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成人男は、厨二的都市伝説を信じない  作者: めーる
1章 『忘却』の喫茶店
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1章 第3話

 ――会社周辺で例のコーヒー店を探すが、目的地へ到達することなく、時刻は夜の九時半を過ぎようとしていた。


 夜ご飯を食べていなければ、お昼ご飯も食べていない湊人の体力は、もう限界だ。

 そして湊人には、とても大切な用事がある。


「あの、早乙女先輩……。僕、クリーニング屋へ行かなきゃならないので、もう帰りますね」


 そんな事を告げられた早乙女は、瞳を見開き驚く様子で、


「か、か弱気乙女な愛華ちゃんを……悪人蔓延る夜街で、一人にするのっ!?」


「それじゃ……家まで送りますか? もちろん、電車賃とかは先輩が払ってください」


「給料日前よ? 私の財布の中身は定期券だけで、お金は少ない」


「じゃあ、僕はクリーニング屋へ行きますね」


 今日、クリーニング屋へスーツを取りに行かなければ、四日連続で同じスーツを着ることになる。


 湊人が呆れ呆れ、早乙女に背中を向けた時だった。


「家泊めて」


「僕を夜這いする気ですか?」


「普通は、逆よね? 男がするもんでしょ?」


 『男がするもん』……そんな言葉が、湊人のプライドを刺激する。


「僕は、そんな事をしませんよ」


「本当?」


「じゃあ今日、家に来てみますか?」


「うん」


 湊人と早乙女は契約を交わした後、とりあえずクリーニング屋へ向かうことにした。


 地下鉄に乗り、湊人の自宅近隣へ到着するなり、クリーニング屋へ歩数を進める。


 と、早乙女先輩が、唐突に湊人の袖先を引っ張って、


「ねぇ、なんか彼処に怪しい小道があるわよ」


「怪しい小道……?」


 湊人は早乙女の指差す方へ視線を向ける。


 其処には、この地区に長く住んでいる湊人でも、見覚えのない薄暗い小道があった。


「ねぇ、ちょっと彼処の道を通ってみましょうよ」


「え……でも……」


 腕時計を確認してみると、針は十時を指している。

 ちなみに、クリーニング屋の営業時刻は、朝八時から、夜の十時半までだ。


 寄り道なんて、している暇は無い。


 湊人が頭を悩ます中、早乙女は瞳を輝かせて、


「ねぇ、早く行きましょうよ!」


「え……」


 困惑する湊人の腕を引っ張って、小道に脚を踏み入れた。


 涼しげな八月晩のそよ風、先程まで居た道から微かに鼓膜へ響く車が走行する音……。

 小道へ足を踏み入れるなり、草木揺れる雑音でさえ美しく感じた。

 それと周辺が草叢の所為か、夜空の星々がいつもの数倍鮮明に目視できる。


 そのまま前方を見つめる形で、視界を星空から進行先へと向けると、薄暗闇の中で淡く光を漏らしている一戸建てな木製建物が目に止まった。


「なんだあれ……?」


 目を凝らしてみると、出入口であろう扉の真ん中に、『開店中』と記された板が吊り下げられているのを確認できる。

 あと微妙に、コーヒーの甘苦い香りが辺りを漂ってきている。


 これらの状況下から、早乙女は目前の建物正体を喫茶店だと推測すると、


「ねぇ……アレ、もしかしたら『幻のコーヒー店』じゃないっ!?」


「だとしても……先輩の財布は、定期券以外……」


「『お金が少ない』とは言っていたけど、『お金が無い』とは言っていないわよ? ……私を誰だと思っているの?」


 早乙女の問い掛けに、湊人はホッソリとした声で、


「最近ネットショッピングで……」


「黙りなさい。それ以上言うと、愛華ちゃんは大声で『痴漢をされた』と叫ぶわよ?」


「分かりました。黙りますよ」


 湊人が『お手上げだ』っと、いった感じでため息を吐いていると、


「あと、貴方に一日に二回もご馳走するほど私は優しくないわよ」


「別に僕は良いですよ……。コーヒーの味とか分かりませんし……」


「それじゃ、一人で飲ませて貰うわね」


 こうして湊人と早乙女は、建物内への入店を決意した。


 約三分ほど費やして、建物前まで到着すると……早乙女は笑みを浮かべならがら、入口ドアノブを手前に軽く引いて扉を開く。


 夜遅く立ち寄った、湊人と早乙女を歓迎するように、


 ――カランコロンッ……!!


 古びたベル音が小さく鳴り響いた後、


「……いらっしゃいませ」


 無地のエプロンを纏う黒目で黒短髪な美女が、お淑やかに二人を出迎える。

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