「早く見つかると良いですね」

「本当に。こんな住宅地で大蛇問題なんて言ったら住民の皆さんはゆっくり生活も出来ないですからね」


人の良さそうな警察官はヤレヤレと額の汗を拭った。

最初は1台だったパトカーもいつの間にか5台まで増え周囲は物々しい雰囲気になってきた。

警察官と入れ違いに保健所と近くの動物園の職員だという男性がやって来た。

どんな色や形だったか幾つか聞き取りをして写真を見せてきた。恐らくどんな蛇だったか同定しようとしているのだろう。

響が起きたので対応は賢治に任せて優子と響は窓際の隣の席に移った。

すっかり冷えてしまったホットミルクを店員が暖かいものと交換してくれた。

その時突然響が泣き出した。そういえば暫くオムツを替えていない。

バックからオムツ替えの袋を取り出しトイレへと立ち上がったその時、甲高いブレーキ音にアスファルトとタイヤの擦れる音をさせ喫茶店にトラックが突っ込んできた。

大きな音をさせ硝子が飛び散る。咄嗟に響を抱え椅子の影に身を隠した。

驚いたのか腕の中で一層強く響が泣いた。

静かになったのを確認し顔を上げると、今まで座っていた席は原型を留めていなかった。

横転したトラックからは運転手の手だけが見える。その手にはドス黒いモヤのようなものが絡みついていた。

そしてガソリンの嫌な匂いが鼻をついた。


「大丈夫か!?」

「ねぇ!何か変なの!!逃げよう!早く此処から!!」

「逃げるってどこへ行くんだ」


周囲から見れば明らかにパニックになっているように見えるだろうが、優子の頭の中は冴えていた。

さっきよりもハッキリとここは危険だと声が聞こえる。


「優子落ち着け!大丈夫だから!」


ガラスで切ったのか賢治の額からは血が流れている。

視界の端でキラキラするものがある。

さっき蛇を見つける前に見たようなものだ。

ジッと見つめると何だか懐かしいような変な感じがした。

これを自分は知っている。漠然とそんな気持ちが湧いてきた。

空を見つめる優子に賢治は怪訝そうな顔をした。

いつの間にか響は泣きやみ優子の見ている辺りで手をバタバタさせている。

2人には何か見えているのだろうか?

賢治が声を掛けようかと戸惑っていると、優子がスクっと立ち上がった。


「此処は危ない、こっちに来いって言ってる……」

「おい優子!?」


何かに導かれるように優子はめちゃめちゃになった店内を出口へと向かっていく。

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