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妖精王の帰還  作者: 若竹丸
プロローグ
2/11

プロローグ2


日曜日の公園は子供連れで賑わっていた。

比較的人の少ない芝生の隅にシートを広げ、響と一緒に腰を下ろした。

響はシートを通して伝わる芝生の感覚に最初は戸惑いを見せたものの、直ぐに楽しそうにシートの上をハイハイし始めた。

風に揺れる草花をジッと見つめたり、時々やって来る蝶々等の虫に手を伸ばして捕まえようとしてみたり、響の目は初めて見る景色にキラキラ輝いていた。


5月の暖かい日差しに揺られ、響は静かな寝息を立て始めた。

シートを木陰に移し、タオルケットの上に寝させる。

あまりにも気持ちよさそうに寝ているので、まだ帰ろうとはどちらとも口には出さずスヤスヤと眠る娘の顔を見ていた。


「幸せだな」

「本当に……」


心地よい風が頬を撫でる。

木漏れ日がキラキラと輝いて見えた。

公園のあちこちから子供の元気な声が聞こえる。もう少ししたら響もあの中に混ざり、子供たちと真っ黒になるまで遊ぶのだろう。

時には喧嘩をしたり、仲直りしたり、いずれ恋をして子供を産んで、今の自分のような幸せを感じる日が来るのだろうか。


「響は将来何になるんだろうなぁこんなに可愛いんだからアイドルとか?」

「感受性が豊かだから芸術家かもしれないわよ」

「いやいや、探究心も強いから学者かもしれない」

「ハイハイも早かったし案外スポーツ選手かも」


親の欲というのは尽きない。これを俗に親バカというのだろう。

二人とも自覚はしているが、それでもこの子には明るい未来しか見えなかった。

そんな親バカ話に花を咲かせていると、ボールが転がってきた。

すみませーんと小学生くらいの男の子が遠くで手を振っている。

よしっと賢治は立ち上がるとそのボールを捕まえ、男の子の方へと蹴り飛ばした。

そんな微笑ましい光景を見ていると、目の端にキラキラと何か光るようなモノを感じた。

まるで鏡で太陽の光を反射させたようなチラチラとする光に、何かなと思いそちらの方を向くと大きな蛇が響に近付いていた。

長さは2m以上、胴体は響の胴体くらいある。大蛇と言って差し障り無い大きさだ。

こんな住宅地の中にこんな大きな蛇がいるなんて信じられず、その非現実な光景に一瞬声が詰まる。

大蛇は鎌首もたげスヤスヤと眠る赤子の頭に近づいていく。そのままでは簡単に丸呑みにされてしまいそうだ。

悲鳴を上げるより早く身体の方が動いた。

手元にあったスマホを投げ、次いで脱いでいた靴、転がっていた石、手当り次第に蛇へと投げつけた。


「け、け、賢治さん!!」


震える声で旦那を呼ぶ。

ただ事では無い声に驚いて賢治が駆け寄ると、大蛇と娘、無我夢中に物を投げ続ける妻の姿が目に入った。


「このっ……!!」


恐怖心より2人を守らないとという使命感が勝った。

大蛇の脇腹に蹴りをくわえると怒った蛇は賢治に鎌首をもたげた。その一瞬をつき優子は響を抱き上げた。


「賢治さん気をつけて!」


賢治は周囲に転がっていた手頃な棒を手にし大蛇へと対峙した。

スポーツといえば夏に海水浴、冬にスキーそれに付き合い程度のゴルフしかしていない。

こんな大蛇に対峙してどう対応して良いかも分からなかったが、ともかく2人を守らなければならないという気持ちしかなかった。


「ともかく逃げるぞ」


ジリジリと後退し大蛇から距離を取る。

腰が引けているのが自分でも分かったが仕方ない。

蛇を中心に円を描くように動き、二人の元へとたどり着く。蛇からの距離は2m以上は離れているだろう。

走れ!と短く指示を出し、2人で蛇に背を向け駆け出した。

多分人生で1番必死に走った時だったと思う。

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