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成人男は、厨二的都市伝説を信じない  作者: めーる
1章 『忘却』の喫茶店
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1章 第5話

 ――その夜……湊人は朝に宣言した通り、会社が終わるなりクリーニング屋へ直行した。


 少しでも早くクリーニング屋へ着こうと、急いでいた湊人の息は切れている。


 そんな息を切らして入店して来るお客に気付いた、クリーニング屋の店主であるオバちゃんは、


「まぁ、そんなに急いで来てどうしたの?」


「はぁはぁ……二日も遅れてすみません」


 額の汗を右手裏で拭いながら、途切れた息で答えた。


 と、オバちゃんが眉を上にあげて、


「よく顔を見れば、湊人君じゃない」


「あ、はい……」


 此処のクリーニング屋は、湊人が十二歳の頃に、よく親に頼まれてお使いに来ていた。

 ……小学六年生の時、親都合で遠くの街へ引っ越す前に結構使っていた、親近感のあるクリーニング屋なのだ。

 だから、クリーニング屋のオバちゃんは、湊人の幼き頃の姿を知っている。

 湊人が大人の姿になり、この街へ戻って来たと知った瞬間は、とても驚いていた。


「……あの、スーツを取りに来たんですけど……」


「わかってるわよ」


 言葉を聞いたオバちゃんは笑みを浮かべると、店の奥へと預かっているスーツを取りに向かう。


 その後、預けていたスーツ三着を全て持って来るなり、


「湊人君も、スーツ姿が似合う男になったわねぇ……」


「あ、どうも」


 湊人の手にスーツが受け渡されても、会話は続く。

 仕事で疲れている身体を家に帰って、今直ぐ癒したいんだが……。


「昔は小さな靴を履いて、よくお店にお使いに来ていた子がねぇ……」


「あ、はい」


 湊人は無理矢理に笑顔をつくって受け答えをする。


「そういえば、湊人君と仲良かった女の子……今は元気なの?」


「え? 僕に、そんな幼馴染みたいな人は居ませんけど……??」


 思わず湊人は首を傾げた。

 不思議そうに首を傾げる湊人を見て、オバちゃんは眉をひそめ、


「覚えてないの? 二人でクリーニング屋へ遊びに来ていたじゃないの」


「すみません……分からないです」


「そう……残念ねぇ」


 オバちゃんは、納得のいかない感じで呟いた。


 湊人は、納得のいかない気持ちを抱きながら外へ出る。


 と、


 湊人の胸ポケット内にあるスマホが鳴った。


 どうやら、誰かから電話が来たらしい。


 スマホを胸ポケットから取り出し、耳にあてると、


『もしもし、愛華ちゃんだけど……』


 早乙女の声が耳に響いた。


「あの、どうしたんですか?」


 湊人が電話先に問い掛けると、


『ごめん』


 突然、謝罪された。


「なぜ急に謝罪を?」


『うん……言いにくいんだけど、明日……デートが出来なくなったの』


「デート? 喫茶店などを探しに行く約束はしましたけど、デートの約束はしてませんよ?」


『うるさい! 同じようなもんでしょ!』


「そうかもしれませんね」


『そうなのよ』


 一旦会話に区切りがつくが、直ぐに、


『んで、明日デートができなくなった理由はね……妹が熱を出しちゃって、看病しなきゃならないのよ』


 早乙女は、高校二年生の妹と二人暮らしだ。


「妹さんの看病頑張ってくださいね……」


『ありがとね』


 その一言を聴き終えると、湊人は通話を切った。


 そして、胸ポケットにスマホをしまおうとしたが……しまわずに、再びスマホの電源をつけて電話帳を開く。


 数秒後、目的の電話番号へ発信をする。


「もしもし……母さん?」


『あら、どうしたの? 湊人?』


 電話先の相手は、遠くの街で父と一緒に暮らしている湊人の母さんだ。


「急に夜、電話してごめん……」


『そんな事で、別に謝らなくても良いのよ』


 夜に唐突な電話を掛けても、怒られたり……メンドくさがられたりしないのは、家族の特権なのだろう。


『そんなことよりも、どうしたの?』


「あ、そうだった」


 母の一言で、本題へ突入する。


「……僕ってさ、幼少期に幼馴染の様な女の子がいたりした?」


『え? いないわよ?』


 少し戸惑ったような吐息が聞こえる。


「だよね」


 湊人が、自分の発言を馬鹿らしく思った時だった。


『……いや、いたかもしれない』


 母親の確定しない言葉に、疑問を感じまくってしまう。


「どういうこと?」


『いやなんかね……。あなたの幼少期頃のアルバムに、毎回同じ女の子が結構な確率で写っているのよ……』


「なにそれ、怖い」


 湊人は心霊写真を見てしまった感覚に陥った。しかし、母は違った。


『別に、心霊写真とかじゃないと思うのよ』


「そうなの?」


『うん……取り敢えず、あなたの家に宅急便で送っとくわ』


「え?」


 幼少期の思い出を汚すような発言だと思うが……よく分からない少女が写る写真アルバムなんて要らない。そんなことを考えているうちに、


『じゃあ、おやすみね』


 と、電話が切られてしまった。

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